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床に散らばった卵焼きを見つめたままゆっくりしゃがみこんだ。
拾えばいい。
そう思うのに、指が動かない。
周囲の奴らの口が動く。
その瞬間。
誰かの手が、床に落ちた弁当箱を先に拾った。
「……?」
顔を上げる。
隣の席の男子__さっき自己紹介で笑いを取っていた、あのラフな奴だった。
片膝をついたまま、散らばったおかずを無言で集めている。
周りの男子たちが口を動かす。
からかっているのか、不満なのか。速くて読めない。
でも、そいつだけは気にした様子もなく、床を見たまま眉を寄せた。
それから、わざとゆっくり口を動かす。
「__。」
空気が変わる。
何言ったんだろ。
さっきまで笑っていた男子たちの表情が少し固まる。けれど、すぐに一人が肩をすくめ、大げさに手を振った。
“冗談じゃん”
たぶん、そう言った。
隣の男子は立ち上がる。
「_____」
教室が静かになった気がした。
実際に静かだったのかは分からないけど。
でも、視線だけは痛いほど感じた。
男子たちは舌打ちしたような顔をして去っていく。
残されたのは、ぐしゃぐしゃになった弁当と、妙な空気だけだった。
隣の男子は弁当箱を机に置くと、困ったみたいに頭をかいた。
それからスマホを取り出して、少し打ち込む。
画面を僕に向けた。
『悪い。止めるの遅れた』
目を見開いた。
普通、“かわいそう”な顔をされると思っていた。
気まずそうにされたり、必要以上に優しくされたり。
でもこいつは違った。
本当にただ、“悪かった”と思っている顔だった。
どう返せばいいかわからなくて、小さく首を振る。
気にしてない、のつもりだった。
すると相手は少し笑った。
今度はちゃんと、ゆっくり口を動かす。
「俺、kzh。」
それから、自分の胸を親指で指す。
「k、z、h、」
その口の動きをじっと見る。
読み取りやすいように、ひとつひとつ区切ってくれているのがわかった。
たぶん、初めてだった。
“伝わるように話してくれる人”は。