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ゆゆゆゆ
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カジノの喧騒の中。
エリオットは立ち止まった。
「……いた」
視線の先。
黒いスーツ。
見間違えるわけがない。
チャンス。
「……」
一瞬だけ、躊躇い。
でも、それはすぐに消える。
まっすぐ歩く。
逃げ場を与えない距離まで。
「――探した」
低く言う。
チャンスの肩が、わずかに揺れた。
「……なんで来た」
振り返らずに、そう返される。
「分かるだろ」
「分かるかよ」
冷たい声。
昨日とは、まるで違う。
「……帰れ」
「は?」
「お前、ここにいちゃダメだ」
淡々とした声。
でもその奥に、わずかな苛立ちが混ざる。
「理由くらい言えよ」
「言う必要ねぇ」
即答。
その冷たさが、逆に刺さる。
「……っ」
エリオットの眉が寄る。
「なにそれ」
一歩、詰める。
「やることだけやっといて、はい終わりって――」
「終わりだよ」
遮る。
きっぱりと。
迷いなく。
「……」
空気が、凍る。
チャンスは視線を逸らさない。
「最初からそういうつもりだった」
「……嘘つけ」
「嘘じゃねぇ」
そのまま続ける。
「お前とは、それ以上でもそれ以下でもねぇ」
言葉が、鋭く落ちる。
「一晩の気まぐれだ」
「……っ」
エリオットの手が、わずかに握られる。
「なかったことにしろ」
それだけ言って。
本当に、去る。
引き止める間もなく。
「……」
人混みに紛れて、消える。
追えば、追える距離だった。
でも――
「……はは」
足が動かない。
「そういう感じね」
また同じ言葉。
でも今度は。
少しだけ、空っぽに近い。
「……了解」
小さく呟く。
納得したわけじゃない。
ただ。
理解しただけ。
「……終わり、ね」
***
そのまま、帰らなかった。
帰る理由も、なくなった。
「……」
席に座る。
チップを置く。
何も考えないように、カードを見る。
(どうでもいい)
勝っても、負けても。
どっちでもいい。
そんな投げやりな感覚。
「そんな格好で来てるの?」
隣から、軽い声。
「浮いてるよ」
ラフなパーカー姿。
確かに、この場所では目立つ。
「……別に」
エリオットは視線も向けない。
「関係ない」
「強気だね」
男が笑う。
スーツを着こなした、いかにも慣れてるタイプ。
「初めて?」
「……さあ」
「まあいいや」
肩をすくめる。
「一人でやるより、誰かと遊んだ方が楽しいよ」
チップを指で弾きながら。
「一緒にどう?」
「……」
少しだけ、考える。
ほんの数秒。
頭の中に浮かぶのは――
さっきの言葉。
“一晩の気まぐれ”
エリオットは、ふっと笑った。
「いいよ」
自分でも驚くくらい、軽く。
「遊ぼ」
男の目が、少しだけ細くなる。
「いいね」
席を移る。
バーの方へ。
距離が、近づく。
触れられても、避けない。
「さっきから、いい顔してるよ」
「……そう?」
「うん」
グラスが渡される。
一口飲む。
味なんて、よく分からない。
(どうでもいい)
全部。
どうでもいい。
「……」
でも。
心のどこかで。
少しだけ。
ほんの少しだけ。
“違う”って分かってる。
「……まあ、いいか」
小さく呟く。
聞こえないくらいの声で。
男の手が、肩に触れる。
そのまま、距離を詰めてくる。
エリオットは、避けない。
「……」
ただ、目を閉じる。
一瞬だけ。
――何も感じないふりをするみたいに。