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麗太
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私はのんびりと一歩前に出た。
砂利がザクザクと音を立てる。
「んじゃ、視界潰してボコるか」
私は口の端を上げてニヤリと笑った。
グラ男がこっちを睨んでいる。
うん、いい感じに警戒しているな。
「まずはコレ!《墨ブレス目潰し》ぇぇ!!」
ブシュゥゥゥ!!
黒墨が奔流のように口から吐き出される。
「フンッ! こんなものかき消すわ!」
ちっ、翼をバサッと羽ばたかせやがって。
紫色の風圧で私の墨が霧散していく。
『全然効いてないじゃないの!』
「ふーん、じゃ次」
私は胸を張って、勇者っぽいポーズを取ってみせた。
「勇者の自覚ゼロだけど、勇者スキル☆《フラァァッシュ!》」
バァァァァァン!!
全身から爆発的な光が放射される。
洞窟全体が一瞬、真昼の太陽みたいに真っ白に染まった。
「ぎゃああ! 目がァァ! ……だが……瘴気でまだ……ぐぬぬ……!」
よし、効いてる効いてる。
「おおっ! 久しぶりの勇者の光!」
『え!? 光魔法!? サクちゃん、勇者なの!?』
「はい! 卑怯三段活用、KPI達成の最短ルートいくよ?」
私は懐から小袋を取り出す。
「《常備目潰し☆スペシャルブレンド》ぉぉ!」
ジャラッ!
袋をブンッと振ると、中身がキラキラと舞い散る。
塩・砂・唐辛子が混じった粉末が宙を舞い、グラ男の顔面にドンピシャでぶち当たった。
「な、なにぃ!? 目が……辛っ……痛ぇぇぇ!!」
「はい! 直撃いただきましたー!」
『それ持ち歩いてるの!?』
「いつもコソコソ何か作ってるかと思えば、目潰し……」
ゲラゲラゲラ……!
私は大口を開けて笑った。
「ほら? まだあるかもよー?」
余裕たっぷりに笑った、その瞬間──。
「喋りすぎだ、小娘」
闇の中から、低い声。
ドガァァァンッ!!
「ぐっ……!」
何かが、横から叩き込まれた。
殴られた?
違う。
蹴り?
違う。
軌道が読めない。
──何をされたのか、わからない。
体が地面を転がる。
肺が潰れて、息が抜ける。
「が……っ、は……」
視界は真っ暗。
音と衝撃だけが現実を殴ってくる。
「貴様は“見えているつもり”で戦っている。
──それが、隙だ」
ギリ、と歯を食いしばる。
やばい。
今の、完全に“何も理解できてない”。
ドガァァァン!!
「ぐっ──!」
もう一発、今度は背後から。
地面に叩きつけられる。
視界が跳ねる。
立てない。
体が言うことを聞かない。
──肋骨、いったか
(……やばい)
背骨がビキッと鳴り、肺の空気が一気に吐き出される。
口の中が鉄の味でいっぱいになる。
一瞬、視界が真っ白になって、耳がキーンと鳴り続けている。
『サクちゃん立って!! 来るよ!!』
「サクラ殿!!」
「動けぬなら、そのまま砕け散れェェ!!」
──私は崩れた岩をガラガラと払いのけて立ち上がる。
膝がガクガクする。背中が痛い。でも、まだ戦える。
「……っは……っは……へぇ……やるじゃん、グラ男。
なんとか鉱物化が間に合って致命傷で済んだわ」
「「それ死にかけてる!!」」
ユズリハと辰夫の声がハモった。
私は口の端から流れた血を手の甲で拭い、ニヤリと笑う。
痛みが逆に気持ちいい。燃えてきた。
……鉄の味。
血に混ざる“酸味”。
──思い出した。
あの絶望の酸味……!
──その時、私のこめかみがピクッと跳ねた。
「──なら、こっちも本気出すわ」
……キィィイイイイイン!!!!
「私の唐揚げに触った罪は万死に値する!」
【スキル:《怪力》──飲み会で唐揚げにレモンかけられたモード】発動!!!
──ッゴオオオオオ!!!!
全身がバキバキと軋み、筋肉が膨れ上がる。
踏みしめた地面に、蜘蛛の巣のようなひびが走った。
《天の声 : 大好きな唐揚げにレモンをかけられたことを思い出すことによる怒りのバフ。通称”思い出し八つ当たり”。サクラの力が3000%アップする。原理? 知らん。サクラだからだ》
その瞬間、あの日の記憶が蘇る。
……前世の部署の飲み会。
揚げたての唐揚げが来た、その瞬間──。
「みんな好きでしょ〜♡」と、全レモンぶっかけた、あの女。
ピキィィィィッ!!
──私の幸せが、酸味で……塗りつぶされた。
「ねぇ? なんで? ねぇ?」
私は地面を見下ろして、ゆっくりとつぶやく。
ギリッ……。
「確認した? “全員レモン派”って、確認したかって聞いてんだよぉ!!」
シュッ……ドォオオオオオンッ!!
音速で拳を地面に叩きつけた瞬間、ドーム型の衝撃波が炸裂!!
大地が唸り、土が跳ね、奈落の底全体が激しく揺さぶられる──!
『……あれ? 戦闘中よね?』
「……唐揚げの話をしてますな……」
「小娘!? 何を言っている?」
ユズリハと辰夫、そして魔神族のグラ男までもが、戦闘を忘れて困惑のざわめきを漏らした。
「唐揚げってさ? 夢なんだよ……希望なんだよ……?」
私は涙目でグラ男を睨みつける。
『泣くほど悔しかったらしい!!』
「人としての器、ちっさ!!」
ユズリハと辰夫が同時に叫んだ。
「これだけじゃない!《怪力》……進化版、いくぞッ!」
「むぅ!! ここで出すのですな!!
この奈落を彷徨って進化したスキル、怪力!
──それは、スキルにも怪力を付与可能!!」
辰夫が謎の解説役モードに入った。
「まずは糸スキル強化のー? はい出ましたぁ!《サクラさん☆スペシャル糸》!!」
ズルルルル……!
口から糸を伸ばす。でも今度の糸は違う。
真っ赤に光って、ギチギチと金属のような音を立てている。
糸が蛇のようにうねって、闇の中にいるグラ男の手足に巻きついた。
ミシミシミシ……!
「ぐぬぬぬっ!? 動かん……!」
グラ男の巨体が糸に引っ張られて、岩床にめり込んでいく。
『名前ゆるいのに威力ガチ!!』
「スペシャルな姑息さですな……!」
「その糸、筋力で強化してるから! ふはははは!!」
もがいてるグラ男が可愛く見えてきた。
「これでガードも受け身も取れないよ? 大変!! どうするのぉ?」
「おのれ小娘ェェ!! 姑息ィィ!!」
「命の取り合いしてんだろ? 姑息? 正々堂々? そんなもん勝った奴が暇な時に言えばいいんだよ!」
そうよ。
生き残った者だけが正義を語る資格がある。
それが現実ってもんでしょ。
「次ぃ!!行くぞッラァーッ!!
鉱物化×体温調節×怪力……全部盛り!」
「ノリで発動したら大火傷して、のたうち回って実験失敗した博士みたいな髪型になったアレをここで!?」
辰夫が早口で戦慄する。
そう、あの時は制御できずに自爆したけど、今度は違う。
ゴゴゴゴゴ……!!
洞窟の空気が一気に熱を帯びる。
「《怪力:ヒートブースト》ッ!!」
輻射熱で周囲の霧が一瞬で乾く。
右腕だけが別物のように赤く輝き、近づいた瘴気が焼けてパチパチと弾けた。
『やばい! サクちゃんから熱波出てる!!』
「これは……サウナ!?」
「──ヒートパンチ!!」
ズガァァァァァンッ!!
ジュッ!!
赤熱した右拳が、グラ男の胸板に突き刺さる。
岩壁がドーム状に膨れて、爆発的に崩れ落ちる。
洞窟全体が白い蒸気で包まれた。
「ぎゃあああああ! 熱っ! 熱いィィィ!!」
「ぎゃあああああ! 熱っ! 熱いィィィ!!」
グラ男と同時に私も叫ぶ。
『自分まで焼けるのー!?』
ユズリハが叫ぶ。
「熱いよぉおおおおお!!」
でも、私は歯を食いしばる。
髪の毛先からジリジリ音がしている。
「美容師の悲鳴が聞こえる攻撃……!」
辰夫が遠い目。
「……ふぅ……私は止まんねーぞ!!」
私は縛られて受け身も取れないグラ男に、灼熱の拳を雨のように降り注がせた。
ドガッ! ズガァァァン! バキィィィ!!
「熱ぃ!! 熱いよ!! やめたいよぉおおお!!」
「ぐわぁぁぁぁ! ガハッ!! ゲハッ!!!」
「どっちがやられてるのかわかりませんな……!」
『サクちゃんの方が悲鳴でかいんだけど!?』
ドガッ! ヴィヒューン!
「音がヴィヒューンってしてる! 完全にロウリュ!!」
『今アロマオイルかけた? いい匂いするんだけど!?』
最後の一撃を叩き込んで、息を切らしながら拳を下ろした。
腕から湯気がまだ立ち上っている。
グラ男の巨体からは瘴気が滲んで、肉片が崩れ落ちていく……。
「……フ、フハ……。貴様……面白い娘だな……
千年ぶりに……笑ったわ……
ひと足先にあの世のサウナで……待ってるぞ
…………唐揚げには……レモンをかけるな……ぐふッ」
「……へぇ? グラ男、お前とは違った形で出会いたかったわ」
息を整えながら、私はグラ男の灰を見下ろした。
*
「よし勝った! 水風呂入って整えたい!」
『サウナかよ!!』
ユズリハが的確にツッコむ。
『サクちゃんのこの“性格”……』
──沈黙。
『もし千年前にこの性格があったら──今ごろ、世界はもう少しうるさくて、少しだけ優しかった──』
『──そして、たぶん今よりずっと面倒くさかった』
ユズリハは、ポツンと呟いた。
(つづく)