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ー数十分後。
検査結果の紙を見つめたまま、飛彩はしばらく口を開かなかった。
数値は、もう疑いようがない。
血液像。
骨髄の所見。
芽球の割合。
どれを取っても
――結論は同じだった。
医師として、結果は理解している。
だが同時に
――仲間としては認めたくなかった。
CRで何度も並んでオペをした。
命を預け合った仲間。
その永夢が、こんな形で倒れるなんて。
飛彩はゆっくり息を吐く。
だが、すぐに表情を戻した。
――医者は、事実から逃げない。
飛彩は重たい口を開いた。
「…検査の結果、急性白血病の可能性が高い」
ベッドの上の永夢を見る。
青白い顔で、かすかにこちらを見上げている。
永夢が震える声で言った。
「……え……。嘘、ですよね」
「一応検査するだけだ……って」
その言葉に、飛彩の指がわずかに止まる。
ほんの一瞬だけ、視線を落とした。
だが次の瞬間、静かに口を開く。
飛彩の声が低く落ちた。
「……俺は嘘はつかない」
わずかな沈黙。
そして、はっきりと言う。
「……急性白血病だ」
その言葉が、静かな検査室に重く落ちた。
その言葉が、病室に重く沈む。
永夢の視界が揺れた。
心電図の電子音が、やけに遠く聞こえる。
「……僕が……?」
指先が震える。
胸の奥がざわつく。
――この感覚。
――知っている。
あの時と同じだ。
ー宝生永夢ゥ!!
ー君が世界で初めて…
ーバグスターウイルスに
ー感染した男だからだああああああぁぁぁ!!!
檀黎斗にそう告げられた、あの日。
足元が崩れ落ちるような感覚。
その瞬間、永夢の呼吸が乱れた。
「……嘘、ですよね」
かすれた声だった。
「だって……僕……医者ですよ」
震える声が、途切れ途切れに落ちる。
「僕、患者さんを助ける側で……」
言葉が続かない。
「……そんな……」
手が震え始める。
点滴のチューブが小さく揺れた。
「……ありえない……」
永夢はゆっくりと首を振る。
信じない。
信じたくない。
「だって僕……まだ……」
呼吸が浅くなる。
胸が上下するたび、空気がうまく入らない。
「患者さん、いっぱいいて……」
声がかすれる。
「CRだって……」
言葉が崩れた。
「僕が……白血病……?」
呟くような声。
まるで他人の話を聞いているようだった。
胸を押さえるように体を丸める。
「やだ……」
「……そんなの……」
その時だった。
ピッ――
モニターの波形が一瞬乱れる。
飛彩の視線が鋭く動く。
「……?」
心電図の電子音とは違う、不規則なノイズ。
そして――
永夢の胸元。
かすかに何かが光った。
「……っ」
永夢の体がびくりと震える。
次の瞬間――
「わああああああああああ!!!」
永夢が叫んだ。
体が大きく反り返る。
モニターのアラームが鳴り響いた。
「エム!」
貴利矢がとっさに肩を掴む。
その瞬間。
永夢の胸元から――
白濁色のモヤが、ふっと噴き出した。
「……っ!」
飛彩の目が鋭くなる。
モヤは煙のように揺れながら、永夢の体の周囲へ広がっていく。
まるでデータの粒子が漏れ出しているようだった。
「……ゲーム病」
飛彩が低く呟く。
貴利矢が顔を上げる。
「発症したのか……?」
白いモヤは断続的に溢れ出る。
飛彩は即座に永夢に向けてスコープを向けて診断を試みる。
しかし、モニターにはいつもの数値ではなく
――Nodata
と表示された。
「……やはり……新種か……」
永夢の体が小刻みに震えた。
「……っ……あ……」
苦しそうな声。
呼吸がさらに乱れる。
モニターの心拍数が上昇する。
飛彩がすぐに指示を飛ばす。
「バイタル維持!」
「酸素投与!」
しかしその間にも、モヤは止まらない。
永夢の指先が震える。
視界が揺れる。
音が遠くなる。
胸が苦しい。
息が吸えない。
「……っ……」
声にならない息。
体が重い。
「エム!」
貴利矢の声が強くなる。
「おい、エム! 聞こえてるか!」
永夢はかすかに瞬きをする。
視界が揺れる。
ぼやけた二人の姿が、にじんで見える。
「小児科医!」
飛彩の声。
いつもの冷静な声より、わずかに強い。
「意識を保て」
呼吸が浅くなる。
空気がうまく吸えない。
胸が、ぎゅっと締め付けられる。
「……っ……」
声を出そうとする。
でも、出ない。
音が遠くなる。
水の中に沈んでいくみたいに。
「エム!」
貴利矢が肩を支える。
「しっかりしろ!」
「小児科医!」
飛彩が呼ぶ。
だが――
永夢の瞳は、もう焦点を結ばない。
視界の端が暗くなっていく。
「永夢!!」
二人の声が重なる。
でも――
永夢の耳には、もうほとんど届かない。
音がかすれる。
途切れる。
「……エ……」
貴利矢の声。
それが最後だった。
まぶたが、ゆっくり落ちる。
光が消える。
そして。
ふっと。
永夢の意識が、落ちた。
――静寂。
白いモヤは、ゆっくりと薄れていく。
検査室に、モニターの電子音だけが残った。
飛彩が永夢を見下ろす。
青白い顔。
浅い呼吸。
そして、完全に力の抜けた体。
次の瞬間、表情を引き締める。
「監察医」
低い声。
視線は永夢から外さない。
「小児科医を――」
一瞬、言葉が止まる。
そして言い直した。
「……患者を、死なせるわけにはいかない」
貴利矢が頷き、答える。
「ああ、当然だ。」
永夢は個室へ運ばれ、そのまま入院となった。
点滴。
モニター。
酸素。
すべてが接続され、静かな電子音だけが病室に響く。
ベッドの上で、永夢はまだ目を覚まさない。
その頃――
CRの作戦室。
重い空気の中、メンバーが集まっていた。
大我とニコはモニター越しに参加している。
貴利矢が腕を組んだ。
「で、状況は?」
飛彩が端末を操作する。
モニターに、永夢の検査データが表示された。
「小児科医は現在、意識不明」
淡々と説明する。
「急性白血病の疑い」
「さらにゲーム病を発症している」
ニコが顔をしかめた。
「はぁ!? 最悪じゃんそれ!」
大我が低く言う。
「……あの針だな」
モニター越しの視線が鋭くなる。
「レウコイドの攻撃」
飛彩が頷く。
「奴の針から、何らかの因子が注入された可能性がある」
貴利矢がため息をつく。
「つまりエムは」
「白血病とゲーム病、両方抱えてるってわけか」
沈黙が落ちる。
ニコがぼそっと言った。
「……詰みゲーじゃん」
しかし大我が低く言った。
「まだ終わってねえ」
モニター越しに身を乗り出す。
「原因があいつなら」
視線が鋭くなる。
「まずレウコイドをぶっ潰す」
貴利矢が頷く。
「まあ、結局そこに戻るよな」
飛彩が画面のデータを見つめる。
そこには、敵の名前。
LEUCOID
飛彩の目がわずかに細くなる。
「……レウコイド」
小さく呟く。
貴利矢が眉を上げた。
「どうした?」
画面を指差す。
「奴の名前」
一拍の沈黙。
そして低く言った。
「――“Leuco”」
「白血球を意味する言葉だ」
ニコが目を見開く。
「え……」
大我が舌打ちする。
「……なるほどな」
貴利矢も顔をしかめた。
「つまり」
飛彩が結論を言う。
「奴の名前そのものが」
一瞬、言葉を切る。
「……白血病を示している」
CRの空気が、さらに重くなる。
ニコが不安そうに画面を見る。
「でもさ、それにしてもおかしくない?」
「発症してから、まだそんなに時間経ってないじゃん」
飛彩が端末のデータを見つめた。
永夢の血液検査。
骨髄検査。
バイタルログ。
すべてを確認する。
そして、低く言った。
「……進行が早すぎる」
CRの空気がわずかに張りつめる。
飛彩は画面から目を離さない。
「通常の白血病なら、ここまで急激には悪化しない」
指でデータをスクロールする。
「今日一日で――」
一拍。
「ここまで状態が崩れるのは異常だ」
沈黙。
CRの空気が重く沈む。
貴利矢が小さく息を吐いた。
「だったらやることは一つだな」
視線を上げる。
「レウコイドを見つけて」
低く言う。
「さっさと倒す」
しらすのお部屋