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ーー暗闇。
永夢の意識の中。
永夢は膝を抱えて座り込んでいた。
「……僕が……白血病……?」
声はかすれ、肩が小さく震えている。
その様子を、少し離れた場所から誰かが見ていた。
「……はぁ」
深いため息が、静かな空間に落ちる。
永夢の前に、影が立った。
「…永夢」
永夢は呆然と見上げる。
「……パラド……?」
「らしくないぞ、永夢」
永夢は顔を下ろした。
しばらく沈黙が落ちる。
やがてパラドがゆっくり口を開いた。
「めんどくせぇな」
少しだけ口角を上げる。
「……わかった」
パラドは肩をすくめた。
「今回は俺に任せとけ」
指で外の世界を指すように軽く振る。
「だから、ちょっと寝てろ」
「その間は――俺がやる」
――外の世界。
病室に永夢が眠っている。
その様子を飛彩と貴利矢が見守っている。
病室のモニターが規則正しく電子音を刻んでいる。
ベッドの上で、永夢の瞼がわずかに動いた。
貴利矢がすぐに気づく。
「……エム?」
瞼がゆっくりと持ち上がる。
ぼんやりと天井を見つめたあと、永夢は静かに息を吐いた。
「……はぁ」
その声は、どこか落ち着いていた。
貴利矢が身を乗り出す。
「おい、大丈夫か?」
永夢はゆっくりと顔を向ける。
そして、にやりと笑った。
「心配すんなよ、俺は平気だ」
その瞬間、飛彩の目が細くなる。
「……違うな」
低い声。
「お前は――」
一拍。
「パラドか」
永夢の口元がさらに歪む。
「正解」
軽く肩をすくめる。
「さすがだな、ブレイブ」
貴利矢も一歩前に出る。
「おい、永夢はどうした!」
パラドは面倒くさそうに息を吐いた。
「安心しろ」
そして胸を軽く叩く。
「ちゃんとここにいる」
少しだけ真面目な顔になる。
「今は休ませてやれ」
飛彩が鋭く聞く。
「どういうことだ」
パラドはベッドの背にもたれながら言った。
「さっきのだろ」
「白血病とかいうやつ」
少し眉をひそめる。
「精神的ダメージがでかすぎた」
肩をすくめる。
「このままだと、またゲーム病が暴れる」
貴利矢が低く言う。
「だから、お前が出てきたってわけか」
パラドは軽く笑った。
「そーいうこと」
その言葉のあと、CRに短い沈黙が落ちる。
飛彩の目が、わずかに細くなる。
そして脳裏に、強くよぎる。
(……俺のミスだ)
患者への告知。
それは、最も神経を使う瞬間だ。
精神状態。
身体状態。
すべてを考慮しなければならない。
それなのに。
(なぜ忘れていた……)
永夢は普通の患者ではない。
かつて。
自分がゲーム病だった時。
あの時の精神的ストレス。
あの崩壊寸前の状態。
しらすのお部屋
(……こいつは、ストレス耐性が極端に低い)
それを、飛彩は知っていたはずだった。
それなのに。
結果を、そのまま突きつけた。
飛彩の拳がわずかに握られる。
(患者への報告はもっと慎重にするべきだった……)
視線の先。
ベッドの上の永夢――いや、パラド。
飛彩は低く呟いた。
「……俺の判断ミスだ」
ゆっくりと視線を上げる。
ベッドの上。
そこにいるのは永夢。
だが、その目の奥にあるのは
――別の存在。
飛彩は静かに言った。
「……それについては感謝する」
パラドがわずかに眉を上げる。
飛彩は続けた。
「だが、お前は分からないのか」
点滴につながれた腕を見下ろす。
青白い顔色。
弱った身体。
「その身体は永夢のものだ」
低い声。
「血液データは最悪だ。貧血も血小板減少も進んでいる」
CRの空気が張り詰める。
「今の状態で無理をすれば、命の保証はできない 」
貴利矢も腕を組みながら言う。
「大先生の言う通り。永夢の体、もうボロボロなんだよ」
ベッドの上の永夢――パラドが、小さく息を吐く。
「……ほんと、人間ってやつは面倒だな」
自分の手をゆっくり持ち上げる。
細く、力のない指。
「こんな身体でよくやってたな、あいつ」
少しだけ視線を落とす。
「……でもよ」
肩をすくめる。
「今回は俺が出てきてやっただろ」
貴利矢が言う。
「ストレスから守るため、か」
パラドは軽く笑った。
「そーいうこと」
しばらくの静寂。
「でもな、」
「永夢は簡単に折れるやつじゃない」
にやりと笑う。
「俺が一番知ってる」
そしてベッドに身体を預ける。
「安心しろ」
目を閉じながら言う。
一拍。
「永夢のためだ」
「今回は大人しくしてやる」
飛彩が短く言う。
「そうしてくれ」
永夢の身体が静かに力を抜いた。
次の瞬間――
意識が沈んでいく。
黒い空間。
ゲームフィールドのグリッドのような床がどこまでも続いている。
永夢はその中央に立っていた。
呼吸が浅い。
胸の奥がざわつく。
「……白血病」
自分で口に出した瞬間、言葉が現実味を帯びる。
医者として知っている病名。
患者に説明してきた病気。
――でも、今回は違う。
それが 自分の体に起きている。
永夢はうつむいた。
「……なんで、僕が……」
そのとき。
「またその顔かよ」
背後から声がした。
振り返る。
そこに立っていたのは――パラド。
腕を組み、少し呆れたように笑っている。
永夢は目を伏せたまま言う。
「……笑い事じゃないよ」
「分かってる」
パラドはあっさり答える。
そして少し歩み寄る。
「お前が今、めちゃくちゃビビってるのもな」
永夢の肩が小さく揺れる。
「……医者なのにさ」
「関係ないだろ」
パラドは即座に言った。
しばらく沈黙が落ちる。
そしてパラドは永夢の前で立ち止まり、少しだけ真面目な顔になる。
「俺はお前。お前は俺だ」
永夢がゆっくり顔を上げる。
パラドは続けた。
「お前の心も、気持ちも……俺がいちばん分かってる」
ほんの少しだけ視線を逸らしながら、パラドは鼻で笑った。
「怖いんだろ」
永夢は何も言えない。
パラドはため息をついた。
「でもな」
そして、永夢の肩を軽く叩く。
「お前、今までどんだけ無茶してきたと思ってんだよ」
「……」
「ゲーム病だって、何回死にかけた」
「……うん」
「それでもちゃんと生きて戻ってきただろ?」
永夢は少しだけ目を伏せる。
パラドがニヤッと笑う。
「な、永夢」
少し間を置いて、パラドは続けた。
「だから今回も同じだ」
「……」
「逃げんな」
パラドは軽く顎をしゃくる。
「戻れよ」
「……」
「お前の仲間、めちゃくちゃ心配してるぞ」
永夢は小さく息を吐いた。
そして、うなずく。
「……分かった」
視界が、ゆっくりと白く崩れていく。