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「お姉様お帰りなさい」
「ただいま、トワイライト~はぁ、疲れたあ」
「ふふ、お姉様ったら甘えん坊なんですから」
と、まんざらでもない様子で抱き付いた私の頭を撫でるトワイライト。それはもう、嬉しそうな表情が見えた。本当に幸せそうに私の頭を撫でるトワイライトを見ていると、口に出したように、癒やしだなあと思うと同時に、この妹を一生守っていこうという気になる。
私よりもさらさらな髪の毛が、私の銀色と絡まって、金と銀が合わさった髪の毛はどんな宝石よりも輝いて見えるだろう。さすがは、ヒロイン。さすがは、私の妹。
妹が良い子でよかったと、前世で甘えさせてあげられなかった分、今世では沢山甘やかしてあげようとも思った。
トワイライトは、私をギュッと抱きしめると、スンスンと匂いをかいできた。くすぐったいような、恥ずかしいような気持ちで一杯になって、はなれようとすれば、離さないからとさらに強く抱きしめられる。彼女の細い腕からは想像できないぐらい抱きしめられるので、少し驚いてしまう。
「と、トワイライト、苦しいかも」
「お姉様から離れたくありません」
「私が、窒息死しちゃう」
たまに、こうやって独占欲強いところを見せてくるけど、可愛い妹だと思っている。そんな妹は、混沌や、女神のイタズラからも解放されて、自由になったわけだ。それでも、私と一緒にいたいからという理由で聖女殿にいる。恋人の一人や二人……(二人いたらいやだが)見つけてほしいものだと思った。そりゃ、ちょっと悲しくはなるけれど、トワイライトに恋人がいたらって、想像してしまう。きっと、トワイライトにいったら「お姉様が一番です」っていいそうだけど。
私は、一人そう考えて苦笑すれば、それに気づいたのか、トワイライトは「どうしたんですか?」と聞いてくる。
「ううん、ちょっと想像しちゃって」
「何を?」
「秘密」
私がそう隠せば、彼女は私の肩に手を置いて、真剣な表情で「隠し事はなしです」といってくる。別に隠しているわけではないが、機嫌を損ないたいわけじゃないので関係無いことだから、と話を切り上げた。彼女は不満そうに頬を膨らましていたが、それもまた可愛いなと思った。
「それで、どうだったんですか?アルベド・レイ様のこと、とか。他にも色々話してきたんですよね」
「うん。そうだね……まあ、まずは、ヘウンデウン教の残党が何かしようとしているって事だけは、リースに伝えたかな」
「ヘウンデウン教の残党」
トワイライトからしたら思い出したくもない思い出かも知れないと思った。一時期とはいえ、彼らに混ざって、世界を滅ぼそうとしていたから。
トワイライトは一気に暗い顔になって俯いてしまった。そんなかおをさせたかったわけじゃないのに、と私は彼女の肩を抱く。過ぎてしまったことは仕方ないし、過去が消えるわけじゃないけれど、前を向いて生きて欲しいと思った。思い出すのは時々でいい。
そんなこと言ったら、ラヴァインはどうなんだ、彼の罪はどうなんだと言う話になってしまうけど、あれはあれ。これはこれである。
妹に甘いといわれればそうかも知れないが、彼女は完全に洗脳されていたのだから。
「思い出さなくて良いの。トワイライト、大丈夫だからね」
「ですが……」
「もう、終わったことだし」
と、口に出してはみたが、終わったことであれば、こんなこと思う必要がない。こんなことを思わなければならないのは、ヘウンデウン教の残党が何かしでかしているから。
終わったこと、過ぎ去ったことと言えるのは、まだ先のようだった。
トワイライトは、ふうと息を吐いて、呼吸を整えたあと真っ直ぐと私を見る。淀みのない純白の瞳を見ていると、心が洗われるような気がする。
「私も、何か手伝えることがあれば手伝いますから」
「ありがとう。でも、無理しなくていいよ。また、辛い思いさせちゃうかもだし」
「そんなことありません。私は、お姉様の力になりたいですし、贖罪だと思って。私にもやれることはあるはずです」
と、トワイライトはいってきたのだ。
確かに、彼女の力を借りざるを得ない状況にもなるかも知れない。でも、彼女は戦闘を経験していないし、これからまた戦いが過激化するのであれば、私は彼女を巻き込みたくない。それは、私のエゴかも知れないけど。
トワイライトの気持ちも無碍に出来ないし。
少し考えて、私はもう一度彼女を見た。彼女も頑固なところがあって、私に似ている。姉妹だもんね。と私は笑って分かった、と口にする。
「そうね。お互い協力しよう」
「はい、お姉様」
いい笑顔で返してくれたトワイライト。この笑顔を守りたい。だから、早くヘウンデウン教が何をしようとしているのか探って、アジトを突き止めないといけない。
アジト……ラジエルダ王国だろうかと、今帝国の騎士達が血眼になって探してくれているようだったが、収穫はないらしい。一応、ラヴァインも一度家に戻ってみたが、そこがアジトになっている可能セはいないようだった。
というか、ラヴァインに関しては、久しぶりに戻ったため、警戒されたり、驚かれたりと忙しかったとか何とか。まあ、それはそれで、自業自得なのだが。
「それで、お姉様、睡眠は改善されましたか?」
「え?」
「ほら、言っていたじゃありませんか、寝付きが悪いって。私が一緒に寝ましょうかっていったとき、大丈夫だって断って……私、心配だったんですよ」
そういって、トワイライトは私の顔を覗き込んだ。
そういえば、トワイライトに寝付きが悪いってことは言った気がする。悪夢を見るから、という理由はいわなかったけど、トワイライトはずっと気にしていてくれたらしい。
このことを、言うべきかいわないべきか迷っていたのだ。
(今回の敵がエトワールだって知ったら、トワイライトはどんな顔するか分からないし、また彼女を悩ませてしまうかも)
そう思うと、いおうと思っても言い出せなかった。それが、彼女を今回の件に関わらせたくない理由の一つでもあった。
トワイライトは、心配そうに私を見つめて、何かあるなら言って下さいと、目で訴えかけてきていた。
そうやって気にかけてくれる人が一人でもいると、本当に心が救われる。でも、それ以上に巻き込みたくないっていう気持ちが強くなってしまうのだ。
「……」
「お姉様」
「トワイライト……」
「言って下さい。言ったじゃありませんか、隠し事はなしだって。隠されるの、悲しいです。お姉様が、私のことを思って、黙っているって言うのは分かります。巻き込まないようにって、気にしてくれているのも分かっているんです。でも、私だって弱くありません。お姉様の力になれます。ですから、どうか、教えて下さい」
と、トワイライトは私の手をギュッと握る。彼女の手は震えていた。それは、怖いからじゃなくて、自分の無力さや、信頼して貰えない悲しさから来ているものだと思った。
(巻き込んでも良いの?本当に?)
私は、自分に問いかける。
巻き込みたくないっていう気持ちと、助けて欲し言って言う気持ちがせめぎ合う。
人を頼るって私にとっては難しいことだった。リースほどではないけれど、アルベドほどでもないけれど、人間不信で、勿論、トワイライトを信じていないわけじゃない。でも、身体が拒絶してしまうのだ。人を頼ることを。
彼女がどれだけ温かい言葉をかけてくれていても、今回の問題が問題なだけに、切り出せなかった。
「ありがとう。トワイライト。また、話そうって思ったときに、話すね。気持ちは本当に嬉しい。ありがとう」
「お姉様……そうですか、待ってますね」
と、彼女は優しく微笑んだ。
嘘をついたような気持ちになって、胸が締め付けられる。苦しかった。でも、これでいいと思った。大切な妹を守る為に。そして、私を大好きだといってくれる彼女の為に、私はエトワールと向き合わないといけないと思った。
きっと、トワイライトは敵がエトワールだと知ったら動けなくなるだろうから。そうなって、あっちのエトワールに慈悲の心がなかったら? トワイライトはまた、利用されて強い舞うかも知れない。彼女の綺麗な心だけは、私が守ろうと思った。
だから、これは優しい嘘。
(ごめんね、トワイライト。私は、まだアンタを頼れそうにない)
私の心に余裕があったら、私がもっと強かったら、彼女に頼れていたかも知れない。でも、今の私はそんなに強くないし、余裕もない。
私は、部屋に帰っていくトワイライトの背中を見送った。