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「起立!気をつけ!礼! 」
帰りのHRが終わったと同時に、みんな荷物をまとめ始める。
俺も教科書やら筆箱やらを適当に放り込み、席を立った。その瞬間、いつものグループの奴に声をかけられる。
「なぁ勇斗。今日帰りゲーセン寄ってかね?」
「あー、今日無理だわ。ごめんな。」
そう断りを入れると、みんな不機嫌な顔になり、文句を言い始めた。
「ノリが悪い」「もう遊びに誘わない」など、本当に面倒臭い。
どうして、お前ら中心に俺が動かなきゃならないんだ。
こちら側も文句を言いたい気持ちをグッと抑えて、精一杯の作り笑顔で「ごめんな、また今度。」と伝え、教室をあとにした。
少し時間食ってしまった。
吉田くんはもう校門で待っているだろうか。
急ぎ足で校門へ向かうと、そこには既に吉田くんが立っていた。
ギターケースを背負って、本を読んでいる。
普通、こういう時ってスマホを弄る人が多いと思うんだけど、吉田くんは本当に読書が好きなんだな。
ゆっくりと吉田くんの方へ進むと、今度は俺にすぐ気づき、吉田くんの方からも近づいて来てくれた。
「ごめんね、待った?」
「全然大丈夫。そんなに待ってないよ。」
「そっか、良かった。じゃあ行こっか。駅前の所でいいよね?」
「うん。俺全くわからないから佐野くんにお任せする。」
名前を教えたのだから当然なのだけれど、不意に名前を呼ばれたことに少しドキッとしてしまう。
ただ名前呼ばれただけで何緊張してんだ俺。
吉田くんに悟られないように、駅方向へ歩き出す。吉田くんもギターケースの肩紐を両手で握りしめ、俺の隣を歩き出した。
無言の時間が続く。
流石に何か話題を振った方がいいだろうか。
俺から誘ったんだし、俺から切り出すべきだよな。でも、俺と吉田くんの共通の話題とかないし……あ、そういえば
「ずっと読んでるその本って、誰の本なの?」
「あっ、……えっと、、あの本は……。」
これなら吉田くんも答えやすいかなと思った俺の質問だったが、吉田くんはバツが悪そうな顔をして、言葉を詰まらせてしまった。
まずい事聞いちゃったかな。
「別に言いたくなかったら、言わなくていいんだよ。変な質問してごめんね?」
「言いたくないとかじゃないんだけど…、マイナーな作家だし、難しい本だから多分知らないと思う……。」
そんな事を言いながら、吉田くんは制服のポケットに入れた小さな単行本を取り出し、俺に差し出してきた。
そこに書いてあったのは、良く見慣れた作者の名前だった。
「っえ!?!?俺もこの作家好き!!」
予想外の出来事に大きな声が出てしまう。
慌てて口を塞ぎ、吉田くんの表情を伺う。
すると、そこには上がりそうな口角を必死に抑えようとする姿があった。
絶対に、かなり嬉しいんだろうな。別に我慢しなくてもいいのに。
「いやぁびっくりした。まさか吉田くんもその人好きだなんて。」
「俺の方こそ驚いたよ……。てか佐野くんって本読むんだね。」
あー、やっぱり意外だと思うよね。 俺結構、本好きなんだけどな。 本当は学校でも読みたいんだけど、前に読んでたら茶化された事があったから、家でしか読まなくなった。
やっぱり俺、そういう静かなイメージって無いんだな……。
「うん、たまにだけどね。でもその作家さんのは良く読んでる。その人の本って何回も読みたくなるんだよね。」
「……っっうん!!分かる!めっちゃ分かる!」
その作家の話をすると、吉田くんが凄く嬉しそうに話に乗ってきた。ずっと受け身だった吉田くんが、こっちに歩み寄ってくれて何だか嬉しい。
「この人の本って、凄く難しい表現だったり、回りくどい言い方をしたりしていてね。だからこそ、深く考えさせられるというか。何回も読み返したくなるというか。今はこの本を読んでいるけど、他にも沢山素敵な本があって。」
吉田くんは、そう言いながら持っている本をパラパラとめくった。
間に黄色い栞が挟まっている。
沢山本を読むからだろうか。日焼けして少し傷んでいる。
吉田くん、物を長く大切に扱う人なんだな。凄く素敵だ。
「っあ、ごめん。俺、佐野くんがこの作家好きだって知って嬉しくて。ちょっと話しすぎたかも……。」
「全然気にしてないよ。むしろもっと聞きたい。いっぱい話して?」
そんな俺の言葉を聞いた吉田くんは、少し安心した表情を見せ、話を続けた。
正直に言うと吉田くんの話は、お腹を抱えて笑うような話ではない。
それでも俺にとっては、とても興味深くて、面白くて、ずっと聞いていたくなるような内容だった。
そして何より、吉田くんの声が心地よかった。
それから吉田くんは、自分の好きな本や映画の話、自分はこの物語をこう解釈しているなど、色々話してくれた。
その話に耳を傾けながら、俺たちはカラオケへと向かった。
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