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Kira
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ななせ🧊
ついに来てしまった。
今まで縁がなかったカラオケという場所に。
行きたくない訳では無かったが、一人では勇気が出なかったし、一緒に行くような相手もいなかった。
まさかそんな俺が、ほぼ初対面の人とカラオケに来てるなんて。
佐野くんは、慣れた手つきで受付を済ませ、指定された部屋へ歩き出す。
勝手が分からない俺は、佐野くんの後ろについて回る事しか出来ない。
せっかく誘ってくれたんだがら、粗相がないようにしなければ。
指定された部屋に到着し、重たい扉を開けると、そこには2人がけのソファと小さな机があった。
なんだか思ったより簡易的でほっとする。
ギラギラした部屋だったらどうしようかと思った……。
部屋に入りソファに腰掛けた佐野くんに慌てて続き、俺も佐野くんの隣へ座る。
まずい、緊張する。 何歌えばいいんだろう
佐野くんみたいな人が好きな曲、俺絶対知らない……。
「じゃあ、俺から歌うね!」
緊張でガチガチになった俺を気遣ってか、佐野くんが先に曲を入れる。
ここに来るまでも俺のつまらない話を笑顔で聞いてくれたし、佐野くんって本当に優しい人だな。
なんだか、一緒にいて心地良い。
明るくPOPなイントロが流れ、佐野くんが立ち上がる。
画面に流れてきたのは、5人組男性アイドルグループのMV。 キラキラした、アップテンポのアイドルソングだ。
流行ってるのかな……。まずい、全く知らない…。
どうしていいか分からず、控えめに手拍子しながら佐野くんを見つめる。
アイドルソングを歌う佐野くんはとても眩しかった。
俺の歌を褒めてくれたけど、佐野くんも十分に上手い。顔も整ってるから、まるで本物のアイドルみたいだ。
………………かっこいいな。
歌っている姿に見蕩れていると、ジャーンという大きな音と共に曲が終わる。
佐野くんはソファに座り、一息ついた。
「俺の歌、どうだった?笑」
「あ、うん…………よかっ、た!良かった!」
俺のバカ。もっといい感想を言えないのか。
せっかく佐野くんが盛り上げてくれたのに…。
「あれ、もしかしてこの曲知らなかった……?」
「えっと、、……うん、ごめん…………。」
「わー!こっちこそごめん!SNSでずっと流れてるから、 てっきり知ってると思った……。」
「俺流行りに疎くて、、。」
「全然大丈夫!!むしろこの世に全員が知ってる曲なんてなくない?俺も好きな曲入れていくからさ、吉田くんも好きな曲入れてよ。」
ほら、と佐野くんから端末を渡される。
どうしよう…。好きな曲入れていいと言われたけど、流石に少しは空気読んだ方が良いだろう。でも、佐野くんが知っているような曲俺知らないだろうし……。
あ、そうだ。
曲を選択し、柔らかいメロディーが流れる。俺が選んだのは、あの日階段の踊り場で俺が歌っていた曲。
あの時佐野くんは聞いているはずだし、何となく聞き覚えがあるだろう。
俺の精一杯の選曲だった。
佐野くんみたいに立ち上がる勇気はなく、座ったままマイクを両手で握りしめる。
横目で佐野くんの表情を確認すると、明るい表情をしていた。
良かった。あの時の曲だと気づいてくれたみたいだ。
目を閉じ、ゆっくりと歌い始める。
あの時はこの曲が主題歌になっている映画を思い浮かべていた。
でも今は、佐野くんと出会った昼休みの事を思い浮かべた。
歌い終わり、おずおずと佐野くんの方へ顔を向ける。この曲で大丈夫だったかな、、。
そんな俺の不安をかき消したのは、大きな拍手の音だった。
「超良かった!!!!俺感動した!!やっぱり吉田くん歌上手すぎるよ!!!」
「ぅえっ………あ、ありがとう、、///」
真っ直ぐとした視線で褒められ、思わず下を向いてしまう。
顔が熱くて、頬を両手で覆う。
なんだか佐野くんって、心臓に悪い……。
「でもごめんね、メジャーな曲じゃなくて……。」
「そんなの気にしないでよ!俺この曲めっちゃ好き!今日の帰りにサブスクで聞いてみよっかな~。」
「…………俺ってさ、あんまり流行ってるものとか知らなくて、、。独特なものとか好きになること多くてさ……。だから話し合う人もいなくて。」
なんで俺、会ったばかりの人にこんな話しているんだろう。親にも兄弟にも話したことの無い、俺の心の底にずっとあったわだかまり。それが溶け出したように、口から言葉が溢れてしまった。
「そうなんだ。でもそれってさ、人が気付かない良さを気づけるって事でしょ?凄く素敵な事だと思う。それに俺、さっきの曲も道中で話してくれた内容も、全部好きだよ。吉田くんだけじゃない、俺たち好きな物一緒だね。」
優しい声色で言われ、鼻の奥がツンとなって目頭が熱い。
俺の心を締め付けていた鎖が、緩くなった気がした。
そうだよ。俺だって別にずっと一人でいたい訳ではないし、誰かともっと話したかった。誰かと心を通じ合いたかった。
「……グスッ…佐野くん、ありがとう、、。」
「え、あ、泣いてる?……大丈夫?」
「大、丈夫……。なんだか、嬉しくて。」
心配させないように、涙を拭って笑顔を見せる。無理はしていない。本当に嬉しいんだ。
「そっか、良かった。…………俺もね、人との関わり方で悩んでるんだよね。誰もね、本当の俺を見てくれないの。色んなレッテルを貼られて、息苦しくてさ……。」
「本当の、佐野くん?」
「そう。俺さ、言っちゃうとあんまり良くないグループにいるでしょ?俺実はもっと真面目だし、もう少し静かに過ごしたいんだよね。でも俺って、どうしても目立つみたいで…。そういう人ばかり寄ってくる。自分は違うと思ってたけど、結局似たもの同士なんかな。」
悲しそうに佐野くんが笑う。
佐野くんのグループ、確かに他の人たちはお世話にも良い人達とは言えない。
あの人達と佐野くんが一緒?そんなはずない。
「違うよ、佐野くんはそんな人じゃないよ。だって俺に凄く優しくしてくれたもん。」
「…………え、?」
「それに俺、佐野くんが真面目なの以外だと思わないよ。凄く真っ直ぐな人だと思ったから、何も変だと思わなかった。佐野くんは、佐野くんだよ。」
何も偽りはない。思ったことをそのまま、佐野くんへ真っ直ぐ届けた。
すると、今度は佐野くんの目に涙が溜まり始める。
「え、あ、ごめん!……変なこと言った?」
「……違う、違う。俺も嬉しくてさ、、、。…………俺たち、だいぶ無理してたのかもね。」
無理。そうなのかもしれない。
そんな無理してまで俺は周りに壁を作っていた。でも今はその壁はない。
佐野くんの前なら、素の俺でいられる気がする。
「…ありがとう。佐野くんに話せてよかった。」
「俺こそ、ありがとう。………もし良かったらさ、連絡先交換してくれない?俺、吉田くんともっと仲良くなりたい。」
「おれも交換したい!あ、、でもあんまり交換したことないから、やり方分かんないかも…。」
「じゃ、スマホ見せて。やってあげる。」
佐野くんが距離を詰めて、俺の手元にあるスマホを覗く。
肩が当たって、顔が近い。心臓がドキドキしてしまう。
「よしっ、出来た。試しになんかメッセージ送ってみて。 」
こういう時、何を送ればいいんだろうか。頭を悩ませた結果俺は、「よろしくお願いします。」とだけ送った。
「ぷはっ、いやっ……堅苦しすぎでしょ笑」
「しょ、しょうがないじゃん!何送ればいいか分からなかったんだから……。」
「適当にスタンプとかでいいって。スタンプ持ってないの?」
「あんまり持ってない……。」
「じゃあ今見てみれば?無料のもあるし、ずっと買ってないならポイントとかで買えるかも。」
佐野くんが俺のスマホを操作すると、そこには可愛らしいイラストの一覧が。
じっくりと見定めながらスクロールすると、1つのスタンプに目が止まった。
ゆるいテイストの、ちまっとしたチワワのスタンプだ。
「これ、可愛いかも。」
「お、いいじゃん。それダウンロードすれば?俺もそれ取ってみようかな~。」
すると佐野くんは、『ダウンロード完了』の画面を提示し、「お揃いだね。」と満面の笑顔を見せた。
あまりにも笑顔が輝いていて、思わずクラっとする。
俺も佐野くんに続き、スタンプをダウンロードして、『よろしくね』と書かれたスタンプを佐野くんへ送る。
俺のスタンプの後に佐野くんから同じスタンプが返って来る。
誰かと同じものを持つなんて初めての俺は、それを見て心が温かくなった。
すっかり緊張しなくなった俺と佐野くんは、その後も時間いっぱいまで会話が弾んだ。
せっかくカラオケに来たのにも関わらず、俺たちはお互いの距離を縮めるかのように、喋り続けた。
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