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ベッドに倒れ込む。疲れた。アドバンストを操縦するたびに、自分の体が蝕まれていくのを感じる。
まぁ、俺の体なんて元々傷だらけか…。
俺は日本に生まれた。東アジアの、辺境の国。
そしてあの日、俺の人生は狂った。
2067年3月18日。俺は首都圏第2地区37区画(と当時は呼ばれていた)にて、「大厄災」の被害者となった。いわゆる…人々にはヨコハマとか呼ばれていた場所。
俺は数十キロの距離で核爆発を喰らい、59億人の犠牲者の1人に、なるはずだった。
…俺は生き延びた。
偶然壁の厚い屋内に居たからなのかもしれない。咄嗟に噴水の中に飛び込んだからなのかもしれない。目を覚ましたとき、そこにあったのは全てが焼き尽くされた世界だった。ドロドロに溶けたコンクリートが溶岩のように人を飲み込むのが見えた。
それはもういろんな奇跡が重なって。
俺は生き延びた。
生き延びてしまったんだ。
大厄災は、俺から全てを奪った。
俺は、何度も自死を図ったさ。ナイフを首に当て、海に飛び込もうとし、そんなことなど序の口だった。被曝し立ち入り禁止となった広大な区域に侵入し、この大地と共に果ててやろうとも考えた。
だが、神はそれを許さなかった。
どうしても生きろと言った。
まもなく、企業による国家戦力の殲滅戦が始まった。主要都市への核攻撃によりくたびれ切っていた国家戦力が、肥大化していた企業とまともに張り合えるわけもない。
ヨーロッパを起点に、アフリカ、北アメリカ、南アメリカ。企業の手は次々と伸びていき、国家戦力の集まりであるレジスタンス組織…ナショナルアークは、勢力圏をアジア、シベリアにまで狭められた。
俺はその頃偶然、企業に拾われた。
ちょうど、アドバンストの技術が確立されかけた頃だろうか。「プリズム」が発見され、人型兵器の技術が実戦投入されて半年くらい経ったころ。
死ぬことを諦め食い扶持をつなぐ必要があった俺は、一攫千金を夢見てアドバンスト部隊に志願した。「世界の平和を導く」だのなんだのみたいな誘い文句にゆすられて。
アドバンストの適性を得るための強化手術をしたのが、ちょうど数年前。数百人が同時に受けたらしいが、アドバンストの操縦に十分な適性を得ることができたのは、俺を含めた数人だけ。
そんな超狭き門を通り過ぎしばらくの訓練を経たのち、俺を拾ったのが”さとみ“だった。
大厄災から8年。
俺は彼の元で、企業の元で、傭兵稼業をやっている。
しかし、少なくない量の放射線を浴びた俺の体はこの8年間、間違いなく蝕まれていた。
「…調子はどうだ」
しゅーっ、とドアが開き、さとみが入ってくる。
「ああ、オペレータ」
「その呼び方やめろ笑」
「じゃぁ…さと…何?」
「まぁ好きなように呼べばいい、ところでだが…」
「次の作戦か?」
「相変わらず察しがいいな…。まぁ、体調を見にきたのもあるが。直接会わんとわからんこともある。」
「アークは俺たちへの圧を引き続き強めている。海軍部隊のスタンダードとアドバンスト機体を用いて太平洋、マニラ地方からの両面作戦を計画しているという情報が入った。」
「あぁ、主要目標は、プリズムの主要産地である東京、北京、香港。これらの被曝地域を、我々は失うわけにはいかない。」
プリズム。「大厄災」が生み出した、第二の火種。
被曝地域の資源が当時の熱波、放射線を強く浴びたことにより形質が変化した、アドバンストの燃料にもなる重要なエネルギー資源。
厳重な被曝対策のもと、爆心地周辺では無人機体による採取が続いており、その量とエネルギー効率は莫大。このままのペースで消費しても、あと1500年は保つ計算だ。
「企業はマニラ方面からバンコク地方へ向け揚陸艦を用いた陸上部隊での侵攻も続けており、我々の防衛線はあんとか持ち堪えているが、兵站線も保たない。俺たちの次の任務は、苦戦している地上部隊の支援だ。似たような作戦が続くが…どうか勘弁してほしい。」
「まぁ、数年前に比べたら随分とマシな生活してるもんだ、それくらいはするよ。」
「それと次回の作戦には…企業正規部隊 第2隊長ジェルが共同で参加する。この星で一二を争うエースの流儀、堪能するといい。」
第2隊長、ジェル。数年前、企業のエースパイロットとして世界を駆け回っては、レジスタンス勢力を荒らしまわった化け物。
しかし一体、なぜ俺なんかを僚機に?
そんな思案をよそに、さとみは颯爽と部屋から出ていった。
あるとすれば、彼が裏で手を回した。そんなところか。
空は、いつものように黒い雨で満たされていた。まともな外気を吸わなくなって、もうどれだけ経つのだろうか。
『本作戦の補佐を担当する、作戦部主任ころん及びその補佐、るぅとです。以後お見知り置きを。』
本部からのそんな改まった挨拶が、無線越しに入る。主任ならもっとチャラけてたはず…今の落ち着き払った声はるぅとか。
『作戦目標は、東方に侵攻する地上部隊およびアドバンスト機体の全撃破です。目標は多方に分散しており、アークのアドバンストが出現する確率も高いですが…』
『前回の作戦で、あなたは一定の実力を示しました。用いるに足る傭兵であることを、再び示してください。』
なるほど。ある意味、試されてるってことか。…いけすかねぇ。
まぁジェルとやらも来るらしいし、大丈夫だろうと思っていたその時。
『あー!あー!えっとぉ!?赤い仔犬ちゃん?♪聞こえてるかなー!♪モグモグ』
「…誰が仔犬ですか。」
あぁ、コイツが主任だ。間違いない。
『あぁ、聞こえてるんだァ♪ちょっと挨拶だけしとこうと思ってェ…♪モグモグ』
『今度は何の用だ、ころん』
続いて”主任”もといころんの口から発せられた言葉は、衝撃的なものだった。
『ああその。ジェルのことだけど、ちょっと遅れるってさァ〜!♪モグモグ』
「『は?』」
『じゃあ、頑張ってねぇ〜!!♪モグモグ』
『主任、何食べてるんですか。』
るぅとの冷たいツッコミが主任に刺さる。それはそう。何食ってんのさっきから。
『見りゃわかるでしょ、バナナだよォバナナ!』
『はぁっ!?今は安くても一本80万円はする高級品ですよッ!?一体どこから_』
プツッ
あれ?
『はぁ…作戦を始めるぞ、莉犬』
「…了解」
無線を切った人間は、すぐにわかった。
『まもなく投下する。散開している地上部隊を全て撃破するんだ。』
『第2隊長は遅れてくるらしいが…まぁスタンダード部隊が相手なら莉犬だけでも太刀打ちできるだろう。』
「ったく、英雄気取りか?」
ガコンッ!という音とともに、ヘリから落とされる。早速前方に戦車部隊のお出ましだ。
『アドバンストが出る前にジェルが来ればいいが…』
レーダーは真っ白。これ全部敵なのか?
高速で前進し、ダッ…ダッ…ダッ…とアサルトライフルを前方に投射する。
『企業の傭兵が来たぞ!!』
『いよいよ本気になったか』
発射された弾丸に機体の速度が乗り、大口径の弾丸は敵の装甲車を粉砕する。
『敵勢力は大隊規模と推定。戦車、歩兵戦闘車多数…対空両用砲も居るようだ』
「チッ…数が多いな」
『一つ一つ確実に潰せ。それしか方法はない』
「あぁ、分かってるよ…やってみるさ」
密集している敵に対して上昇し、上からグレネードを1発。4両ほどの装甲車が火だるまに包まれスクラップになった。
ダダダダダダダダ…撃ってきたのは対空自走砲。ありゃ旧ドイツ製のアンティーク…”ゲパルト”じゃないの。こっちの高機動に全く追いつけていない。レールガンを照準し、やかましい機関銃砲門を黙らせた。
『敵勢力、10両排除』
どこからともなくミサイルが飛来する。推力を最大にセットし、横方向に回避しつつデコイを射出。戦闘機ほどの高速機動はできないけど、こちらにも最低限の防衛装備はある。
デコイに吸われたミサイルは自機の遥か遠くで自爆した。
『敵勢力、20両撃破』
『何だというのだ…!?このアドバンストは…!!』
『弾幕を集中しろ!!ここでくたばる訳には行かん!!』
砂漠の上をぴょんぴょん飛び回りながら、地上にいる雑魚どもを片付ける簡単なお仕事。ミサイルをマルチロックして斉射。一気に6両が片付く。
『敵車両、50両撃破』
輝点だらけだったレーダー画面も、かなりスカスカになってきた。あの量で攻め込まれちゃ、確かに太刀打ちできんだろうな…。
『待て、レーダーに反応あり…航空機か!?』
「何だって??」
『方位2-7-0、高度4000ft。そっちにまっすぐ向かってる!』
「アドバンストで空中戦をしろと…!?」
『ロシュ1から各機へ。全火力を敵アドバンストに斉射する。』
『1機だけならどうにでもなるな。』
『遠距離ミサイル斉射用意。おっ始めるぞ。』
超遠方からミサイルが飛来。確かに地上からの攻撃ではない…。
『4機…いや5機か。F-35A…あんなアンティーク、まだ生きてやがったのか!?』
『相手はミサイルを満載している、飽和攻撃に注意しろ』
「了解、面倒だな…」
ミサイルの数…ざっと20発はあるか。デコイをばら撒き、横方向にブーストし回避。自分の左側を大量のミサイルが通り過ぎていく。
「距離2000…意外と早いな、ならばこっちの番だ!?」
まっすぐ向かってくる5機をロックした俺は、そのままミサイルをばら撒いた。ミサイルの誘導性能自体はこちらの方が上なはずだ。
…カウンターパンチだ!
と心の中で叫んだのも束の間、敵は全機避けたらしい。
「嘘だろ!?」
まとめてキル作戦、あっけなく失敗。
グレネードを前方に投射し、敵機体付近で巨大な爆発が起きる。
爆炎の中から出てきたのは、4機だった。
『ロシュ3、被弾!!』
『イジェクト、イジェクト!!』
1機が火を吹きながら落ちていく。
「スプラッシュ・ワン!!」
しかし撃ち漏らした4機は俺の周りをちょこまかと飛び回っては、ミサイルやら何やらを投射してくる。
「あー面倒だな…」
いったんコバエどもの処理は後にして、地上部隊を叩く。ミサイルの回避くらいなら大したことではない。
グレネード、アサルトライフル。爆発と徹甲弾が地上部隊に降り注ぐ。
『第2小隊との連絡が取れない!!』
『応答せよ、応答せよ!!』
『地上部隊70両撃破』
「そろそろ戦闘機を片付けるか…」
奴ら、どうやらヒットアンドアウェイ方式をとっている。真正面から突っ込んできてミサイルや爆弾を放り投げ、そのまま過ぎ去り体制を整えているらしい。
だがそんなやり方、アドバンストには…
「隙だらけだっ!!」
バシュゥゥっ!!
ちょうど攻撃を終えて真っ直ぐ離脱する機体に向けてレールガンをぶっ放す。同じやり方で、2機撃墜。パターンさえ掴めばこっちのもんだな。
地上部隊を着実に潰しつつ、戦闘機の相手をする。歩兵戦車くらいなら何両か踏み潰した気がする。
残りの戦闘機はミサイルで始末しよう。2機にマルチロックし、6連ミサイルを3発ずつ発射する。
『ミサイル、ミサイル!?』
『回避!回h_』
Yes!スプラッシュ・ツー。一石二鳥とはまさにこのことだろうな。アドバンストには空のお相手ができないと思ったら大間違いだよ。
『全航空機部隊の撃破を確認。』
「で、あのジェルってのはいつ来るんだ…?」
『わからん、とりあえず残った地上部隊を片付け……』
さとみが突然沈黙する。
「どうした?」
『待て…新たな機体反応?』
『アドバンストか!?』
『お前は…最近暴れ回ってる傭兵だな?殺し、奪い、そんなに上等かね?』
『何でもいいだろ、ぶっ殺せ!!』
Pilot Name: Silver Hearts/Red Trigger
AD Name: “Angel”/“Damon”
うわなんか来たんだけど。クセ強そうな敵が。
『2機が男女ペアでお出ましだ…アークの傭兵か。』
こっちの体力はもう6割ほどしか残っていない。流石に厳しいぞ…?
『待て、もう一機来るぞ?』
さとみの声に緊張感がさらに高まる。レーダーを確認すると確かに機体が近づいているが、今度は反対側…俺たちの領土方面からだ。
「山ほどアドバンストがお集まりだな…」
『こちら“オレンジスパークル“オペレータ、ななもりだ』
『まずは延着を謝罪する。』
『…お前が「莉犬」か?さとみの猟犬と一緒にやるのは初めてだな』
『退屈させてくれるなよ…!』
Pilot Name: Jel
AD Name: Orange Sparkle