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ノア「…気付いていたんだね。 」
マリア「私達獣人はアヴィニア人とある契約を交わしている。だから安心してちょうだい。私達は味方よ。少し聞きたいことがあるだけなの。」
ベツレヘム「魔力が無くてそんなに喋れないんですよね?筆談で構いませんので…」
ノア「…そういうことなら。」
マリア「単刀直入に聞くわ。…『あの村』との連絡が付かなくなったの。何か…少しでも知っていることがあれば…。」
ノアは紙に文字を書いて2人に差し出す。
ノア「<ごめん、何百年も前に出ていったきり…知らない。 >」
マリア「そう…。」
ノア「<ところで…どうしてボクがアヴィニア人だと?>」
ベツレヘム「…2人が言っていた圧縮装置付きバッグ。あれはノアさんでしょう?あれは『魔法』だとすぐわかりました。アヴィニア人にしか使えないはずの魔法だと。それに本物の圧縮装置付きバッグは… 」
マリア「ベツ。」
マリアがベツレヘムの腹を肘でつつく。
ベツ「…ごめんなさい。」
ノア「<いいんだ。その理由が分かっただけで十分だよ。>」
マリア「でもなんで圧縮装置付きバッグ?」
ノア「<それは…普通のバッグに無理やり詰め込まれて変形しそうだったから…>」
ベツレヘム「…苦労してますね。」
ノア「…はは。」
次の日の朝、ジークは1人で村を歩いていた。
ジーク「ふわぁ〜。…ここに来てから身体が若干なまってるような…。まっ、気のせいか。ん?あれは…」
目の前を歩いていたアカネにジークは話しかける。
ジーク「おはよう、アカネ君」
アカネ「ジークさん。おはようございます。」
返事をするアカネの両手には紙袋があった。
ジーク「買い出しか?」
アカネ「はい。ジークさんは?」
ジーク「俺はここに武具を取り扱ってる店があるって聞いてそこに行こうかと。」
アカネ「なにか新しいものを?」
ジーク「いや、これの修繕か補強をな。」
そう行ってジークは矢入用ベルトに挟んであった弓をアカネに見せる。
アカネ「あちゃー、 こりゃ木が腐っちゃってますね。」
ジーク「雨の日も使ったりしてたからな…。ついでだし、買い出し手伝うよ。」
アカネ「えっ」
ジーク「…力持ちみたいだし、必要なかったか?」
アカネ「いえ!助かります。力はあっても腕が短くて大きすぎるものは運ぶのに苦労するんです。 」
そうアカネが答えるとジークは荷物を半分持ち、2人は歩いてゆく。
ジーク「いつもはどうしてるんだ?」
アカネ「いつもはそもそも買い出し自体滅多にないんです。…母さんはいつもチューブ型携帯食料で食事を済ませてるんです。」
ジーク「アレで!?」
アカネ「はい…。母さんには健康でいて欲しいので反対しているのですが、中々…今日はジークさん達を口実にして買い出しをしてるんです。お金は勝手に使ったらいけませんからね。 」
ジーク「お前も苦労してるな…でもアカネ君って料理とか出来るのか?」
アカネ「問題ありません。僕には自己学習装置が備わっています。村の方々から教えていただいたり、本を読んで学んでいます。」
ジーク「そうか。…。」
アカネ「…気になってるんじゃないですか?」
ジーク「え?」
アカネ「僕のモチーフ元である『ヒト』のアカネ君が。」
ジーク「お前は自分のことを『ヒト』だと思ってないんだな。」
アカネ「はい。アンドロイドが『ヒト』になれることはない、そう考えています。…母さんの行いも… 」
ジーク「お前は、意味が無いと考えているのか?」
アカネ「…正直なところ分かりません。」
ジーク「アンドロイドでも分からないことがあるんだな。」
アカネ「僕はアンドロイドですが、完璧でない『ヒト』を目指して作られた存在ですから。」
ジーク「お前の元になったアカネ君の事が気にならないわけじゃない。お前の力が必要以上に強いことだって気になる。…でも聞いていいのか分からない。」
アカネ「…確かに母さんに聞いたら良くない気がします。」
2人が食料店から出ると雨がざあざあと降っていた。
ジーク「朝は天気が良かったから油断してたな…。あ、アカネ君は水は…」
アカネ「一応防水機能は付いていますが…僕のわがままで悪いですが、普通に濡れたくないです。」
ジーク「お、おう…」
(これは…モチーフ元の人格か。)
獣人の中には手入れが大変なため、雨で毛が湿ってしまうのを嫌う者が一定数居る。恐らく本物のアカネ君もそうだったのだろう。
アカネ「…止みそうにありませんね。」
ジーク「そうだなぁ。急いでないからいいが…。」
アカネ「…昔話を聞いて欲しいと言ったら、ジークさんは聞いてくれますか?」
ジーク「…丁度いい暇つぶしになるしいいぞ。してくれ。」
アカネ「ありがとうございます。これは僕のモチーフ元になった『アカネ』君の話です。」
ジーク「ああ。」
アカネ「本物のアカネ君は遠い昔に…ある集団に殺されました。」
ジーク「… 力が強いのは…」
アカネ「ご想像通りです。僕は自衛のために力が強い設定に母さんがしています。」
「…母さんは…いえ、マスターはまだ息子さんの死を受けいれられていないのです。」
アカネが言い換えると、ジークは少しだけ驚いた表情を見せたが、すぐにいつもの仏頂面に戻っていた。
アカネ「だからマスターはアカネ君の代わりに僕を作りました。」
ジーク「なぁ。ひとつ聞いてもいいか?」
アカネ「どうぞ。」
ジーク「殺されたってのは…? 」
アカネ「…馬鹿みたいな宗教に巻き込まれたんです。…享年8年でした。…知っていますか?ヒトは声から忘れられていくという話を。」
ジーク「…昔、1度だけ聞いたことがある。」
アカネ「こんな事を言えばきっと僕は…マスターへの忠誠心を疑われるでしょう。」
ジーク「黙っといてやるよ。何の関係も持たない人間の方が愚痴りやすいことってあるもんだぜ。」
アカネ「…貴方は本当に変わっている。…もうマスターはアカネ君の声を覚えていません。」
ジーク「…。」
アカネ「…僕はアカネ君の声を聞いたことがある訳ではありません。でも、分かるんです。」
ジーク「どうして?」
アカネ「僕は過去に合計58,365回の音声アップデートが入りました。…もう再現できないんです。もう…こんなこと…」
ジークはふと、アリィの言葉を思い出す。
ジーク「…意味が無いって言いたいのか?」
アカネ「はい。」
ジーク「そうだな、俺もそう思っていた。でも相棒に言われたことをふと思い出したよ。」
アカネ「なんと?」
ジーク「『そういう事じゃないんだ』。ってさ。お前の話を聞いてみて心の底から俺も思えるようになった。そういう事じゃないんだ。」
アカネ「言っている意味が…」
ジーク「ヒトが最後まで覚えているものってなんだと思う?『嗅覚』何だってさ。その次が味覚、触覚、視覚。まだ4つも覚えている。 」
アカネ「…。」
ジーク「お前のバックアップ機体を見たことがある。どれも一切外見が変わっていなかった。声は確かに忘れてしまったかもしれない。でも、まだ覚えてるものがこんなにあるんだ。…まだ忘れたくないんだ。」
アカネ「…マスターはそれで苦しむことになります。」
ジーク「だろうな。…昔じいちゃんに言われたんだ。人々に忘れ去られて初めてヒトは本当の意味で死ぬって。マリアさんはまだアカネ君を生かそうと抗ってるんじゃないか?」
アカネ「…理解できません。」
ジーク「理解できなくていいさ。それを理解出来るのは死に近いヒトだけだ。…お前は俺達みたいになるなよ。 」
アカネ「ジークさんは本当に変わり者です。アンドロイドである僕に本当のヒトのように接する。」
ジーク「褒め言葉として受け取っておくぜ。」
アカネ「…最後に一つだけいいですか?」
ジーク「ああ。」
アカネ「僕はマスターの力になりたいです。僕にはあるものだけが足りていません。あとたったひとつなんです。」
ジーク「それは?」
アカネ「アンドロイドに心はあると思いますか?」
ジークは迷いなく即座に答えた。
ジーク「あるさ。きっと。他のアンドロイドのことなんか知らないが、お前にはある。」
アカネ「…今まで無いと答える方もいれば、気を使ってあると嘘をついた方も居ました。」
ジーク「そうか…お前は嘘を見抜く機能があるんだったな。」
アカネ「はい、ですが初めてです。本気で、僕に心はあるとおっしゃった方は。」
ジーク「お前の初めてになれたようで嬉しいよ。ほら、雨も止んできたし、俺の用事に付き合ってもらうぞ。」
アカネ「…。」
ジーク「アカネ君?」
アカネ「あ、はい!」