「もう十分だろう。それまでにしてやってくれないか」
陛下に後ろからそう声をかけたのは若頭の獅子丸だった。獅子丸も満身創痍。
陛下が獅子丸を処刑していたとき、
「おまえは明日から総入れ歯だ」
と笑っていたから彼の歯は全部折れたか抜けたかしたのだろう。
新しいおもちゃを与えられた子どものように陛下は微笑んだ。
「おまえはケンカでボコボコにしてる相手にそう言われて引き下がるのか?」
「おれが会長の身代わりになる。殺すなりさらにいたぶるなり好きにしてくれ」
「人にものを頼むときは土下座して敬語を使うもんだ。大人のくせにそんなことも知らないのか」
「会長の代わりにおれを殺してください……」
獅子丸は躊躇なく土下座して、そう言葉を絞り出した。何ヶ所も骨を折られた状態で土下座させられているのが、見ていて痛々しい。
腕組みして冷めた目でそれを見下ろす陛下。もはやどちらが悪役か分からない。いや、何百万という人間を虫けらのように殺してきた魔王ネロンパトラ以上の悪が存在するわけがないのだ。陛下は殺人に慣れているだけではない。殺人を楽しんでいるのだ。
「若頭だかなんだか知らないが、雑魚が出しゃばるな」
陛下は土下座する獅子丸の頭を思い切り踏みつけた。言ってることもやってることもどうしようもなく非道だが、地味な喪女にすぎないわたくしにはそれがまぶしい。
陛下のような異常者をサイコパスと呼ぶことは知っているが関係ない。強さでも美しさでも、そして悪どさでも陛下に匹敵する者など存在しないのだから。一度でも陛下の夜伽の相手を務めることができたなら、わたくしは死んでもかまわない!
「真琴」
「はい!」
「気持ち悪い顔するな。今度そんな顔したら、おまえもぶっ飛ばすぞ」
「気持ち悪いってひどいです! 陛下の勝利を信じてそばから離れなかったわたくしに対して!」
「途中までずっと不安そうな顔をしてたくせによく言うよ」
さすが陛下。思い切りバレていた。何も言い返せなくなったわたくしは俯くしかなかった。
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