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臣桜
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臣桜
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#女主人公
#シークレットベビー
朝永ゆうり
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「そんな名湯があったら、人が押し寄せて大変ね」
ちえりさんはあっさりと娘の言葉をかわし、弥生さんは「また漫画みたいな事を言う……」とボソッと付け加える。
「東京帰ったら、お母さんもお祖母ちゃんも、整骨院に行って念入りにほぐしてもらってね。これがきっかけで体調崩されても嫌だし」
弥生さんが言うと、お二人とも気丈に言い返す。
「私はまだ若いつもりなんだけど、ババア扱いしないでくれる?」
そう言うちえりさんは、湯煙しっとり美魔女だ。
「私もこれしきの事で寝込んだりできないわねぇ……。同年代の方々とは鍛え方が違うつもりだから……」
百合さんもなかなかのものだ。
ぼんやりと会話を聞いていると、小牧さんがボソッと付け加えてきた。
「体力至上主義なのはさっき言ったけど、二人ともジムの会員で、筋トレ凄いするし、スタジオ系は一番前に陣取るから、恐いわよ~。ジムでバリバリやる系の、年季入った美人って……ほら、恐いでしょ……」
〝クソ上司〟〝クソ部下〟の名前を叫びながら、殴る蹴るしている燃える闘魂お嬢様――春日さんを思いだした私は、記憶の蓋をそっと閉じる。
「う、うーん……、やる気に満ちていていいんじゃないでしょうか」
平和的に言うと、ちえりさんがウンウン頷いた。
「ほら、朱里さんは分かってくれてるじゃない」
「別に私たち、人様に迷惑を掛けている訳じゃないしね」
私は悟りでも開けそうな柔和な笑みを浮かべ、「そうですよね~」と頷く。
一旦会話が終わったあと、私はおずおずと尋ねた。
「あの……、今回、尊さんと一緒に旅行してみてどうでしょう?」
すると四人は顔を見合わせ、クスッと笑った。
「博識でびっくりしたわよね」
「そうそう! 朱里さんがミコペディアって言ってるの分かるわ~」
姉妹がクスクス笑い、私はとりあえず明るく返してもらってホッとする。
ちえりさんはパシャッと自分の肩にお湯を掛け、微笑んだ。
「今回は改めてありがとう。尊くんも朱里さんが一緒にいたから、いつもと同じ空気感でいられたと思うわ」
「そうよね~。今までハブっていた訳じゃないけど、大人になるまでろくに連絡をとっていなかった母方の親戚と、いきなり旅行って距離が近すぎて緊張するわよね」
小牧さんが言い、「ま、私の店には来てくれていたけどね」と誇らしげに言う。
「尊くん、私のリサイタルにも来てくれたんだから!」
弥生さんが張り合い、私はクスクス笑う。
そのあと、ちえりさんは息を吐いて微笑み、言った。
「不安がらなくても、私たちはもう尊くんを受け入れているわ。仲良くなりたい。……ちゃんと叔母と甥になりたいの」
言ったあと、彼女は百合さんを見た。
「……そうね。……私もちゃんと〝祖母と孫〟になりたいわ。誕生日とか、そういう理由がなくても尊がフラッと遊びに来てくれるような、そんな気さくな関係になりたい。……なりたいけど、……まだ罪悪感があるのは事実ね」
彼女は暗い、木立の奥にある海を見る。
「……家の玄関のドアを見ると、最後にさゆりが出て行った時の事を思い出すの。百合の花は大好きなはずなのに、毎年さゆりがプレゼントしてくれた事を思い出すわ。……あの子がピアノの発表会で演奏した『きらきら星変奏曲』を聴くと、涙が出てしまう。……あの時、さゆりはミスをしてしまったけれど、私は最後まで弾き切った事を褒めるべきだった。……でも、……当時の私は『あんな簡単な所でミスするなんて』と怒ってしまったの。……幾つも幾つも、後悔ばかり蘇る。……あの子がつらい思いをして出産した時も、傍にいてあげられなかった。出産後、夫もおらず独りで育児をして大変だったろうに、……拒否される事を恐れて声を掛けられなかった。……『今さら何を言っているの? 母親ぶらないで』って言われるのが恐かったのよ」
百合さんの唇から漏れる本音を聞いて、私は涙を流していた。
「春、尊の顔を見た時、さゆりと顔立ちが似ていてハッとしたわ。深く思考しているような、物言いたげな眼差しがとても似ているの。……それにあの音。……さゆりからピアノを習っていたんでしょうけど、タッチが似ているの。……加えて『きらきら星変奏曲』をミス一つなく引き切った尊を見て、…………さゆりがいるように思えてしまった」
一つだけ言わないと、と思い、私は口出しした。
「尊さんにとって、『きらきら星変奏曲』は特別な曲なんです。ネガティブなイメージのある曲じゃなくて、大切な家族との思い出が詰まった大事な曲です。……妹のあかりちゃんも、いつも『きらきら星』を弾いていました。……さゆりさんは決して、嫌いな曲と思っていなかったと思います。……私はこの程度しか知りませんが、……尊さんに聞いたらもっと教えてくれるんじゃないでしょうか」
沈黙の間、掛け流しのお湯が流れる音が響き、周囲のお湯が風に吹かれて流れる。
「……そうね。『分かってもらいたい〝けど〟』と二の足を踏んでいないで、生きている間にちゃんと会話をすべきだわ」
百合さんの言葉には、とてつもない重みがあった。
コメント
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わあ、第871話、お疲れさまです…! 百合さんの「後悔ばかり蘇る」という告白、胸に迫るものがありました。小さな「あの時こうすれば」の積み重ねが、今も彼女の中で生きているんだなって。でも朱里さんが「尊さんにとっては大切な曲」って優しく伝えたことで、ほんの少しだけ氷が溶けた気がして、泣きそうになりました。家族の形って、簡単じゃないけれど、こうして一歩ずつ向き合おうとする姿が美しいです。次が楽しみです🌷