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#異世界
留置場から保釈されたのは、事件から三週間後だった。近江龍彦の告発は証拠が不十分として不起訴になったが、私たちのキャリアはすでに半壊していた。
SNSのフォロワーは激減し、ブランドは契約を解除、週刊誌は「復讐双子」のレッテルを貼り続けていた。けれど、私たちはまだ終わっていなかった。雪絵は保釈の夜、ペントハウスに戻るとすぐにパソコンを開いた。
「紅子……今度は、私たちが狩られる番じゃないわ。あいつを、完全に消す」
私は頷いた。
棘は、もう痛みではなく、武器になっていた。近江は、私たちを壊すために半年以上を費やしていた。ペントハウスに仕掛けた隠しカメラ、私たちのスマホに忍び込ませた監視アプリ、そして、すべてを記録し、タイミングを計って一気に放った。
彼は私たちを研究し、弱点を知り尽くしていた。でも、彼は1つだけ見落としていた。私たち双子は、壊されても、必ず棘を立て直すことを。雪絵はハッキングの知識を駆使して、近江の新しい居場所を突き止めた。
近江は海外の小さな島国に、偽名で潜伏している。資金は、会社を潰す前に密かに移していたらしい。違法なマネーロンダリング。そこから、私たちへの攻撃を続けていた。
反撃は、静かに、確実に進んだ。まず、私たちの無実を証明する証拠を捏造ではなく、真正の形で集めた。近江が仕掛けた隠しカメラのログを逆ハックし、彼が私たちをストーキングしていた事実を暴く。
次に、近江の新しい身分を剥ぐ。島国の銀行口座、偽造パスポート、すべてを国際的なハッカーコミュニティに流す。それはあっという間に私たちの知るところとなり、彼の居場所を、インターポールに匿名で通報した。最後の仕上げは、私たち自身の手で幕を下ろす。私たちは旅立った。
島へ。
雪絵は白いドレス、私は深紅のワンピース。それはまるで、初めての復讐のときのように。彼は小さなヴィラに一人で住んでいた。ドアをノックすると、恐る恐る青ざめた顔で出てきた近江は、私たちを見て凍りついた。
「紅子……雪絵……どうして」
雪絵が静かに微笑んだ。
「あなたが、私たちを壊そうとしたからよ」
私は彼のスマホを取り上げ、雪絵が最後のデータをアップロードする。彼の全犯罪記録――私たちへのストーキング、証拠捏造、国外逃亡。すべてが、世界中に拡散された。彼は膝をつき、許しを乞うた。
でも、私たちはもう、聞かなかった。島の警察が来たとき、彼はすでに逮捕されていた。私たちは、静かに飛行機に乗り、日本へ戻った。
SNSは、ゆっくりと回復し始めた。「復讐双子」ではなく、「被害者だった双子」として、同情と支持が集まる。私たちは、再び投稿を始めた。完璧な姉妹の日常を。
でも、誰も知らない。
私たちの心の奥に、棘は永遠に残っていることを。雪絵が、私の髪を梳きながら囁いた。
「紅子……もう、誰も信じないわ。私たちだけよ」
私は姉の手を握り返した。
「ええ。永遠に」
窓の外、夜の街が静かに輝く。白と紅の光が、血のように混ざり合い、二度と離れない。――裏切りは、許さない。私たちは、棘のままで、永遠に咲く。