※生徒と家庭教師
大学生カテキョ黄
小6生意気ざかり桃
「こんにち、わー…」
母親に案内されて通された部屋の扉を開けると、いるはずの、というかいなければハナシにならない教え子の姿がありません。
「………」
家庭教師(大学生バイト)の吉田センセイは無言であたりを見渡した後、勉強机へ近寄ります。
そこには、破り取られたノートの切れ端に、走り書きしたようなメッセージが残されていました。
<旅に出ます。ぜったいに探さないでください>
「………へぇぇぇぇぇ〜」
小学生にしては達筆なメモを読んだ後、吉田センセイは明らかに。
もう本当に明らかに、不自然にモコモコ膨らんでいるベットの上の布団を見つめながら、少し大きめな声でつぶやきます。
「はやとくんは旅に出たのかぁ、センセイ残念だなぁ〜。じゃあヒマになったし、ここに置いてあるさっきまでやってたっぽいゲームのデータ全消しして…」
「ああよくねたァ!吉田センセェおはよ!!」
「おう、はやとくんじゃん。旅に出たんじゃなかったの?」
「はぁ、何言ってんの?こんな物騒な時代に旅なんか出れるわけ無いじゃん、吉田センセェってバカ?」
「そっかそっかぁ!そらそうだよなぁ。今の時代、勉強すんの嫌だからって逃げようとするアホはおらんわなぁ、ごめんごめぇ〜ん」
「ぐっ…!」
「じゃ、さっさと勉強始めんぞ。はやくそっから出ておいで」
「…イヤだ!」
「なんでだ!」
「だってまだ開始時間じゃないでしょ?あと10分くらいあるし」
「…あ?あー、確かに。分かった、じゃぴったし5時開始な」
「ん。」
そこへちょうどのタイミングでお紅茶とクッキーを差し入れに母親が現れ、吉田センセイとはやとくんは10分間の休憩タイムへと突入しました。
お行儀悪くベットの上でクッキーを食べようとしたはやとくんの頭をぱしんとひとたたきしてやめさせ、吉田センセイはテーブル前で行儀良く正座してお紅茶を頂きます。
そんな吉田センセイを横目でみながら、すごすごと向かい側に腰をおろし、はやとくんはたずねました。
「吉田センセー」
「なんですかはやとくん」
「何で勉強ってしなきゃダメなの?」
「知らん。」
「……え、なにそれ。」
肩透かしを食らったはやとくんは、クッキーをかじるのをやめ、お紅茶をすすっている吉田センセイを見上げます。
「じゃあ、なんで吉田センセーって家庭教師やってんの?」
「バイト代稼ぐため。」
「うっわ、それ子どもの前では言ったらだめなヤツなんじゃないの?」
「だって、そうなんだから仕方ないだろ」
「…なんか、なんでもかんでも正直に答えればいいってもんじゃないんだなってことをまなびました」
「おう、いい学びじゃん。よかったな」
「まじテキトーだなぁ…あ、ねぇねぇ!だったらさぁ吉田センセー、テキトーに教えたフリしてたらいいじゃん。俺サボってるとかママに絶対チクんないし!一緒にゲームやろーよ!」
「却下します。」
「なんでぇ!?」
「俺のバイト代出してんのは、はやとくんじゃなくて、はやとくんのお母さん。だからお代頂いてる分、やることはやらないといけない」
ソーサーにティーカップをかちゃりと置いて、吉田センセイは自分を見上げるはやとくんに、にこりと悪戯っぽく笑って見せます。
「俺と遊んで欲しいんなら、自分で稼げるようになってからな?」
ぽかんと口を開けたはやとくんの頭をひとなでして、吉田センセイはうーんと伸びをしました。
「そんじゃ、おべんきょー始めましょうかねぇ」
時刻はきっかり午後5時。
吉田先生と勇斗くんのお勉強が始まります。
→お勉強会終了。
夕食中、「オトナの人と遊ぶにはどれくらいのお金がいるの?」というはやとくんの質問に、ママとパパが一旦絶句するのは、吉田せんせいが帰った約2時間後のこと。
end
コメント
1件
いやかわいいな!!!!!!!あたまぽんぽんしてるのかわいいです😭😭💞💞ゲームのデータ消そうとしたら飛び起きてくるのめちゃくちゃ小学生ぽいです!!