例えさっきまで敵対していた相手でも、今は側にいてほしかった。
彼女は、申し訳なさそうに、眉を下げる。
「すみません。私、そろそろ帰らないと子供達が待っているので。鍵を持っている方がいれば十分ですよね?それでは…」
最後に意味深な笑顔を浮かべ、彼女は去っていく。
あとには私と店長の微妙な距離感だけが残っていた。
「え、えーっと…」
店長の情けない声だけが静寂に響く。
大人なんだからもう少ししっかりしてほしい。
雛瀬さんと同世代とは思えない。
(まあ、気まずい状況を作ったのは私…か。)
しかしそのおかげで、いつもの私を取り戻せた。
「…いつまでそんなとこにいるんです?さっさと開けるんで早く来てください。」
「へ?あ……うん…ご、ごめんねー…」
ため息混じりにそう言うと、店長は慌てた様子でこっちに向かってきた。
そんな店長を横目で見ながら、私はせっかく閉めた店の裏口を開ける。
「あ…そうだ、せっかくだから送っていくよ。もう電車に間に合わないかもしれないからね。」
店の中に入る前、振り向き様に店長はそう言った。
「……別に、構いませんけど。」
口では素っ気なく返したが、私の心は弾み上がっていた。
(あれだけ気まずくなったのに…そういうことはちゃんとしてくれるんだ。)
頼りない背中を目で追いながら、そんなことを思っていた。
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