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「聞いてよ、元貴〜。」
「なに?」
仕事が終わった後のグダグダしている時間。
若井が嬉しそうに話し掛けてくる。
「最近さ、好きな子が髪の毛染めてさ!」
「…へぇ。 」
「前のも可愛かったけど、今のもめっちゃ可愛いんだよね〜。」
「……そうなんだ。」
「あ、そういえば、元貴も髪色変えたよね!」
「………うん…。」
どうしてだろう。
今日は調子が悪いみたい。
いつもなら若井の恋愛話なんて右から左に受け流せるのに。
もう何年も…何年もそうしてきたのに。
あ、やばい。
そう思った時には遅く、 気付いたら目から涙が一粒溢れていた。
「え、元貴?」
驚いた顔でぼくを見る若井に、誤魔化すように笑顔を貼り付ける。
「ゴミ、入ったみたい。」
「だめ、目傷付いちゃうよ!見せて。」
めちゃくちゃベタな事を言って目を擦ろうとするぼくの手を掴んで、若井がぼくの目を覗き込む。
若井の顔が近い。
少し動いたらキス出来そうなくらいに。
…そんなのありえないなのに。
あと数センチ。
だけど、この数センチが永遠に縮まる事がないのは分かっているのに。
ああ、やっぱり今日は調子が悪いみたい。
一粒、また一粒とポロポロと溢れ出る涙の止め方が分からずに、ぼくは近くに置いてあったバッグを掴むと、若井の前から走って逃げた。
やってしまった。
家に帰りそのままベッドに倒れ込む。
あれからもうだいぶ経つのに涙は全然枯れてくれない。
最近はこうして涙する事もなくなってたのに…。
忘れられぬ恋なんて言ったらなんだか綺麗に聞こえるけど、この恋はそんな綺麗なものなんかじゃない。
何年も前、初恋だった。
だけど、幼いながらもこの恋は叶わぬものだと分かっていたから、この気持ちに蓋をして、それなりに恋愛をしてきたし、若井の恋愛も見守ってきた。
しかし、少し前に長く付き合ってた人と別れた若井。
その瞬間、もしかしたらチャンスがあるかもと心の片隅で思ってしまったぼくは、いつまで経っても救いようがない人間だ。
そして最近、若井には好きな人が出来たようで、二人で話す時は その話題で持ち切りだった。
“お前にはチャンスなんてないんだよ”と、もう一人の自分が嘲笑う。
それでも…
どんなに馬鹿でも、傷付いても、叶う事がなくても、この流れる涙にどれだけ若井の事が好きかを思い知らされる。
「明日、どうしよ。」
時計を見ると深夜と言える時間。
やっと涙が止まり、少し冷静になった頭で今日の失態の言い訳を考えるけど、 いくら考えても良案は思いつかない。
ーピンポーン
仕方がないので、とりあえずお風呂に入って落ち着こうベッドから起き上がったと同時に家のチャイムが鳴った。
「誰?こんな時間に…」
恐る恐るテレビモニターを確認すると、そこには今一番会いたくない人が映っていた。