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ご本人様とは全く関係ありません
ここはどこか歪んだ繁華街。
夜道をふらふらと歩くうちに、
いつの間にか、
こんな場所まで迷い込んでしまっていた。
薄くネオンが滲む路地裏。
雑多な店が並ぶ中、
そこだけ妙に空気が違う。
異質、というより高級感。
静かに灯る看板。
磨き上げられたガラス。
重厚な亜麻色の扉。
まるで〝選ばれた人間しか入れない〟
……そう、言っているような雰囲気だった。
誰かに、
ここがどこなのか聞けないだろうか。
そう思いながら、
恐る恐る扉を押し開ける。
シックな赤い絨毯。
天井にはキラキラと輝くシャンデリア。
まさに異世界のよう。
建物に魅入っていると、
「いらっしゃいませ。新規の方ですね。
紹介状はお持ちですか?」
低く落ち着いた声が響いた。
黒に前髪の半分ほどだけが青髪で。
きっちりと着こなされたシャツ。
真面目そうな男が、こちらを見ている。
けれど。
俺の目を奪ったのは、
その奥に広がる光景だった。
「ほんま?そんなにお金くれるん?
なら、僕も頑張るから……見てて、な?」
甘く笑いながら、
男の首に腕を回す紫がかった白髪。
「もぉ〜、お兄さん酔っちゃダメって
あれだけ言ったのにぃ……。
俺のこと、気持ちよくしてくれるんでしょ?」
膝の上へ自然に座り込み、
困ったように笑う唐茶髪。
「あ、今よそ見した?こっち見ろって。
俺はお前をそんないけない子に
育てた覚えはないんだけどなぁ……。
……何?倍にするの?
そう……ならもっといけないことしよっか」
指先で相手の顎を持ち上げ、
愉しげに目を細める緑インナーの白髪。
「何?俺に嫉妬してもらうため?
へぇ……そんなことで他の人のとこ行くんだ。
……え、冗談だよぉ。どれ?このシャンパン?
いいねぇ、俺これ好きだよ」
蔑んだような瞳を浮かべたかと思えば、
次の瞬間には、蕩けるように笑う
ピンクメッシュの栗色ウルフヘア。
金。
欲望。
執着。
独占欲。
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そういうものが、
アルコールと香水の匂いに混ざって漂っている。
ここはきっと、
普通の場所じゃない。
甘い声で愛を囁きながら、
金と感情を搾り取る場所。
──金と執着が渦巻く、天国。
「お客様……?」
怪訝そうに、
先ほどの男がこちらを見る。
逃げなければ。
頭ではそう分かっているのに、
ここで背を向けてしまえば、
もっと良くない何かに、
巻き込まれそうな気がして。
結局、足は動かなかった。
そんな俺の様子を見て、
男は小さく目を細める。
「……もしやお客様、
迷われてこちらに来られた方ですか?」
その言葉に、
こくりと頷く。
すると男は、
「あぁ……」とでも言いたげに、
小さくため息をついた。
「たまにいらっしゃるんですよね、
そういう方。まぁ、まだマシですよ。
野蛮な奴らよりかは」
……今、野蛮って言ったか?
一気に嫌な想像が膨らむ。
マジでヤバい店なんじゃないか、ここ。
ごくりと唾を飲み込んだ、その時。
「へぇ、新規?」
奥から、
また別の男が姿を現した。
目を引く真っピンクの髪。
派手なのに下品じゃない。
むしろ、その場の空気ごと支配するような、
妙なカリスマ性があった。
男はゆっくりこちらへ歩いてくると、
柔らかく微笑み、
「いらっしゃいませ、お客様」
丁寧に一礼した。
それから、
俺を頭の先から爪先までじっと見つめる。
値踏みされているようで、
思わず背筋が伸びた。
「只今こちらで車を呼んでいますので、
こちらでお待ちください」
そう言って、
すっと空いている席を示す。
……というか。
なんでこの人、
俺が迷い込んできた一般人だって
分かったんだ?
雰囲気?
服装?
顔?
そんなことを考えていると。
「ボス」
先ほどの男が、
当たり前のようにそう呼んだ。
え。
ボス?
思わず目を見開く。
すると、ピンク髪の男は
悪戯っぽく笑った。
「少しくらいいいでしょ。
たまには接客させて」
「俺は構わないですけど……。
困るのはボスじゃないですか。
またオーナーに言われますよ」
「あはは、大丈夫だって。
そもそもこうなってるの、
あいつのせいなんだから。ね?」
「……分かりましたよ。
でも、あまり助けはできませんからね」
「はーい」
軽い返事。
なのに、
周囲のキャストたちは誰も止めない。
本当にこの人が、
ここの中心人物なんだと理解する。
そんな俺を置き去りにしたまま、
二人は摩訶不思議な会話を終え。
次の瞬間には、
ボスと呼ばれた男が、
当然のように俺の隣へ腰掛けていた。
「ただ待ってるだけじゃ暇でしょ?」
ふっと笑う。
さっきまでの丁寧な口調とは違い、
今度はずっと砕けた声音だった。
「俺の話し相手になってよ」
断れる空気じゃない。
けれど、不思議と怖さは薄れていた。
小さく頷くと、
男は嬉しそうに目を細めた。
「ありがと」
その笑顔は、
この店で見た誰より自然で。
だからこそ、
逆に危うかった。
「じゃあ……昔話でも聞いてもらおうか」
男はどこか懐かしむように、
遠くを見る。
愛おしいものを思い出すみたいに。
そうして静かに、
自身が経験した昔話を語り始めた。
……少し話すのが遅れてしまったが。
これは俺が人生で一番、
現実離れしていて。
一番、魅惑的で。
そして、
絶対に関わるはずのなかった世界の話を、
聞いてしまった時のことだ。