日付が変わろうとする頃、豪は自宅マンションへ戻ってきた。
立川駅から都心に向かって二駅先の距離。
西国分寺駅周辺には、多くのマンションが聳え立つ。
その一角にある十階建てのマンションの八階に、彼は住んでいる。
十三畳のリビングダイニング、キッチンは三畳。
洋室がクローゼット付きの八畳と、単身暮らしの部屋にしては、かなり広い方だと思う。
白を基調とした部屋に合うよう、ブラックやグレーを中心に購入した家具や家電は、ソファーやローテーブル、ダブルベッドなど、必要最低限な物だけしか置いていない。
豪は上着を脱ぎ捨て、ソファーにドカっと座り、スマホを取り出す。
メッセージアプリを開き、元カノの優子にメッセージを送った。
『今更、何の用だ?』
優子は、豪からのメッセージをずっと待ってたのか、すぐに既読が付いた。
『なかなか返事が来ないから、待ちくたびれたわよ。どこか行ってたの?』
(何が待ちくたびれた、だ。お前から俺を振ったくせに、何を言ってるんだか……)
『俺と優子は三ヶ月以上前に別れただろ? しかもお前から、好きな男がいるから別れようって言い出した。優子には、俺が何をしていたか教える必要もないし、関係ない。一体何を話す事があるんだ?』
毒を吐き出すように、メッセージに返信をすると、また速攻で既読が付く。
豪は優子に、プライベートの携帯番号とメールアドレスは教えていない。
というのも、メッセージアプリが出回るようになってからは、アプリのIDを教えておけば、それだけで通話とメッセージができるため、仕事以外で知り合った人には、ほぼアプリで連絡を取る。
と、また優子からメッセージを受信。
『冷たい人ね。だから、一度会って話したいの』
(冷たくて結構だ)
別れてから三ヶ月以上になるのに、恋人同士だった頃のようにメッセージを送ってくる元恋人に、豪は徐々に苛立っていく。
酔ってるせいかもしれないが。
『悪いが今日は疲れてる。また後日にしてくれ』
豪は、ぞんざいに文字を打ち込み、返信した。
(アイツ、寄りを戻したい、とでも言う気か?)
元カノのメッセージを見て、居酒屋で純に言われた事を思い出す。
『優ちゃんに、本気で好きになった女性がいる事をきちんと伝えて、完全に縁を切れ』
文字だけのやり取りだと、厳しいものがある。
なら、優子と直接会って、奈美の存在を打ち明け、完全に断ち切るしかないのか。
元カノとの一方通行状態なメッセージのやり取りに、全てが疲弊し、豪は瞼をゆっくり落としていく。
(そうい……えば…………今週…………奈……美に……連絡……し…………てな……)
スマホを握り締めたまま、彼は、いつしか吸い込まれるように眠ってしまった。
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