翌日の土曜日、豪から連絡が来なかった奈美は、久しぶりに家で大人しくしていた。
彼と出会う前、週末は二度くらい自慰行為をしていたけど、最近すっかりしなくなった事に驚く。
最後に慰めたは、あのドライブデートの日、豪の目の前でして以来。
けれど、この三ヶ月以上、ほぼ毎週末に会っていたのに、たった一度、週末が空いただけで、寂しいと思う奈美がいた。
(お互い身バレしたし、豪さんも連絡するのが気まずいのかな……)
昨日の仕事中の時を思い返す。
まさか豪に会い、身バレするなんて思いもしなかった。
歪んだ関係を続けられたのは、本名も仕事も、何も知らなかったからこそ。
互いの素性が知られてしまった今、口淫だけの関係を、このまま続けていっていいのだろうか? という疑問を、豪が来社して以降、彼女は考えるようになった。
それとも、この曖昧な関係を終わりにして、出会う前の状態に戻った方がいいのか?
あるいは、勇気を出して、豪に想いを伝えた方がいいのか?
ここのところ、彼の事を色々と考えてしまう自分が、可笑しくて情けない。
たかが週末一日、会わなかっただけなのに、こんなに考えてしまうのは、豪の事がすごく好きで。
好きだからこそ、今の関係で悩んでしまう。
なのに、奈美の中の結論は、互いに身バレした以上、口淫するだけの関係は、スッパリと終止符を打つ事。
出会う前の頃に、戻った方がいいという事。
豪には、会っていくうちに芽生えていった慕情を伝えず、奈美の中だけで叶わぬ想いを秘めていればいい。
——だけど、すごく苦しい。
誰にも言えず、抱え込むしかできない、彼への特別な感情。
奈美の全てが、今にもパンクしてしまいそうだった。
瞼が急に熱を纏ったように感じ、気付くと、堰を切ったように涙が溢れている。
「私…………わ……た…………し……!!」
複雑に絡み合う感情を、奈美は、持て余すしかなかった。
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