テラーノベル
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あたしはずっと探してた。
あの屋上へ続く階段を。
止まったままの恋を更新させたくて、
“ だれか “の温もりを求め、疑似恋愛に浸っていた。
それは、” だれか “ではなく、紛れもなく、あたしの目の前にいる” 柊 碧音 “を求めていたの。
宝石を閉じ込めた瞳は空の色。夜の帳に隠れた、目映い色。
「ついでに、言っていい?」
「……うん」
「会いたかった」
「…!」
「会いたかったよ、これでも。高校の時、柴崎に嫌われたと思って、すげえ落ち込んだ。すぐに話したかった。でも、俺が話しかけたら柴崎は嫌がるかと思って、どうやっても柴崎に迷惑はかけたくないから、ずっと我慢してた」
なんてことだ。柊の言葉に嘘がなければ、あたしたちはあの頃から、イタチごっこを繰り返していたらしい。
「久々会ったら、可愛くなってるし?割と遊んでるみたいだし?すぐホテルにも着いてくるし、俺の妄想の中の純粋ではかな〜い柴崎を返せ」
「なによそれ!凶暴って言って、彼氏できないって貶してたの、だれよ!」
「だから俺にしなさいって意味。柴崎を手なずけれんの、俺くらいじゃないの」
サラッとあまい言葉を聞かせる柊に、あたしの心臓はそれ以上に甘い音色を奏でる。
してやったりな柊に、負けっぱなしのあたしは、こくんと頷いた。
強がりなあたしは、たったそれだけしか出来なかった。それだけしか応えることが出来なかった。
それなのに、柊はあまりに嬉しそうに微笑んでくれるから、感情が溢れて、泣きそうになった。
「……!もう、帰る……!」
それを隠すようにくるりと踵を返すと、くん、と腕を引かれ、身体は急停止する。
「帰るってどこに?」
「うち!」
「あのね、因みに俺ん家すぐそこなんですよね」
「!?」
「なんも言わないから普通に俺ん家に向かってたんですけど、そういや柴崎ほとりは俺の家に入りたくなかったんだっけ」
「……性格、悪いよ」
「そ。前から知ってるだろ?」
うん、知ってる。
性格悪い癖に面倒見がいい事も知ってる。
「ちなみに、俺、付き合うとすげー一途で、長続きすると思うよ?」
「……え?」
「柴崎に会うために、屋上行ってた、って言ったら?」
にやりと微笑む柊に、何も言い返せない。しかし、頬の熱だけは異様にあつい。あたしの腕を掴んでいた柊の手はゆっくりと落ちていって、手のひらが重なると、指先がぱらぱらと絡み合う。
「……柊は、あたしのことどう思ってるの?ちなみに、あたしは柊のこと、わりと好きですけど」
「あそ。俺も柴崎のことは、わりと好き」
「ふーん。同じなんだね」
「昔から同じじゃねーの、多分」
きっと、その通り。
趣味も、好きな音楽も。居酒屋で頼むお酒の種類と、ラーメンの麺の硬さも同じ。
あたしたちは生き方が似ているから、お互いのことを考えすぎて、言いたいこと、言えないこと、その境界線を越えられないでいたのだ。
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白山小梅
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