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ベリアン ぶっ倒れる
トリコとロボが持ってきた転送装置は、今主の部屋のど真ん中に置かれている。
流石に邪魔なのと主の部屋に置いておくのは如何なものかということで、主の部屋と執事用の浴室の間にある廊下に移動させることにした。
体力や筋力が強いハウレス、フェネス、バスティン、ロノで運び出し、ベリアンがマニュアルを持って指示出し、ボスキとアモンがサポートを行うことになった。
「では、持ち上げてみてください」
「「「「せーのっ・・・ゔっ」」」」
やたらと大きく重い転送装置は4人で運ぶのは無理そうだったため、ボスキとアモンも手伝いに入る。
6人でも辛そうな様子を見て、ロボが転送装置の下に潜り込む。
「あ!ダメっす!危ないっすよ!」
アモンの制止を聞かずに転送装置の中心あたりまで入っていったロボはそのまま上に機械を持ち上げた。
いきなり腕にかかる負荷が軽くなった執事達はロボの力の強さに驚きつつ、廊下に少しずつ運んでいった。
「下ろしましょう!
ロボットさん、出てきてください」
ロボは転送装置の下から急いで抜け出し、執事達は重たくなった機械を慎重に床に下ろした。
「はい、お疲れ様です!
えっと・・・それではまず、このコードをこっちのコードに差し込んで・・・」
ベリアンはマニュアルを見ながら慣れない手つきでコードや部品を取り付けていく。
ロボは裏側に繋ぐコードなどをどんどん差し込んでいき、手早く取り付けを終わらせた。
ベリアンがコードの差込口を見つけられずに転送装置の周りをウロウロと歩き回っているのを見たロボは、差込口指さして教える。
「あ、そこでしたか・・・
ロボットさん、ありがとうございます」
ホッとしたように礼を言いベリアンがしゃがみ込んだ瞬間、カサカサと小さな音が鳴りだした。
ベリアンの顔が引き攣った瞬間、ベリアンの足元から黒光りする虫が顔を出した。
「っ!嫌ああああぁぁぁっ!!!」
屋敷に響き渡るベリアンの悲鳴。
すぐに主の部屋に居た執事達やすぐ近くで休憩していた執事達が駆けつける。
パニックになったベリアンはバスティンの背後に隠れ、ロノに「虫が、虫さんがぁ!」と縋り付いた。
「大丈夫だ、ベリアンさん、大丈夫だからオレの上着を引っ張るのはやめてください・・・」
「ベリアンさん、すぐに片付けるから安心してくれ」
バスティンがいつも通り虫を捕まえようと前に出ると、ロボが丁度両手で虫を捕まえているところだった。
「・・・すごいな、もう捕まえたのか」
〈ピョン〉
ロボは虫を両手で掴んだまま、ラトと手を繋いで廊下に出ていたトリコのほうに向かっていく。
ベリアンは虫が見えない角度にロノを動かして、そっと様子を窺っている。
トリコがロボの前に座ると、ロボはそのまま手の中の虫をトリコに差し出した。
トリコは口を開け、カサカサと動いている虫をぱくりと食べてしまった。
「「「「「「「え゛・・・?」」」」」」」
信じられない光景に誰も動けないでいるうちに、トリコは虫を完食してしまった。
ニコニコしているトリコに、固まって動けない執事達、そして、更にパニックになったベリアン。
「え、へ、いま、食べ・・・食べましたよね?主様、虫さん、食べて、え?虫さんって、食べられ・・・?
虫、虫さんを・・・?うぅ、おぇっ・・・」
ベリアンはあまりのショックに虫さん、虫さん、と呟きながら意識を失った。
ドサッ
ベリアンがぶっ倒れたことでやっと正気に戻った執事達は、目の前の状況を理解し改めてパニックを起こした。
「「ゴキブリって、病原菌の塊ですよね!?食べたら死にませんか!?
ルカスさん!?どうしたら良いですか!?ルカスさん!!」」
ルカスに掴みかかるナックとフェネス。
「なんてモン食ったんだ!!」
「すぐ吐いてくださいっす!!」
「吐かせていいんだな!?やるぞ!?」
「ゴミ箱でいいか?」
「マニュアルの紙使っていいよな!?」
すぐに吐き出させようとするボスキ、アモン、ハウレス、バスティン、ロノ。
「主様の着替えを用意して、お風呂に入ってもらおう、用意して」
「は、はいっ、着替え持ってきます!」
「そこのお風呂でいいの?お湯張りしますね!」
冷静にフルーレとラムリに指示を出し、ラトを抑えているミヤジ。
そして、がっくがっくと揺さぶられながらベリアンの手当をしているルカス。
さながらカオスな状況が出来上がっていた。
「着替え持ってきました!着られそうな服が俺のしかなかったのでぶかぶかでしょうけど・・・」
「お風呂、そろそろ入れますよ〜」
トリコが胃の中のものを吐き出しきった頃、フルーレとラムリがミヤジに報告に来た。
「ありがとう、助かったよ。
あと、ラムリ君、ロボット君の消毒をお願いしてもいいかな?
それと、フルーレ君、私が主様をお風呂に入れるから、ラトくんをお願いしてもいいかい?」
「は〜い」
「分かりました!
ほら、ラト!部屋に戻るよ!」
「・・・ミヤジ先生、私もトリコとお風呂に入りたいです」
「ダメ!ミヤジ先生の邪魔になっちゃうでしょ!」
「フルーレも一緒に入りたいのかな?」
「なんでだよ・・・」
ラムリにピカピカに拭き上げてもらったロボは案外汚れていたらしく、使った布巾が何枚も真っ黒になってしまった。
その分さっぱりとしたロボは嬉しそうにしゃがんでいたラムリの頭を撫でた。
「え〜?撫でてくれるんだ、ありがと〜」
ラムリも満更でもない様子で受け入れている。
嘔吐のダメージが回復してきたトリコに、落ち着いてきたフェネスが声を掛けた。
「主様、フェネスと申します。
入浴補助・・・お風呂のお手伝いをする担当なので、俺と一緒にお風呂に入りましょうか。
もし、他に一緒に入りたい人が居たら、その人も連れてきていいですよ」
フェネスは地下組がお風呂担当で揉めているのを聞いて正気に戻ったところだった。
そのため、本来の入浴補助担当は自分だし、と負けたくない気持ちが湧いてきて、珍しく積極的に風呂を勧めている。
『?』
しかし、お風呂など入ったことのないトリコは何のことかさっぱり分からず、フェネスを見上げて不思議そうにしていた。
「えっと、どうしたら・・・」
強制的に風呂にいれる選択肢が浮かばないフェネスは、予想外の反応に困ってしまう。
「フェネス君、私も一緒に入りたいのだが、大丈夫かな」
「え?ミヤジさん・・・
わ、分かりました、お願いします!」
正直、こんなに小さい子供を風呂に入れた経験がなかったフェネスは、子供の扱いが上手いミヤジが一緒に入ってくれると聞いてかなり安心した。
「ラムリはそこの執事用のお風呂にお湯を溜めたようなので、今日だけはそちらで我慢してくださいね・・・」
「いや、あまり湯船が広すぎても怖がってしまうかもしれないから、丁度良いよ」
入浴の支度をして、フェネスは脱衣所でトリコの服を脱がせ、あまりの汚れ具合にそのままゴミ箱に突っ込んだ。
「・・・フェネス君?今・・・」
「あんなお召し物を着続けたら病気になります。駄目です」
「まぁ、否定はしないが・・・問答無用で主様のものを捨てるのは・・・」
「あ・・・そうですよね、すみません・・・(いけない、ハウレスのベッド周りの片づけをするときの癖が・・・)」
トリコは不思議そうにミヤジとフェネスを見るだけで、特に嫌がったりする様子も無いので、2人も服を脱いでトリコを浴室に連れて行く。
「まずは、体の汚れをざっと落として、髪の毛もしっかり洗わないといけませんね」
ところどころ変色するほど汚れているトリコの長い髪を確認し、二人がかりで髪を丁寧に洗い始める。
シャワーを頭からかけるだけで濁った水が流れていく。
丁寧にお湯で汚れを落とし、シャンプーをつけるが全く泡立たない。
「・・・これは、長丁場になりそうですね」
一旦シャンプーを洗い流しながらフェネスが呟く。
「そうだね、がんばろう」
ミヤジは全く心が籠もっていない励ましを口にし、再度シャンプーを手に取った。
トリコはその間気持ちよさそうに目を閉じてされるがままになっており、長時間のシャンプーでも特に苦痛に感じていないらしい。
何とかシャンプーを終わらせ、簡単にトリートメントをつけて、体を洗い始めた。
髪の毛を洗ったときよりは簡単に汚れは取れるのだが、痛くないように気をつけながらスポンジで洗う作業はかなり神経を使う。
トリコの全身がぴかぴかになる頃には二人共汗だくで疲れ果てていた。
「・・・フェネス君、主様が温まったら上がるね。あとは頼んでいいかい?」
「はい・・・俺が主様の体を拭いて差し上げている間に体洗っちゃってください」
「ありがとう」
ミヤジは軽く体をシャワーで流すと、温め直したバスタブにトリコと一緒に浸かる。
お湯の中に入るのは少し怖かったらしいトリコは、ミヤジの首にしがみついていたので、少しずつお湯を体にかけて慣らす。
暫くすると、トリコはおっかなびっくり水遊びを始める程度には慣れてきた。
「おいで。肩まで浸かって、温まろうね」
ミヤジはトリコを膝に座らせ、溺れないがしっかり温まれる高さになるように調節する。
トリコは背中にミヤジのお腹が当たる感覚が気になるのか、しきりにミヤジを振り返る。
そのたびにミヤジは優しく笑って、頭を撫でてあげたり顔に付いた水滴を取ってあげたりした。