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#ご本人様には関係ありません
楪羽*yuzuriha*
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雪月❄️
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第六十四話 繕うもの
静まり返る長い廊下に、朝の光が差し込んでいた。
濃い紫色のカーペットに当たった朝日が、柔らかくその色を浮かび上がらせ、張り詰めた空気に温かな光を落としている。
その光をぼんやり眺めていた翔太が、ふいに呟いた。
翔太💙「スイカジュース飲みたい」
ラウ🤍「何言ってんの、あんた」
翔太💙「だって、美味しそうじゃん」
翔太が見つめる先へ、集まる視線。
赤紫色に染まったカーペットを前に、あちこちから小さなため息が漏れた。
康二🧡「俺はワイン飲みたい」
翔太💙「朝から何言ってんの」
康二🧡「しょっぴーに言われんのは心外や」
んっ……ん゛っ。
大きな咳払いとともに、廊下が静まり返る。
朝日の差し込む廊下を、磨かれた革靴が迫ってくる。
コツ、コツ、コツ。
翔太はゴクリと生唾を飲み込んだ。
背中を伝う汗に、不快感を覚える。
理事長の姿に、翔太は思わず視線を伏せた。
あの日、店で一緒に酒を飲んで以来、理事長と顔を合わせるたび、翔太はどうしてもあの夜を思い出してしまう。
もう、〝ユキ〟として会うことはない。
そう、心に決めたはずなのに。
〝ユキ〟を好いてくれている理事長を思うと、胸の奥が痛んだ。
翔太はナース服のスカートを、ぎゅっと握りしめる。
その仕草を、理事長は見逃さなかった。
辰哉💜「……君、妹いたよね?」
翔太💙「……え?」
思いもよらない言葉に、翔太が顔を上げる。
辰哉💜「似てるんだよねぇ〜。キミに」
翔太の心臓が、大きく跳ねた。
思わず列に並ぶ亮平と蓮へ、救いを求めるように視線を送る。
二人とも、あの夜のことを知っている。
理事長と一緒に、あの店にいたのだから。
ラウ子🤍「意中の子にそっくりなんですって、翔太さんが」
翔太💙「…………」
ラウ子は、意味ありげに翔太を見つめた。
ラウ子🤍「華奢で、雪うさぎみたいに真っ白な柔肌」
翔太の指が、ナース服のスカートをぎゅっと握る。
蓮🖤「似た人がこの世の中には三人いる、とか言いますからね」
辰哉💜「そうなんだよねぇ」
蓮🖤「私も理事長とその方にお会いしましたが……翔太に似ているとは思いませんでしたが」
亮平💚「俺もそう思うなぁ」
何食わぬ顔で亮平が続ける。
ラウ子🤍「……ふふ」
小さく笑ったラウ子が、翔太から視線を外す。
何も言わないその笑みが、かえって怖かった。
けれど、それ以上は何も言わなかった。
亮平💚「うん。翔太は翔太でしょ?」
何も知らない顔で笑う亮平に、翔太は小さく息を吐いた。
本当なら、嬉しいはずだった。
誰よりも、翔太として認めてほしかったはずなのに。
翔太💙「…………」
喉の奥に、言葉が引っかかる。
さっきまでの安心感が、どこかへ消えてしまった。
その理由を、翔太はまだ言葉にできなかった。
辰哉💜「まぁ、似てる人なんていっぱいいるからねぇ」
翔太は胸元に手を添える。
どうか、このまま気づかないで。
あの夜の〝ユキ〟を、いつまでも思い出さないで。
そう願いながら――。
その背後から、ヒールの音が近づいてきた。
コツ、コツ、コツ。
翔太が振り返る。
そこには、ラウ子が立っていた。
翔太は一歩、後ろへ身じろいだ。
ラウ子🤍「最近、お店に出てないみたいなの」
翔太💙「……」
ラウ子🤍「翔太さんが変わってあげられればいいのにね」
口元に浮かべた笑みとは裏腹に、その目は笑っていなかった。
ラウ子🤍「きっと、ドレスが似合うと思うの」
翔太💙「……僕は……ユキじゃない」
それは、二人にしか聞こえない小さな声だった。
震える指先を隠すように、翔太は拳を握りしめる。
その拳に、白く綺麗な指がそっと添えられた。
驚くほど、冷たい指だった。
ラウ子🤍「待ってる……ユキちゃん」
翔太💙「…………」
その声に、翔太の背筋が凍る。
辰哉💜「もう雪うさぎでもいいかも。ユキちゃんにしか見えなくなってきた♡」
そう言って笑った理事長が、ふと思い出したように亮平を見る。
辰哉💜「あ、そうそう。亮平」
亮平💚「ん?」
辰哉💜「教授戦なんだけどさ」
亮平💚「はい」
辰哉💜「教授戦、辞退できないよ」
亮平💚「……へ……なんで?」
辰哉💜「ん?」
何でもないことのように首を傾げる。
辰哉💜「ルール変えたから」
亮平💚「はあ?」
理事長はそんな亮平の反応など気にも留めず、ひらひらと手を振った。
辰哉💜「じゃ、そういうことだから」
そう言い残すと、何事もなかったかのように総回診の先頭へ戻っていく。
その場に残された亮平は、一拍遅れて隊列へと戻った。
そして何事もなかったように、再び整然と歩き始める。
廊下の角を曲がる直前。
亮平がふと振り返った。
〝大丈夫だから〟
声には出さず、そう口だけを動かす。
翔太が小さく頷くと、亮平はいつものように、満面の笑みを浮かべた。
そのまま隊列は、長い廊下の向こうへと消えていった。
ラウ🤍「さっ、仕事に戻るぞ」
翔太💙「はいっ」
廊下を歩く足取りは軽く、ワゴンからカタカタと鳴る音は、なんだか可愛らしくて愛おしい。
翔太は少しだけ口元を緩めた。
ついさっきまで胸を締めつけていた不安も、亮平の笑顔を思い出すと、少しずつ薄れていくような気がした。
ふと目に入った中庭には、白詰草が咲いている。
自然と翔太の足は彼の元へ向かった。
翔太は305号室の前で足を止めると、軽くドアを叩いた。
涼太❤️「やあ、翔太。今日もご機嫌だね」
翔太💙「朝、病院に来るまではね」
ぽろりと本音がこぼれた。
しまった。
翔太は慌てて口元を手で覆う。
いくら幼なじみとはいえ、患者にプライベートなことを話すつもりなど、さらさらなかった。
涼太❤️「何か困りごと? 僕でよければ力になりたいな」
翔太💙「ありがとう。でも、何でもないよ。大丈夫。ほら、こんなに元気だ」
精一杯の笑顔で、繕ってみせた。
そんな翔太を見つめたまま、涼太の手がゆっくりと伸びてくる。
その手が、翔太の手をそっと包み込んだ。
次の瞬間。
強く引かれた身体が、涼太の胸にすっぽりと収まる。
背中を、優しく撫でる手。
翔太💙「……涼太?」
涼太❤️「無理して笑う必要ないだろう」
耳元で落とされた声は、どこまでも穏やかだった。
涼太❤️「俺の前では、翔太でいて」
翔太は何も言えなかった。
ただ、胸元に頬を預けると、静かに目を閉じた。
涼太の胸から伝わる温もりと、一定の鼓動。
その音を聞いているうちに、張り詰めていた身体から少しずつ力が抜けていく。
涼太❤️「……眠い?」
翔太💙「……ちょっとだけ」
涼太❤️「寝てもいいよ」
翔太💙「でも……仕事……」
涼太❤️「少しくらい大丈夫だろう」
背中を撫でる手が、ゆっくりと動く。
翔太は小さく息を吐いた。
翔太💙「……じゃあ、ちょっとだけ」
そう呟いたのを最後に、翔太の瞼がゆっくりと閉じていく。
やがて、その呼吸は穏やかなものへと変わった。
涼太は胸元で眠る翔太を見下ろし、微かに笑う。
涼太❤️「……本当に、頑張り屋だな」
その声にも、翔太はもう反応しなかった。
静かな病室に、時計の針が刻む音だけが響いている。
どれくらい経った頃だろう。
コン、コン。
控えめなノックの音が響いた。
涼太が顔を上げる。
ドアが開く。
ラウ子🤍「……あら」
そこに立っていたラウ子の視線が、涼太の胸元へと向けられる。
眠っている翔太。
ラウ子🤍「やっと見つけた」
小さく呟いた声には、安堵とも別の何かともつかない響きがあった。
涼太❤️「翔太を探していたの?」
ラウ子🤍「ええ。ちょっとお願いしたいことがあって」
ラウ子は眠っている翔太を見つめる。
そして、ほんの少しだけ目を細めた。
ラウ子🤍「……よく眠ってるわね」
涼太❤️「さっきまで……少し疲れていたみたいで」
ラウ子🤍「そう」
それ以上、何も聞かなかった。
ラウ子は手にしていた書類へ視線を落とす。
ラウ子🤍「実はこれ、理事長室へ届けないといけないんです」
涼太❤️「理事長室?」
ラウ子🤍「ええ。でも、私これから別のところへ行かなきゃならなくて」
そう言いながら、ラウ子は翔太の顔を見る。
ラウ子🤍「翔太さんにお願いしてもいいかしら?」
涼太❤️「……起こせと?」
ラウ子🤍「ええ。ほんの少しだけ」
涼太は眠っている翔太を見つめる。
穏やかな寝顔。
ようやく安心したように眠っている翔太を、起こすのは少し躊躇われた。
涼太❤️「……分かった。僕から伝えておこう」
ラウ子🤍「ふふ。ありがとうございます」
ラウ子は書類を涼太へ渡す。
けれど、その指先は書類を離れる寸前、ほんの一瞬だけ止まった。
ラウ子🤍「……理事長室へ、お願いしますね」
涼太❤️「了解」
ラウ子は微笑むと、静かに病室を出ていった。
扉が閉まる。
再び静寂が戻った病室で、涼太は腕の中の翔太を見つめた。
涼太❤️「……翔太」
返事はない。
涼太❤️「起きられるかな」
小さく笑いながら、眠る翔太の髪をそっと撫でた。
コメント
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マジで働いてないよね🤣🤣🤣🤣でも働かなくても可愛いから許される💙
みぅだよ🤍🥀 六十四話、読み終えたよ。 理事長の「妹に似てる」発言、ラウ子の“ユキちゃん”呼び…… じわじわと翔太の仮面が剥がされていく感覚、すごく怖かった。 あの“笑ってない目”が、言葉より重かった。 亮平の「大丈夫だから」の口パクが、めちゃくちゃ沁みた。 ちゃんと見てる人がいるんだって思えた。 涼太の胸で寝落ちするところ、もう守られてる感が満載で涙出そうになったよ…… でも、あのラウ子の“やっと見つけた”が、どうしても引っかかる。 花凜さん、この重さと優しさのバランス、ほんとに天才だよ。 次が気になりすぎる……!