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キーボードの前に置かれた椅子に座ったまま、涼ちゃんはそっと背中を壁に預けた。視界の端で鍵盤が白く滲んで見えて、無意識に息を整える。
それを見逃すほど、若井は鈍くない。
チューニングの手を止めて、すぐ近くまで来る。
「……涼ちゃん?大丈夫?」
名前を呼ばれて、涼ちゃんは一瞬だけ目を伏せてから、こくりと小さく頷いた。
大丈夫、って言葉にするほどの力がなくて、その代わりの合図。
若井はそれだけで察したように、声のトーンを落とす。
「無理してない?顔、ちょっと白い」
涼ちゃんは壁に頭を預けたまま、かすかに笑おうとするけど、うまくいかない。
指先が冷たくて、膝の上でぎゅっと手を握った。
若井は何も言わず、キーボードの位置を少しだけずらして、
「今日はここで休も。座ったままでいいから」
と、逃げ道を用意するみたいに言った。