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 人が箒で空を飛ぶ、なんてのは、おとぎ話かファンタジー世界だけの非現実的な夢物語である。

 あんなただの掃除用具なんかで空が飛べるようなら、今頃は自転車の如く一人に一本、世の中空飛ぶホウキだらけになっているだろう。

 それはそれで便利な気はするけれど、それだと航空会社は商売あがったりなんだろうな。

 ……そもそも箒である必要があるんだろうか?

 長くて棒状ならなんでもいいんじゃないか?

 そんな他愛もない、非常にどうでもいいことを考えながら高校へ向かういつもの通学路。

 遅刻常習犯である僕はこれまたいつものように、人影のまばらなその道をとぼとぼと歩いていた。

 今頃は一時限目の授業が始まったくらいだろうか。

 今日もまた担任に呼び出されちゃうのかぁ――まぁ、いいけど。

 担任からお小言をもらうのはいつものことだし、共働きの両親もそのことに関して特に何も僕には言わない。

 放任主義、とでも言えばよいのだろうか。

 別に僕という存在に興味がないのではなく、僕には僕の人生があるのだから好きにしなさい、というのが父と母の信条なのだ。

 何なら学校を休んでもいいのよ、なんて母は言うのだけれど、まぁ、そんなわけにもいかないだろう。

 せめて卒業して大学に行ける程度には頑張りたい。

 そんなことを考えながらぼんやりと空を見上げる。

 それにしても雲一つない良い天気だ。

 真っ青な空はどこまでも澄み渡り、遠く高いところをよく知らない鳥たちが群れを成して飛んでいる。

 僕もあんなふうに空を自由に飛べたらなぁ……

「――ん?」

 その鳥たちよりもやや低いところ、近くの高いビルの向こう側から、不意に現れた謎の物体。

 僕はその謎の物体を、目を細めてじっと観察する。

 それはUFOと呼ぶにはあまりにも小さく、円盤型でもなく、どちらかというと箒にまたがった女の子みたいなシルエットで――

「――んんっ?」

 後ろで束ねた髪は風になびいてゆらゆらと揺れ、まるで昔の漫画か何かみたいに口にはパン――コッペパンみたいな形だ――をくわえており、

「あれは――」

 そのやや幼くも端正な顔立ちはどこかで見覚えがあって。

 僕は自分の目が信じられず、思わず立ち止まってその様子をまじまじと見つめていた。

 箒にまたがった女の子はモグモグと口を動かしてパンを咀嚼しつつ、ちらりと僕の方に顔を向けて、

「……楸さん?」

 それは、僕のクラスの女の子。

 楸真帆、その人だった。

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