テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
『霧島→小宮』
小宮祥太の遺体が見つかってから三日が経った。
「戻りました」
大した収穫も無いまま、私と青山刑事が署に戻ると先輩の小林刑事が顔を上げてこちらを見てきた。
「どうだった?」
「さっぱり」
青山刑事はそう言って首を竦めてみせ、小林刑事は「そうか」とだけ答えた。
「そっちは?なんか進展あった?」
「小宮の司法解剖の結果が出た」
そう言って差し出された資料を受け取る。
「あの遺体は一度冷凍されていたらしい」
「なんでまたそんな……」
青山刑事は椅子に腰をおろし、表情を曇らせて資料に目を落とす。
「胃の中は空っぽだったそうだが…」
そこで小林刑事は言葉を止めて、小さくため息をこぼした。
「一回、胃を取り出した痕跡があった」
「まさか、胃の中身を捨てたってこと?」
「おそらく、そして、胃を元に戻した」
「それってつまり…」
私は開いた口が塞がらなかった。
「意図的に胃の中身を出して、死亡推定時刻を誤魔化すためだろう」
「犯人は小宮祥太を殺害後、遺体をバラバラにし、胃の中身を空っぽにして、一旦冷凍し、廃工場に遺棄した。ってこと?」
青山刑事が淡々と言葉を並べると、小林刑事は小さく頷いた。
「流れとしてはそれが正しいだろう」
「そうは言っても小宮祥太は185cmもある大男だ。がたいも良い。いちいち体を切断するよりも、殺してそこに放置した方が何倍も楽だろ」
そうだ。
人の体を切断するのは労力がいる。ましてや相手は成人男性。バラバラにするのは容易なことじゃない。
それなのに、わざわざそんな手の込んだことをする意味が理解できない。
「何か、理由があるんだろうな」
”何か”。
どんな理由があるというんだろう。
死亡推定時刻を誤魔化す方法は、他にいくらでもある。
「質の悪いサイコパスキラーか愉快犯か…」
小林刑事はそう言って手にした資料を机の上に投げる。
もしそうなら、一人目の霧島唯はあまりにも”普通”に殺害されている。
死体を弄ぶタイプの犯人とは、考えられない。
「順番、とかね」
「順番?」
青山刑事の言葉に私と小林刑事は首を傾げた。
「霧島唯のあとに、小宮祥太が見つからなければならなかった」
「それはさすがに…」
「突飛な発想だな。その理由はなんだ?」
「犯行現場を見て、犯人はきちんとした奴だってことがわかった。バラバラにした遺体を散乱させるわけでもなく、綺麗に積み上げて一番上に頭部を置いていたんだ。そんな奴が、意味の無いことをするはずがない」
「それで、順番、か」
しかし、そう言いながら小林刑事は納得していない様子だった。
「順番だったとして、それが何を意味するんですか?」
「いや、さすがにそこまではわからないよ。順番ってのも当てずっぽうだしな」
青山刑事は再び首を竦めてみせた。
「でも、メッセージ性はあるのかもしれません。二人とも右手が切り落とされていますし」
「右手、か…」
小林刑事はポツリと呟いて、手元の資料に目をやる。
「なんで右手なんだろうなぁ…」
「人体には色んな意味があるんですよね。私、全然知りませんでした」
私はそう言って、自分のパソコンを開くと左右から先輩二人が覗き込んだ。
「人間の体は”宇宙の縮図”と呼ばれ、各パーツに精神的な意味が割り当てられているそうです」
「へぇ〜…」
「その中で右手には”意志、行動、現実、未来”といった意味や”宇宙のエネルギーを放出する”という意味もあるそうです。もしかしたら、犯人は被害者の”未来”を奪い取るという意味を込めて右手を切り取っているのではないでしょうか?」
この見立てには少し自信があったのだけれど、左右にいる先輩方には響かなかったようで、”うーん”という曖昧な反応しか返ってこなかった。
「なるほどねぇ。宇宙、エネルギー……未来かぁ…」
「この仮説には、無理がありましたでしょうか?」
私がおずおずと尋ねると青山刑事は「いやいや」と言って、首を大きく横に振った。
「理由がわからない以上はあらゆる角度で調べて見なければいけない。そう言った意味では、これだって充分可能性はある話だ。な?小林」
「ああ、そうだな」
話を振られた小林刑事は小さく頷いて見せた。
「あ、あの…」
そこに平良(たいら)警部がやってきて、おずおずと私たちに声をかけた。
「なんですか?」
「えっと……ちょっと手伝いに行ってきてほしいんだ」
声も細く、ボソボソと喋る。
視線も合わないし、顔色のあまり良くない。
不眠症だという噂はあるけど、それだけではないような気がする。
「手伝いにってどこにですか?」
青山刑事がゆっくりと立ち上がる。
「…相浦(さがうら)家だ」
「相浦家?」
私たちは同時に首を傾げた。
「今村絋(いまむら ひろ)くんが行方不明になった事件があっただろ?」
「はい、聞いています。行方不明になってすぐ見つかったんですよね」
「自分を攫ったのは大西茂(おおにし しげる)で、相浦家に連れて行かれ、そこで大量の死体を見たと証言したそうだ」
「大量って…」
青山刑事は顔を引きつらせるが、平良警部は淡々と説明する。
「その証言を受けて家宅捜査をしたところ家の中から”複数”の、若い女性の遺体が見つかったそうだ」
しょこ@愛雅色
152
羽海汐遠
10,203
14,620
コメント
2件
うわ、この話、どんどん不気味になってきますね…。解剖結果で胃が一度取り出されてたってところ、ゾッとしました。死亡推定時刻をわざと狂わせてるって、もう完全に計画的犯行ですよね。あと右手に「未来を奪う」意味があるって仮説、すごく刺さりました。犯人の執着とか狂気みたいなものを感じて、引き込まれます。続きが気になりすぎる…!