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30話 似ている場所
数字板を押す。
一つ。
二つ。
三つ。
指先が、
少しだけ滑る。
リカは、
小さく息を吐く。
薄手の上着。
袖は長め。
腰元で、
電子マネーとお守りが
軽く触れる。
四次元装置が、
静かに反応する。
視界が、
ほどける。
足元。
見慣れた舗装。
建物の高さ。
看板の配置。
「……?」
リカは、
立ち止まる。
景色は、
知っている場所に似ている。
通りの幅。
店の並び。
光の色。
でも。
音が違う。
遠くの足音が、
少し遅れる。
話し声が、
薄く重なる。
風の音が、
高い。
友達が、
横を見る。
髪を後ろでまとめた子。
手帳を抱え、
眉をひそめる。
「たぶん、違う。」
派手めな服の子は、
きょろきょろと周囲を見る。
キーホルダーが
小さく鳴る。
リカは、
番号を想像する。
入力履歴は、機能にない。
もう一度、
番号を確かめる。
一つ、
違う。
たった一つ。
それだけで、
音が変わる。
空気が、
少しだけ落ち着かない。
通りを歩く人は、
気にしていない。
ここでは、
これが普通らしい。
リカは、
深く息を吸う。
もう一度、
装置に触れる。
今度は、
慎重に。
数字を押す。
景色が、
またほどける。
音が、
元に戻る。
足音が、
近い。
声が、
はっきりする。
リカは、
少し笑う。
似ている場所。
違う音。
番号一つで、
世界は
ちゃんと
別れていた。