テラーノベル
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1人の青年が、花畑へとやってきた。
野原には色とりどりの花が。花弁が風に乗り、ふわりふわりと空を舞っていた。
「おぉ・・・!」
青年はそうこぼし、小さな古いカメラを向け、写真を撮る。
すると、カメラから写真がプリントされる。
そこには、花畑に花弁が無数に舞っている景色が。
青年は笑い、それを封筒にまとめ、文字を書く。
そして、パチンッと指を鳴らすと、封筒が消えた。
(こういうとき、いろいろ弄られてこの能力を持ってたのはいいな)
そう青年は笑う。だが、
パキッピシッ
とカメラが割れると共に、大きなヒビが聞こえた。
(・・・あー・・・“もう終わりか”・・・)
青年は最後の力を振り絞り、花畑の真ん中へ、そして、横になる。
花弁が水色の空を舞う姿は、幻想的で美しかった。
青年はカメラを向け、写真を撮ろうとシャッターを切ろうとした、だが、パキンッと音を立て、指が崩れた。
「・・・あーあ・・・とうとう壊れた・・・か・・・」
声も掠れ、ヒビが入った指先が順にヒビが入り始めた。
「・・・少しの間だったが・・・楽しかったなぁ・・・」
青年はそうこぼした。それは、もう既に自分の運命を受け入れているのと、少しまだやり残しがあるかのようだった。
「・・・でも・・・やっぱり・・・」
青年の瞼に映るのは、小さな生徒たち、そして、自分の元となったオリジナルたち。
少ししか会っていなかったが、とてもとても、楽しかった。
「・・・死にたくないなぁ・・・」
そして、青年は瞳を閉じた。
───ローブが風に乗って、空へと飛んでいく。
その花畑に、壊れたカメラが1つ、置かれていた。
それが誰のものなのか、どうしてそこにあるのか、誰も知らない。
✵✵✵✵✵
すまないスクールに、1人の小さな子が屋上で本を読んでいた。
名を“グレイ”
銀さんのクローンだ。
本を読んでいると、ひらりと花弁が読んでいた本に飛んできた。
グレイがそれに触れようとした途端、ひらりと花弁が飛んでいく。
悠々と空に、手が届かない所に飛んでいく。
それを見ていると、ふと、もう薄れかけていた記憶を思い出した。
──白い白い世界で、優しげに微笑み、頭を撫でてくれたあの人を
「・・・せんせぇ・・・?」
グレイの瞳から、ポロポロと涙が零れた。
どうして涙が出るのか、グレイには分からなかった。
銀さんが探しに来るまで、グレイはひたすら泣いていた。
・・・もう居ない、あの人を思い出して。
そして、宛名の無い手紙から花畑の写真が送られてから、写真が送られてくることは二度と無かった。
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