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翌日、絵斗は朝から気が重かった。緊張のせいで食事が喉を通らず、らだ男が、大丈夫?と眉を顰める。
それに平気だと偽って、何とか笑顔で堪えた。
午後になって昨日らだ男が買ってくれた服に着替えたが、一人でも問題なく着られるのは有難かった。
ホテルに行く前にらだ男に連れられた美容室で女の子のようなウィッグを作ってくれた、
衣装に合うメイクも施してもらった。ナチュラルな感じで、大人びてるというよりは、可愛らしい雰囲気に仕上がったのを、
らだ男も見て満足したらしい。
じゃあ行くかと、タクシーでホテルに向かう。
そうやっていざ辿り着いたホテルへ一歩足を踏み入れれば、宮殿かと思うような広さに、
絵斗は呆気に取られた表情でホールを見回した。
「ここの最上階のレストランだよ」
「どうしよう、緊張しすぎて胃が痛い……」
「ちゃんとごはん食べないからでしょ。どうしても気分悪くなったら途中で言ってね」
「分かった。頑張る」
約束の場所に早く着いたのは、絵斗たちだった。
「どうぞ、こちらで何かお飲みになってお待ちください」
そう言われて、ラウンジへ案内されたが、絵斗は薦められたそれに首を振った。
らだ男も同じようにいらないと言い、取り敢えず空いた席に座って、約束の相手を待つこと数分。
『ラダオ!』
と、大きな声で呼ぶ声がして振り向くと、背の高いスマートな黒髪男性と、黒髪美人の女性、
そして同じく長い黒髪とクリーム色のリボンを複雑に編み込んでサイドに垂らした美しい女性が笑みを浮かべてやってきた。
「どうも」
互いに同伴者を紹介し合い、食事の席へ移動する。
そこは、窓からのロケーションが最高の一角で、5人掛けの丸テーブルが置いてあり、
皺ひとつないテーブル掛けには、淡いオレンジの光が照らされていた。
『ラダオの大事な人に会えるなんて嬉しいよ。とてもチャーミングな女性じゃないか』
何て言ったのとらだ男の方を見遣ると、「ただの社交辞令だよ」と言って、詳しくは教えてくれなかった。
すると、彼の妻が、嘘はいけないわというように笑って、「あなたをチャーミングだと言ったのよ」と教えてくれた。
「あ、ありがとうございます……」
社交辞令であっても、褒められれば嬉しいものだ。
しかし、らだ男が社交辞令と言ったのも頷ける。例の娘さんは、とんでもなく綺麗な子だったからだ。
艶のある髪、雪のような白い肌、小さな鼻と魅力的な瞳。
睫毛はすごく長くて、花弁のような小さな唇は、可憐な笑みで彩られている。
「アリスさん……でしたよね、妖精みたいに可愛らしいお嬢さんですね」
「まぁ、ありがとう、アリス―――」
隣の娘に絵斗の言葉を伝えると、彼女は嬉しそうに微笑って、ありがとうと言った。
『まずは、乾杯しよう』
飲み物がそれぞれに配られ、今日の日の出会いにと乾杯する。
料理も順に運ばれ始めるが、今の絵斗に食事の味は分からない。――もちろん、お酒の味も。
とにかく粗相をしないように、そればかりで頭がいっぱいだった。
対するらだ男は、いつもと変わらずリラックスしているようだ。
場慣れしているのか、肝が据わっているのか、多分、どっちもだろう。
『――それで、お二人はいつ何処で出会ったの?』
娘の質問を、母親が日本語に訳してくれた。どうやら絵斗に尋ねたようだったので、グラスを置いて、「えぇと」と話し出す。
「子どもの頃から知り合いで……家が近所の幼馴染なんです」
「そうなのね。ということは、らだ男は初恋のお相手なのかしら?」
「え……と、」
そうですと言っていいのか迷った。実際そうだけど、今は演技を求められている。
それに、隣でらだ男が聞いている。肯定する言葉が咄嗟に出ず、「まさか」と絵斗は笑った。
「初恋は、全然別の人です。まあ、初恋と言っても子どもの時の話なので、ただの憧れだったのかも……」
「へぇ、初耳だね。誰?ソイツ」
「はい?」
何故からだ男がじろりとこちらを見てきて、絵斗は焦った。何で怒ってるの?
絵斗と同じようにらだ男の不機嫌オーラを感じ取ったのか、「あら、初恋の人に焼きもち?」とスポンサーの妻が笑った。
妻が笑った理由を尋ねた夫が、理由を聞いて同じように笑う。
『これはこれは、ラダオは彼女にゾッコンらしいな』
『羨ましいわ』
アリスが本気で羨ましそうに言う。
『プロポーズはもちろん、ラダオからよね。何て言われたのか、気になるわ』
『アリス、そういうことは、軽々しく人には教えないのよ』
『でも、気になるんだもの』
仕方ないわねというように母親が息を吐いて、絵斗に尋ねてくる。
「この子ったら、プロポーズに憧れを抱いているのよ。ラダオが貴女に何て言ったのか、気になってしょうがないんですって」
「それは……」
昨日、唯一打ち合わせした言葉だ。
「……い、一生、俺の傍にいろ……って……」
『素敵!』
何て言ったのと尋ねるアリスは、それを聞いて瞳を輝かせた。『ラダオって意外と情熱的なのね』と手を合わせて喜ぶが、
当の本人は知らん顔を決め込んでいる。
『もちろん、彼女はすぐにOKしたのよね』
アドラの視線は、絵斗の指に嵌ったシルバーリングに注がれている。
これは、らだ男が昨日の店で購入した、それらしく見えるだけの偽物なのだが、アドラがそれを知るはずもない。
『もし断られたらどうするつもりだったんだい?ラダオ』
からかい混じりの声に、沈黙が落ちた。
何か困ることを言われたのだろうかと絵斗が不安そうにらだ男の方を見遣った瞬間――らだ男は、はっきりと答えた。
『俺が本気で落としたいと思った、たった一人の人だ。YESと言うまで諦めずに口説いただろう』
それを聞いた絵斗以外の三人は、驚いた表情で彼を見つめた。
一瞬の間の後、女性陣は頬を赤らめ、男性は、素晴らしいと賞賛の声を上げた。
『君の情熱は、会社だけに向けられているのかと思ったけれど、そうじゃなかったんだね!』
「ねえ、何の話で盛り上がってるの?」
置いてきぼりを喰らった絵斗が尋ねるが、らだ男は、何も言わない。
妻も、「後で教えてもらうといいわ」とウインクするだけで、教えてはくれなかった。
その後も会食は和やかに続き、最後のデザートが来た時には、絵斗の緊張も大分解れていた。
思ったよりも気さくな人たちで、意地の悪い質問をされることもなかったし、
らだ男の相手が絵斗のような人間でも、信じられないとか釣り合わないとか、
そんな風に馬鹿にした態度を取ることもなかった。
アリスがらだ男に憧れていたのは事実のようだが、らだ男に意中の人がいて、
その相手に本気だと分かった以上は、素直にそれを受け入れるという感じだった。
まぁ会ってみると、彼女はらだ男本人よりも恋への憧れの方が強いのかもしれない。
それに、実際のらだ男があまりにもそっけない奴だから、自分では駄目だと理解したのかもしれなかった。
『これからも、君の活躍に期待しているよ。あと、二人の幸せな未来も応援させてくれ』
別れの挨拶に礼を言って、それぞれホテルを後にする。
学級閉鎖嬉しいんですけど学校がないと暇すぎて泣きそうです…!
もうずっと部屋の中でダラダラしてますよ…
出かけたいけどインフルだから出かけられない…!
なんてもどかしいんだ!!!