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テラーノベルの小説コンテスト 第4回テノコン 2025年1月10日〜3月31日まで
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おろおろしながら、岩崎は、持っている、ザルを、皆へ差し出して見せた。


「京さん、一体、なんだい?!」


寅吉が、すっとんきょうな声をあげている。


ザルには、小銭が入っていた。


「……近所のおかみさん達が、持ってきたのだ」


なんでも、昨夜の火事が、月子の実家ということで、皆のカンパ、つまり、見舞金を急遽集めたらしい。


ぱっと見た目、たいして額ではないとわかるが、これは、あくまでも、気持ちの問題であり、どう処理すれば良いのか。無理矢理手渡されて困ってしまったのだと、岩崎は、一人おろおろしている。


けっと、二代目が、腹立ち紛れに、息巻きながらそっぽを向いた。


たちまち、お龍が、二代目の頭をパーンと叩き、笑顔を振りまきつつ、


「そうだよぉ、京さん。皆の善意を無駄にしちゃーだめだよ!」


と、岩崎へ言う。


「だ、だな、そうだな、おかみ!」


「やだねぇ、月子ちゃんの実家の事だろ?あたしじゃなくて、月子ちゃんだろ?」


お龍に言われ、岩崎は、瞬間考え込んだが、そうだ、うん、と、大きく頷くと、月子を見た。


「……月子、ど、どうすれば……」


「え?!」


突然、ザルに入った、小銭を見せられても、月子は、どう答えれば良いのか皆目、見当がつかなかった。


岩崎同様、おろおろするばかりで、次の言葉を発する事が出来ない。


「まあ、月子ちゃんの、実家の災難だからねぇ、ここは、京さんが、しっかりしなきゃ。その見舞金も、届けた方がいいんじゃないのかい?」


そこんとは、ゆっくり、二人で話せば……と、お龍は言いながら、月子へ、にこりと笑った。


気に入らないのが、二代目で、


「ちよっ!なんで、二人でなんだよっ!」


怒鳴り声をあげつつも、岩崎とは、顔を合わせようともしない。


「あれまあまあ、ちょいと、あんた、二代目をだまらせな」


「おっ?!なんだか、わかんねぇけど、ちいと温めのをもってくるわ」


酒でも飲ませておけば良いだろうと、寅吉は、奥の調理場へ入って行った。


「まあ、ここで、話してもなんだしねぇ」


空々しい、つくり笑いで、お龍は、岩崎へ言いつつ、月子に向かって、目配せする。


「……確かに、この小銭をなんとかしなければ、なのだ。内輪のこと……、ここで、話すのも、言われてみれば、何かおかしい。うん、月子、帰るぞ」


言うと、岩崎は、踵を返して、亀屋のガラス戸を開けた。


ガラガラと戸が開く音と共に、月子の名前が呼ばれる。


さあ、と、お龍に言われて、月子は、さっと立ち上がると、岩崎の後を追った。


ふふふと、お龍が笑う側から、二代目が、ぶつくさ、気に入らないと文句を言っている。


そんな、二代目の前に、徳利をとんと、寅吉が置いた。


「おお、二代目、お代はいいからよっ」


「寅さん!うるせえよ!京さんとこに、吹っ掛けて、つけておけっ!」


二代目は、不機嫌全開だった。


そして、戸口の外からは、足はどうだ、歩けるか、ぶつけた頭は、痛くないかと、岩崎の労い声が聞こえてくる。


「……なんだかんだ、言い感じじゃないかい?」


「おかみさん!そうじゃなくって!!京さん、昔の女を!!」


「だからそこ、月子ちゃん、なんだろ?そもそも、出会って一日そこそこで、あれだけ喋ってりゃ、昔の女の名前で呼んでしまったって、仕方ないじゃないかい?というより、そんだけ、京さんは、月子ちゃんに惚れてるってことじゃないのかねぇ。昔、惚れてた女と、重ねちまうぐらい、言い感じ、と、あたしらは、そう思ってやんないと……」


「……重ねてるから……だめなんだろ……」


二代目は、徳利から、お猪口へ酒を注ぎながら、悔しそうに呟いた。


「やれやれ、あんた、それ、世話の焼きすぎだと、あたしゃー思うけどさぁ」


お龍は言うと、二代目からお猪口を奪って、ぐびりと酒を流し込む。


「あーー!お、俺の!!」


「細かいこと言わない、言わない。二人は、うまく行くってことで、前祝いだよ!」


「よく言うぜ」


チッと舌打ちしながら、二代目は、拗ねた。


そんな、やり取りの横で、寅吉が、あっと声をあげた。


「おい!お咲どうすんだぁ?!」


確かに。


お咲は、一人で、オムレツをモグモグ頬張っていた。

麗しの君に。大正イノセント・ストーリー

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