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「ねえ、父さん。羽良野先生はどうしたの?」
父さんは前方を向いて、母さんとしばらく沈黙した。
停止した時間。
ぼくは緊張していた。
「田中さんから聞いたんだけど、どこにもいなかったんだそうだ。……でも、歩。必ず捕まるから安心していなさい。警察の人たちが大勢で探しているからね」
父さんの優しい言葉は、ぼくにはひどく残酷だった。心臓が破裂しないかと心配するほど、ドキドキと鳴り出した。冷や汗が額を流れだした。
「歩。大丈夫さ。警察の人たちに任せなさい」
「子供は大人や親の間にいれば、安心するものね」
父さんと母さんは落ち着いていた。
やっぱり普通の事件だと思っているんだ。
でも、この事件は誰もが犠牲になり、誰もが、関わると後戻りできない。そんな大きな事件なんだ。
しばらく、静かな住宅街の小道を走り、林道を抜けると、丘の上にそれはあった。
御三増町で唯一の総合病院。
御三増セントラル病院。
上から見ると丁字路の建物は、全体に白いペンキで塗られ、所々ペンキが剥がれ落ちている。病院の窓は割れていないにしろ風雨に晒され、ボロボロで薄汚れていた。
古い病院だった。
鳥が羽ばたいたような連絡通路で、こじんまりとした放射線科と老人ホームと繋がる大きく立派な5階建てだった。けど、周りを不気味な森で囲まれていた。
「さあ、ここだぞ」
「歩。ちゃんと、先生に診てもらうのよ」
父さんは日影の多い駐車場に車を停めた。地面の白線も消えかかっていた。
その時、車の後ろで黄色い軽自動車が駐車していた。
ぼくは気になって見ていると、駐車が下手のようで、何回も白線からはみ出しては入れ直していた。
ぼくはその光景を前にも見たはず。何故か胸騒ぎがした。
でも、これからの検査のことを考え緊張していた。
やっと、バラバラにされても生きている子供たちの情報が入るかも知れないんだ。
父さんが先に病院へ入って、看護師たちを連れてくる。
ぼくは一人で歩けるけど、車椅子に乗せられる。
父さんと母さんが心配顔で見ていた。
夜。
色々な検査をした後、一人部屋でぼくは横になった。