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#山中柔太朗
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「——以上が、総合診療科からのアセスメントです。
夜間のバイタル推移および微小な血液データの変化から見ても、単なる胆嚢炎ではなく腹膜炎への移行、あるいは微小な穿孔が疑われます。
速やかな外科的アプローチをお願いします」
カンファレンスルームの冷ややかな空気の中、山中柔太朗の声がまっすぐに響いた。
緊急の外来対応が入った仁人から、「外来が押しそうだから、この資料の通りにプレゼンを進めておいてほしい」と直前に頼まれていた。
手元にあるのは、仁人が事前に作成した精密なサマリーと、柔太朗自身が夜間から収集したフィジカルデータの束。
完璧な布陣のはずだった。
しかし、長机の向こう側に座る3人の外科医たちの反応は、あまりにも冷淡だった。
「……はぁ。看護師さん、君の『お勉強』の成果を見せに来たの?」
中央に座る外科の若手医師が、鼻で笑いながら資料を突っ返した。両脇の医師たちもクスクスと肩を揺らしている。
「吉田先生が遅れるからって、看護師にプレゼンさせるかねぇ。
僕たちが欲しいのは客観的なオペの適応データなんだよ。看護師が文字通り『紙芝居』読んだだけで『緊急手術です』なんて言われてもね。
……これだから総合診療科は」
「……っ」
見下すような言葉と視線が、柔太朗に突き刺さる。
柔太朗が提示したのは決して思い込みや浅い知識などではない。
仁人の厳密な病態予測と、柔太朗自身の精密な観察が合致した、命を救うための根拠。
だが、「ただの看護師が読んでいる」という一点だけで、ハナから聞く耳を持たれない。
悔しさと不甲斐なさに、柔太朗は白衣のポケットの中でギュッと拳を握りしめた。
爪が掌に食い込む。仁人から託されたバトンを、自分の立場のせいで無駄にしてしまうのか——。
その時だった。
バンッ!!
重いカンファレンスルームの扉が、勢いよく開いた。
「ハァ……ハァ……っ! すみません、外来が長引いて遅くなりました……!」
髪を少し乱し、白衣をなびかせて息を切らせて駆け込んできたのは、仁人だった。
「あ、吉田先生。お疲れ様です。いやぁ、先生が来ない間、こちらの看護師さんが大層なプレゼンをしてくれて困ってたんですよ。看護師の言う通りにオペ室開けるわけにはいかないでしょ?」
嘲笑を浮かべたまま擦り寄ろうとする外科医。
しかし、仁人の瞳は、氷のように冷たく冷え切っていた。
息を整えると、まず固まっている柔太朗の隣へ歩み寄り、その手元にある資料——自分が託し、柔太朗が完璧に読み上げてくれた紙束にそっと目を落とした。
「……プレゼンありがとう、柔太朗」
「あ……よっしー……」
息を切らしながらも、静かで固い労いの言葉。
それから仁人はくるりと振り向き、3人の外科医たちを射殺さんばかりの鋭い眼光で見下ろした。
そのオーラは、かつて過酷なオペ場を支配していた外科医そのものだった。
「……で? さっき何て言いましたか」
「え? いや、ですから、看護師さんのプレゼンじゃ根拠が薄いと——」
「彼が読んだのは、僕と彼で作成した完全なアセスメントデータです。どこが根拠薄弱なんですか」
仁人は遮るように低く、けれど通る声で言い放った。
柔太朗が提示していた資料をひょいと手に取り、外科医たちの目の前へバサッと叩きつける。
「夜間からのCRPの上昇率、彼が拾い上げた微小な筋性防御の出現、そしてこのCT画像のフリーエアーのごく微小な輝度変化。
……これらを見落として『看護師のプレゼン』と一蹴したんですか? 心臓外科にいた僕から言わせてもらえば、この資料の価値を見抜けない方がよっぽど恐ろしい失態ですが」
「っ……!? フ、フリーエアー……!?」
慌てて画像を拡大する外科医たち。
彼らは、二人による完璧な論理と知見で、ぐうの音も出ないほど叩きのめされた。
白目むく手前の外科医たちを冷たく見下ろしたまま、仁人は最後にピシャリと言い放つ。
「山中は、僕がこの資料を預けて任せられるほど信頼しているスペシャリストです。彼のプレゼンをバカにすることは、僕の診断をバカにすることと同義です。
……で、手術、受けていただけますか?」
「は、はい! すぐオペ室押さえます……!」
逃げるようにカンファレンスルームを去っていく外科医たち。
静まり返った部屋で、仁人は大きく息を吐き、いつものツンとした表情に戻ると、柔太朗に向き直った。
「……ごめん柔太朗、遅くなって」
「いや、全然大丈夫だけど…」
柔太朗が少し頭を下げると、仁人は何事もないように言い放った。
「言っとくけど、俺の作った資料をあんなに正確に読み解いてプレゼンできる看護師、他にいないから。
……さ、準備して外来に戻ろう。俺達に出来ることはやったよ」
「……うん」
ポケットの中でギューッと握りしめていた柔太朗の拳が、すっとほどける。
信頼を託してくれた医師への誇りと温かさを胸に、柔太朗は頼もしい背中を追いかけて歩き出した。
コメント
1件
うわあ……読んでて胸がギュッてなったよ……😢💔 柔太朗、あんなに完璧に準備してきたのに「ただの看護師」って理由だけで一蹴されるの、悔しすぎるよ……。でもそこに颯爽と駆けつけたよっしーの「彼のプレゼンをバカにするなら俺の診断をバカにするのと同じ」って言葉、最高に胸熱だった🔥✨ 信頼ってこうやって積み上がっていくんだなあ……ふたりの絆、めっちゃ尊い🥀🤍