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白山小梅
12
#借金
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優しくてムードメーカー。誰に対しても分け隔てなく接する彼を、男子は友達として、女子は憧れの存在として見ていたし、みんなから愛されていた。
だから春香も彼の近くに行きたくて、一生懸命努力した。メイクもファッションも運動も、彼のために頑張ったのだ。
その努力が実り、女子の中では一番近くのポジションをゲットしたーーつもりになっていた。
近くにいるからこそ、気付いてしまう現実もあった。不意に博之がある女生徒を見つめている瞬間があるのだ。
ほんの僅かなタイミング。それに気付けるのは博之の一番近くで彼を見ていた春香くらいだろう。
彼の視線の先にいたのは、クラス委員の|近藤《こんどう》|椿《つばき》。いつも静かに勉強ばかりしている彼女が、春香は嫌いだった。
だって彼女もまた、博之を見つめている瞬間があったから。
二人の間に立っていたからこそ、二人の一方的な片思いと思い込んでいる感情に気付いたのかもしれない。
だけど二人とも何も言おうとしない。いわゆる両片思い。どうせ伝えるつもりがないのなら、そのまま言わなければいい。
卒業式の日。《《結果がどうなるかわかっていたけど》》、春香はとうとう彼に告白をした。
返ってきた答えは、
『ごめん』
だった。それからこう続けたのだ。
『花みたいな子なんだ。ちょっとぶっきらぼうなその子のことがずっと気になってて……たぶん好きなんだと思う』
花と聞いてすぐに椿のことだとピンときた。だって花の名前だから。春香は苗字こそ"|佐倉《さくら》"だったが、それは偽物の花に過ぎない。
それに彼は椿と話し終えた後にだけ、嬉しそうにガッツポーズをするのだ。
自分にはあんな顔をさせられないし、見せてくれない。本音を言えば悔しかった。
どうして椿はあんなに想われているのに彼の想いに気づかないのだろうか。彼女がきちんと自分の気持ちに向き合えば、欲しい未来が手に入ったはずなのに、あんなに卑屈になるだけで頑張らないのだろう。
だから春香は椿が嫌いだった。
それから大学生になり、たまたま椿のバイト先で再会した時に、今までの想いを彼女にぶちまけたのだ。
ただ春香の想いとは違い、椿も自分に自信が持てずに悩み考えていたことを知り、それ以降は本音で話すことが出来る唯一の友人になった。今では椿以上に好きな友人はいないと豪語するほど、彼女のことが大好きだった。
懐かしい気分に浸りかけたところで、春香は頭を横に振って現実に戻ってくる。
「違う違う! なんでヒロくんがここにいるの?」
「ん? だってここ、うちの店だから」
「うちの店……?」
「そう。俺の実家、結構長く続いてる老舗の和菓子屋でさ、本店とは別に若い人向けのカフェを展開することになって、この店がオープンしたんだ。まぁここは兄貴の奥さんが店長だから、俺はただのお手伝い。普段は本店で和菓子職人やってるし」
卒業する時、彼は自身の進路について誰にも話さなかった。連絡先を知っている人も僅かだったため、卒業後の博之については謎とされていたのだ。
まさか和菓子職人になっていただなんて……。茶色だった髪色は黒くなり、制服は着物になった。でも変わらない話し方や声色にホッとする。
そんな中で博之が目の前の椿に微笑みかけると、椿も嬉しそうに笑顔を返した。その様子はどう見たって、恋人同士のやり取りにしか見えない。
「もしかして椿ちゃん……」
春香は目を|瞬《しばた》かせながら、興奮のあまり鼻息が荒くなっていく。それはまさに推しと推しが付き合うことになったような感覚だった。
すると博之は春香の肩に手を載せ、キラキラした瞳で春香を見つめた。
「まさか佐倉と椿が仲良くなっているなんて知らなくて、本当にびっくりしたよ」
「それはこっちのセリフ! いつの間に再会してたの⁈ というか、なんで私に言わないのよ〜!」
春香が言うと、椿は困ったように笑う。それを見てなんとなく彼女の気持ちがわかったような気がした。
「もしかして、私が傷付くと思った?」
「というか、逆に想像出来なかった」
もし立場が逆だったらどうだろう。確かに反応が予想出来ずに言いそびれるかもしれない。
「前に私、椿ちゃんに言ったはずだよ。私はもうフラれてるけど、椿ちゃんにはまだチャンスがあるって! 何があったかはわからないけど、そのチャンスをモノにしたのは椿ちゃんなんだから、もっと自信持ちなさい!」
「春香ちゃん……」
「あとヒロくん、私にとってはもうヒロくんのことは過去の出来事なわけ。友達以上には思ってないし、自惚れないでね。わかった?」
春香が得意顔に鼻をうごめかすと、博之は急に声を上げて笑い出す。
「佐倉カッコいい! あの頃よりも更に男前になってる!」
「……なんで私が男前なの? 可愛い先輩一位って言われてたのに」
「見た目はね。でも中身は誰よりも頼りがいのある友達だった」
"友達"と呼ばれても全然悲しくないのは、やはり博之のことを吹っ切れている証拠。それよりも大好きな友人の幸せを共に祝いたい気分だった。
春香は椿の方に向き直ると、嬉しそうに微笑み彼女の頭をそっと撫でる。
「ずっとこんな日が来ることを願ってたの。だから私もすごく嬉しい! おかげで恋がしたくなって来ちゃったー! というかもう一度聞くけど、二人はいつ再会したの?」
「うーん、まぁそれはそのうち話すよ」
楽しく話していた博之だったが、突然真顔になると、真剣な眼差しで春香を見つめた。