〈ニグ視点〉
うたいさんが来て1ヶ月が経った。
うたいさんは笑顔が増えた。
記憶が戻ったとき、うたいさんはどんな顔をするのか、想像したくなかった。
ずっとこのままとは言わない。
でも暫くは、このままで…
「…ニグさん」
食器を洗っていると、後ろからうたいさんが服の裾を引っ張ってきた。
「どうしたの?」
「…ちょっと、話したくて…」
目線を合わせようとしないしないうたいさんに、俺は不思議に思いつつもリビングのソファに向かう。
お互いソファに座ると、うたいさんがゆっくり口を開く。
「僕…その、あぅ、えっと…」
「落ち着いて、ゆっくりで良いよ。」
うたいさんは深呼吸したあと、決心したように顔を上げた。
「僕…ニグさんのことが好き。」
……………………………………………………………………………………………は…?
俺はこの時どんな顔をしたらいいのか分からなかった。
「ニグさんは…僕の面倒見てくれて、優しくしてくれて…記憶が無くて不安だったけど、ニグさんのおかげで安心出来て…そ、それで好きになったんだ…///」
顔を赤くして言ううたいさんを、俺は正直可愛いと思った。
けどそれどころじゃなかった。
「へ、返事…直ぐじゃなくていいから!///」
うたいさんはそう言うと、慌ててリビングを出ていった。
俺はソファからずり落ちて、頭を抱える。
「どうすれば…どうすればいいんだよ…!?」
最悪だ、本当に最悪だ。
凸さんはさもさんのことが好きになって、うたいさんは俺のことが好きになった。
一見は幸せかもしれない…けど…
うたいさんは…記憶を失う前凸さんのことが大好きだったはずだ。
そうじゃなかったら、うたいさんはあんなことをしなかった…
うたいさんは、記憶が無い状態で、かつ不安だった時に俺に優しくされたから好きになっただけだ…脳が錯覚してるだけかもしれない。
俺は必死に頭の中で考える。
俺は…俺は…
………………………本当は、うたいさんのことが好きだった。
けど…うたいさんが凸さんのことが好きだと知って、俺は諦めて二人の恋を応援したんだ。
うたいさんをあの時家に連れてきたのも、うたいさんのことがとにかく心配だったからだ…
俺は、凸さんとうたいさんとの問題を無視してうたいさんと付き合うことなんて出来ない…
…大好きだった人を、うたいさんが忘れてしまった…
神様…こんなの…
「あんまりだ…」
静かなリビングに、俺の涙声が響いた。
コメント
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あ"あ"あ"…!そういう…!!! 辛い…!苦しい…!めっっちゃ泥沼…! でも泥沼でも純情がすれ違って…ってのがたまんない…! 神様ですか…!?