テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
1件
組長は誰なんだろう✨✨✨
めぐろに瓶を渡されたけど、何に使うものか分からなかったから、聞いてみた。
「これ何?何に使うの?」
「これは、哺乳瓶。坊のご飯だよ。」
「りょうたのごはん?水だよ?」
「歯がないから、飲むご飯。ミルクっていって、栄養がいっぱい入ってるんだよ。」
「そうなんだ。」
「じゃあまずは、抱っこして…」
そう言ってめぐろがりょうたを持ち上げると、りょうたが「ふぇ…えぐ…」と声を上げながら顔を歪めた。めぐろは、座る俺の膝の上にりょうたを乗せて、抱えさせた。
「んぎゃあぁあああああぁぁ!!」
りょうたは俺の腕の中に収まった途端、小さい体全部を使って暴れ出した。
この世の終わりのように大きな声で叫ぶから、心配になって、めぐろに聞いてみた。
「泣いてる。大丈夫?」
「お腹空いてるんだよ、それ口に持って行ってごらん?」
めぐろの言う通りにほにゅうびんをりょうたの口まで持っていくと、りょうたはその瓶を両手で掴んで中の水を一生懸命に飲み始めた。
ご飯を飲み始めると急に大人しくなって、水は一瞬のうちに無くなってしまった。
空になった瓶をりょうたの口から引き抜くと「ちゅぱ」と音が鳴った。
「そしたら、縦に抱っこして、背中叩いてあげて」とまた、めぐろが俺に言うから、その通りに、りょうたの脇を持って、向きを縦に変えてから、背中を叩いてみた。
ぽんぽんと何度か叩いていると、りょうたから「けぷっ」という音が出た。
「りょうた、今なにしたの?」
「げっぷしたんだよ。こうしないと、飲んだものが消化できなくて、戻しちゃうから」
「そうなんだ。まだやった方がいいの?」
「もう少しやって、出なさそうだったら、もう大丈夫だよ。」
「わかった」
そのまま、背中を叩いていたけど、もうげっぷは出てこなかった。そのうち肩がずっしり重たくなったから、ちらっと横を見てみると、りょうたが口を半開きにしながら寝ていた。
「ねぇ、寝てるよ。」
「お腹いっぱいになったからね。頭押さえながら、布団に寝かせてあげて」
重たい頭を左手で支えて、布団の上にりょうたを置いた。
自分の指を咥えながら、安心し切ったように寝ているりょうたを見ていたら、心臓がきゅって鳴った。
「かわいいね」
そう言っためぐろに「かわいい?」と聞き返すと、「こうやって見てると心がきゅってするでしょ?こういう時はかわいいって言うんだよ」とにこにこ笑っていた。
「かわいい。うん、かわいい。」
俺はりょうたが寝ている姿を見ながら、覚えたての言葉を何度も何度も唱えた。
「しばらくは起きないと思うから、みんなのところ、行こうか。」
めぐろにそう言われて、りょうたの部屋から出た。
りょうたは一人でもいいのかなと心配になって思わず後ろを振り返ると、太陽の光の中で、りょうたのお腹が静かに上下していた。
また広い部屋の中に入ると、でかい机があって、さっき会ったさくまくんの頭が、机に挟まった布団の中に転がっていた。めぐろは体を震わせながら、その布団の中に入って「あ”ぁああぁ〜」と言いながら机に突っ伏した。俺は、「ねぇ」とピンク頭を呼んでみた。そしたら、そのピンク色が動いて、目が合った。
「なんで机に布団が挟まってるの?」
「?こたつのこと?入ってみる?あったかいよ!」
そう言ってピンク頭のさくまくんは布団を掴んで持ち上げて、俺を招き入れた。
足を入れてみると、その中はぽかぽかと温かった。
びっくりするぐらいほかほかで、自然と「わ…」と声が出ると、さくまくんは「あったかいでしょー?」と自慢するように言った。
「そろそろご飯の時間だから、康二のところ行ってくるねん。しょうたも一緒に来る?」
「うん」
さくまくんと一緒に廊下を歩いていくと、美味そうな匂いが段々と強くなった。
さくまくんが天井にかかった布をくぐるのに続いて行くと、そこにはこうじがいた。
三色の細い何かが山盛りになって置かれていた。
「今日は、俺特製の青椒肉絲や!」
「今日はって、昨日もだったじゃん!!」
「そうやったっけ?そんなん気にしとる暇あらへん、早う持ってって!」
「…あいよー…」
「みんな、集まったね。それじゃあ」
「いただきます!!!」
ご飯の時間になる前に「ふぎゃぁああ」と泣いて起きたりょうたを部屋まで迎えに行って、9人で大きな机の周りに集まった。
俺はめぐろとらうーるの間に座って、足の上にりょうたを座らせた。
ふっかさんが合図すると、みんなは大きな声で挨拶みたいなものをしてから、二本の棒を持って、こうじが作ったものを食べ始めた。
初めて見るうまそうなものに、俺の腹も大きく鳴っていたけど、食っていいのか分からなくて、みんなが飯を食っているところをずっと見ていた。
「食べないの?ピーマン嫌い?」とらうーるが俺に聞いてきて、俺の前に置かれた小さいガラスの板に白い煙が出ている食い物を乗せた。
食べてもいいならと、それを手で掴んで口に入れると、「ちょちょちょ!お箸使うんだよ!」とらうーるが言った。
「おはし?」
「うん、これ。お箸っていうの。」
「おはし。これでどうやって食べるの?」
「こうやって持つの」
「…こう?」
「そうそう!ご飯掴んでみて?」
「…ぁ。落ちた。」
おはしは使うのが難しくて、そんな俺を見ていたのか、こうじが「ほら、スプーン使い?」と言って、丸い鉄がついた棒をくれた。
それで掬ってみると、こぼれずに食べられた。
はじめてちゃんとした食い物を食べた。
誰かから奪ったものじゃなくて、食べていいと許されたものを食べた。
おいしかった。あったかかった。
「おいしい?」と俺に聞いてきたらうーるに「おいしい」と素直に伝えた。
「食べながら、みんな自己紹介しようか。しょうたもみんなのこと知らないと大変だろうし」
「じゃあ俺から!佐久間大介!」
「さくま?」
「そうそう!佐久間だよー!困ったことがあったらいつでも言ってね!」
「じゃあ、次、俺。岩本照。」
「ひかる?」
「名前で呼んでくれるんだ。ありがとう。」
「じゃあ、俺も。深澤辰哉だよ。ふっかとか好きに呼んで。基本屋敷にいるから、なんかあったらいつでも声かけて。」
「ふっか。」
「次は俺や!向井康二やで!飯炊き係や!」
「こうじ。めし、うまい。」
「そらよかったわ!腹減った時は遠慮なく言い?なんぼでも作ったる!」
「次は僕!!ラウールだよ!よろしくね!阿部ちゃんと一緒にお金の管理をしてるよ!」
「らうーる。」
「俺はさっき伝えたけど、もう一回自己紹介するね。目黒蓮だよ。」
「俺は、阿部亮平。組の会計係やってます。ラウールの上司でもあるよ。」
「あべちゃん。じょうしって何?」
「うーん。分からないことを教えたり、正しい方向に導いたりする役目の人のことかな」
「じゃあ、みんな俺のじょうし?」
「そうだね、そういうことになるね。でも、そんなに気を張らなくて大丈夫だよ」
「どうして?」と聞くと、さくまが答えた。
「うちの組は、世界一平和だからねー」
「殴ったり蹴ったりしないの?」
次はめぐろが答えた。
「まぁ、この町の治安を守るために戦ったりもするけど、基本的に身内にはそういうことはしないよ。間違ったことするなら、その時は何がいけないのかちゃんと伝えるから、安心して。ここには君を傷付けるような奴はいないから。」
「うん。俺もたたかう。りょうたを守る」
「ありがとう。心強いよ。」
「ぁきゃぁ!」
「坊も喜んでるよ。」
「そろそろ坊もご飯の時間だね。しょうた、康二と台所行って作り方覚えてきて。」
ふっかにそう言われたから、りょうたをぎゅっと抱き締めて聞いた。
「わかった。りょうたも一緒に行っていい?」
「いいよ、気を付けてね」
「ほな、いくで!」
「うん。」
俺は涼太を抱き抱えながら、こうじに着いて行った。
「ほんで、この粉を二杯入れて、お湯をこの線まで入れる。振って、粉溶かしてから、水で冷ますんや。」
「わかった。」
「ほんなら、やってみ!」
りょうたをこうじに渡して、ガラスの瓶に、白い粉を二杯入れた。
教えられた通りにお湯を入れて、水で瓶を冷ました。
「ぬるくなったら水止めてええで」と後ろからこうじが声をかけた。瓶を触ると熱くなかったから、水を止めた。
「できた」
「おん、どれ、おお、ええ感じや。ほんなら戻って坊のご飯やね」
来た道を戻って、またこたつがある部屋にこうじと向かった。
さっきと同じようにりょうたの口に瓶を近付けると、こいつはまた一生懸命飲み始めた。「んきゅ、ふきゅ」と小さく息をしながらりょうたはみるくを一気に飲み干した。
俺は、よく食う奴だな、と思いながら段々と減っていくみるくを見ていた。
りょうたを縦に抱いて、背中を叩く。
「けぷ」とりょうたがげっぷをすると、しばらくして、りょうたの頭がこてんと肩にもたれかかってきた。すぴゅー、すぴゅーとりょうたの鼻息が聞こえてきた。
「りょうた、寝たよ」とふっかに伝えた。
「ありがとう、部屋まで運んで来てくれるかな。しょうたも今日はそのまま寝ていいよ。らう、しょうたの布団出してあげて。」
「はーい」
今度はらうーると一緒にりょうたの部屋まで向かった。
らうーるが途中に寄った部屋の中から、大きな布団を持ってきて、りょうたの布団の隣に敷いた。
「今日は疲れたでしょ?ゆっくり休んでね」
「ここで寝ていいの?」
「うん、これ、君の布団だから好きに使ってね。坊が起きちゃった時は抱っこして、寝るまでそばにいてあげて」
「うん。わかった。」
小さい布団にりょうたを寝かせて、俺もすぐ隣の布団に寝そべった。
硬く握られている小さい手に触ってみると、その指がぱっと開いて、俺の人差し指を包んでから、また握った。
また心臓がきゅって鳴ったから、唱えてみた。
「かわいい」
しばらくりょうたを見ていたけど、ふかふかの布団に包まれていたら、眠くなってきて、人差し指をりょうたに預けたまま、俺も目を閉じた。
こんなにあったかい布団の中で寝たのは生まれて初めてだった。
宮舘組の本部、屋敷の広い居間の中で、七人の青年たちがじっくりとこれからのことについて話し合っていた。
この組は、組長直属の七人の幹部により三つの小さな組織が作られ、成り立っている。
“雪”、“月”、“華”、の名の下、彼らは日々それぞれの組織に与えられた役割を果たし、親父である組長に忠誠を誓って生きている。ここに集う者たちは、組の発展に貢献し、上り詰めていった者であり、彼らのみこの屋敷に住まうことを許されている。
“雪”、宮舘組が統括する町の商売事に関する管理を行っている。
商店街の連中や個人で切り盛りをする店らが、平等に商売ができるようにと作られた組織である。
“雪”が存在する限り、誰か一人が損をしたり得をしたりするような生活が訪れることはない。
“月”、宮舘組が子会社として立ち上げた建設会社で日々働く者が集まる。
町の家の大半は宮舘組の“月”の会社の者が建てたようなものである。建設以外にも町の住民から寄せられる建物にまつわる困り事の相談を受けては、修理や改築も行っている。巨額の代金を請求することも無いので、住民からは有り難がられているが、当の本人たちは、仕事と称して木材や鉄材をダンベル代わりにして筋トレができるので、大喜びで働いている。この組織には、無骨なマッチョが多く所属する。
“華”、宮舘組が統括する町の用心棒である。
日々、町の平和を壊す者がいないかを巡回して見守っている。
基本的に“華”から手を出すことはないが、この者たちの存在を知らずに食ってかかったものは生きて帰ることはできないと言われている。町の秩序を乱そうとした者の情報は、下っ端の構成員から全て“華”のトップに集約される。その者は“華”のリーダーに見定められ、今後の処遇についてジャッジを下されるが、彼らがその後どこへ行ったのかについては、謎の多いところである。
この三つの組織の補佐をする形で、組の財政事情を取りまとめる会計係と、全員の日々の食卓を彩る者がいる。
会計係は二名の幹部で構成されているが、自分たちの給料ではなく、買い出しで余った組の金で買い食いをする者や、自分の趣味の買い物を組の金で支払おうとする者に日々頭を悩ませている。
この屋敷の台所の主は、さまざまな国の料理を振る舞うが、一週間に五日は必ず青椒肉絲が出てくる。本人曰く毎日三食のご飯を作り、昨日何を作ったのか、もう思い出せないので、一番得意な青椒肉絲を作るのだという 。
暴力団といえば、恐ろしい集団であるとイメージされがちであるが、宮舘組は町の平和を守り、商店街の人たちからみかじめ料を少しいただきながら、建設会社で得た収入を主として暮らしている。評判もいいため、いつも町を歩けばお年寄りからお菓子をもらい、家の調子が悪いと仕事の話をもらい、屋敷に帰ってくる頃には、幹部たちは両手に抱えきれないほどのお菓子と依頼書を持って帰ってくるのが常である。
宮舘組の組長補佐であり“雪”を統括するリーダー、深澤辰哉の進行のもと、彼らは今日突然現れた少年の顔を頭に思い浮かべながら、思い思いに話して行った。
「あの子、名前なんて言ったっけ?」
深澤の質問に“月”を統括するリーダー、岩本照が答える。
「渡辺翔太くんでしょ?目黒が手帳受け取ってたじゃん。そこに色々書いてあるんじゃない?」
「あぁ、そうそう。これ、母子手帳。あの子これしか持ってなかったんだよ。字も読めないって言ってたから、読んであげたら、自分の名前、初めて聞いたみたいな顔してた。」
岩本の言葉に反応して“華”のリーダー、目黒蓮が答えて、ここに集まる者たちにその手帳を見せた。七人それぞれが一様に、「こういう字を書くのか」「かっこいい名前やな」「あだ名はしょっぴーとかどう?」「今、12歳だって!その割にはちっちゃくない?痩せてたし…」などと思い思いに話す。
続けて深澤が目黒に問い掛ける。
「なぁ、めめ。あの子、どこで会った子なの?さっきは詳しく聞かなかったけど」
「廃工場でうちの子達にタコ殴りにされてたところを拾いました。うちの子たち、この町がちょっとでも荒らされそうもんなら、誰彼構わず立ち向かっちゃおうとするから。血の気が多いところも可愛いんすけどね」
「“華”のみんなはめめに似て脳筋だからねー。それより、あの子お風呂を知らなかったんだよ!」
目黒の話に耳を傾けながら、自分が思っていることを思ったままに口に出すのはラウールである。先刻、翔太を風呂に入れた時のことを思い出しながら、驚いたという感情を隠さずに言った。
ラウールの話に同調するように、“華”の第二番手、佐久間大介が声を上げる。
「そういえば、こたつのことも知らなかったっぽいよ?こんなにあったかくて便利なもの知らないなんて、人生損してるよねん。どういうところで育ったんだろう?こたつも必要ないくらいの温室育ち系?」
「それはお前だろ。このボンボン崩れが。それに、そんな子は普通家出なんてしないでしょ?」
先ほどの秋葉原事件がまだ尾を引いているのか、恨みがましく悪態をつきながらも、優しさが抜けきれていない様子で佐久間を諭すように声を上げたのは、宮舘組全体の会計を取り仕切る阿部亮平である。
佐久間は阿部からの貶し言葉に怒る様子もなく「にゃはは!」と笑っていた。
阿部は佐久間を横目で見ながら、また自身も翔太について思うことを話す。
「あの子、家もない、家族もいないって言ってたし、お風呂もこたつも知らない、字も読めないって…。まさか…。」
「育児放棄、虐待、ちゃうか?」
阿部の言葉に続けるようにして、宮舘組の料理番、向井康二が答えた。
「なにそれひどい!!!あんなかわいい子にそんなことできる親がいるわけ!?さいてー!!」
「そうだそうだ!俺たちで翔太を守って育てようぜ!」
「おん!今日からは俺らがオトンとオカンや!」
幹部の中でも血気盛んなラウール、佐久間、向井が息を荒げ、憤りながらも使命感に駆られるように大声で捲し立てた。
「まぁ、それは賛成なんだけど、どっから手付けようか。日常生活で使うものも使い方知らなさそうだし、学校にも行ったことがないんじゃないか?ある程度は勉強も教えないとだろうし」
「いつも通り、みんなで役割分担したら?」
深澤の問い掛けに呼応するように発された岩本の提案に、一同、これは名案だというように大きく頷いた。
深澤は携帯でメモを取りながら、それぞれに役割を振っていった。
「じゃあ、会計組の阿部ちゃんとラウで勉強教えてあげて」
「はーい!僕の初めての後輩だ!嬉しい!僕、またお風呂の使い方とかこのお家のことか色々教えてあげる!」
「一から全部教えるなんて、腕が鳴るよ。」
「康二は、坊の身の回りのお世話のこと教えてあげて」
「おん、任しとき!」
「”月“のみんなはいつも通り仕事メインでいいけど、なにか困ってそうな時は声かけてあげて。ある程度慣れてきたら、仕事手伝ってもらってもいいだろうし。”月“の子達は本当に初対面は無愛想なマッチョにしか見えないから、怖がられないように今のうちから仲良くしときなよ?」
「…わかってるよ。」
「にゃはは!照!その顔がもう怖いもん、ウハハハ!!」
「…佐久間!うるさい!」
「“華”のみんなは、体術教えてあげて。翔太一人で坊を守れるくらいを目標にで。」
「了解っす。今日、うちの子たちもなかなかに傷だらけだったから、見込みはありそうっすよ。鍛えがいがあります。」
「“雪”の俺の子達にはいつも通りの仕事してもらうけど、俺は翔太の成長度合いの管理するわ。明日中に翔太の教育スケジュール作っておくから。しばらく経ってもそこに追いついてなかったら、すぐにバレるってことなんで、お前ら、くれぐれもサボるなよ?こっちは親父から責任持って面倒見ろって言われてんだから」
深澤の言葉に、その場にいた者全員が「うぃー」と生返事をして会議は終了し、今日は解散になろうかと、一斉に立ちあがろうとした時、深澤のスマホが鳴った。
「はい、はい」と短く返事をしながら頷く深澤は、しばらく経ってから電話を切ると、幹部たちの方を振り返り、重たげに口をモゴモゴと動かしていた。
恐らく電話の相手は組長だろうと全員が身構えて、固唾を飲んで深澤が話し出すのを見守っていると、深澤は大きく息を吸って言い放った。
「…明日の夜……親父がお帰りになるぞォォォォォ!!!!!」
深澤の絶叫は夜空まで届き、幹部たちは寝ることも忘れて部屋中の掃除と明日の晩御飯の支度に総動員で取り掛かった。屋敷中を駆け回るドタバタという七人の足音は、朝方まで鳴り止むことはなかった。
続