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ゆゆゆゆ
3,330
#doublefedora
乾いた銃声。
悲鳴。
崩れる空気。
「走れ!」
チャンスの声が飛ぶ。
ほぼ同時に、腕を引かれる。
「追ってくるぞ!」
後ろで、足音。
複数。
騒然とした店内を走り抜ける。
エリオットの呼吸が上がる。
でも、足は止まらない。
駐車場。
「チャンス、こっち!」
エリオットのバイク。
鍵は、もう手の中。
(……来んなって言っただろ)
一瞬、チャンスの言葉がよぎる。
でも――
「知るか」
小さく吐く。
スーツのまま。革靴でステップを踏む。
エンジンをかける。
爆音。
「乗れ!」
チャンスが後ろに飛び乗る。
同時に――
「撃て!」
後方からの声。
銃口が上がる。
「伏せろ!」
チャンスの腕が、エリオットの背中を押す。
次の瞬間――
銃声。
金属音。
火花。
「……っ!」
アクセル全開。
タイヤが滑るように回り、バイクが夜の道路へ飛び出す。
***
風が、叩きつける。
ネオンが流れる。
背後から追ってくる車のライト。
「右だ!」
チャンスの声。
同時に、身体が動く。
ハンドルを切る。
ギリギリで曲がる。
「お前、慣れてんじゃねぇか!」
「ピザのデリバリーでね!」
エリオットが笑う。
明らかに、テンションがおかしい。
銃声が追ってくる。
街の中を、疾走する。
車列の隙間を縫う。
信号無視。
クラクション。
全部無視。
「なんだこれ、やばい!」
声が弾んでる。
恐怖じゃない。
完全に――
高揚。
「チャンス、いつもこんな事してんの?!」
「たまにな」
銃声と同時に返す。
チャンスが振り返りざまに撃つ。
後ろの車がブレーキをかける。
「最悪だろ?」
「いや――」
エリオットが笑う。
夜風の中で。
「……最高」
その一言に。
チャンスが、一瞬だけ黙る。
「……っ」
(イカれてる)
でも次の瞬間には、また撃つ。
「前見てろバカ!」
「見てるって!」
バイクがさらにスピードを上げる。
細い路地へ。
車は入れない。
「そのまま突っ切れ!」
「了解!」
壁ギリギリを抜ける。
段差を飛ぶ。
着地の衝撃。
「っ……!」
腕に鈍い痛み。
でも。
止まらない。
「……っは!」
笑いが漏れる。
「ほんとにやばいこれ!」
「後で言え!」
最後の角を曲がる。
ライトを消す。
エンジン音を落とす。
静寂。
――追手の気配が、消える。
***
数分後。
人気のない路地。
バイクを止める。
「……はぁ……」
エンジンを切る。
一気に静かになる。
さっきまでの音が嘘みたいに。
「……撒いたな」
チャンスが呟く。
「だね」
エリオットが息を整えながら笑う。
少し荒い呼吸。
でも。
顔は――
楽しそうだった。
「……お前」
チャンスが呆れたように見る。
「普通ビビるだろ」
「ビビったよ」
即答。
「でも」
肩で息をしながら。
「それ以上に、やばかった」
少しだけ、目を細める。
「……楽しかった」
その顔。
あの時と同じ。
全部持っていかれそうなやつ。
「……」
チャンスが、ふっと笑う。
小さく。
「ほんと最悪だな」
「お互いにね」
エリオットも笑う。
そのまま。
どちらからともなく――
拳を出す。
コツン、と軽くぶつける。
乾いた音。
でも。
確かな感触。
***
「……っ」
その直後。
エリオットの動きが、わずかに止まる。
「どうした」
チャンスが眉を寄せる。
「いや……」
エリオットが腕を軽く押さえる。
スーツの袖。
じわりと、暗く滲んでいる。
「……マジか」
「かすっただけ」
軽く笑う。
でも、少しだけ顔が歪む。
「たいしたことない」
「バカ言え」
チャンスの声が低くなる。
一歩、近づく。
その腕を掴む。
さっきより、ずっと慎重に。
「見せろ」
「……平気だって」
「いいから」
短く、強く。
その声に、エリオットが少しだけ黙る。
「……」
視線が、ぶつかる。
さっきまでの高揚が、少しだけ落ち着いて。
代わりに――
別の熱が残る。
「……ほんと」
エリオットが小さく笑う。
「最悪な夜」
「……だな」
チャンスが低く返す。
でも。
その手は――
離れなかった。