コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
いつもの様に、異能祓魔院では、淡々と書類作業が行われる。
楽にとって一番嫌な時間だった。
「隊長〜……もう限界だ〜……」
愛を憑依してから、楽はある程度の漢字が読めるようになってしまい、雑務も手伝うことになったのだ。
「つーか神崎の奴はまだかよ。遅刻じゃねぇーの!」
アルバイトの神崎は、基本的に雑務に参加はせず、学校終わりに清掃や食事作り、残りの時間に軽く書類整理を手伝うのが日課だった。
しかし、面倒見のいい神崎は、楽のミスを心配して少し手分けしてくれていた。
「そう言えば確かに、神崎が遅刻は珍しいですね」
普段から寡黙な逸見も、楽のだらけた言葉には反応しないが、この話題には食い付いていた。
「それもそうだな……」
そして、暫くの時間が経つ。
「ハァ〜、悪霊と戦いてぇなぁ〜」
楽の集中力は限界に達しようとしていた。
そんな時だった。
テレレレレレレレ!!
事務室の電話は突如として勢い良く鳴り響く。
「はい、異能祓魔院です」
睦月が受話器を持つと、電話越しからはゴソゴソと物音が鳴り響き、人の声がしない。
「あのー、異能祓魔院ですけど……」
そして、微かに遠くから聞こえる声。
「……隊……助……て……」
睦月の顔は青褪める。
「異能教徒……!!!」
その声に、楽と逸見も立ち上がる。
「神崎を誘拐したのか!!! おい!! 答えろ!!」
しかし、そのまま電話はプツリと切られた。
「隊長……今のは……」
「神崎が拉致られた。異能教徒だ……!! 本格的に俺たちを潰そうとして来ているんだ!!」
「確かに……唯一異能祓魔院で寝泊まりしていないのは神崎だけだし、誘拐されやすいかも知れませんね……」
「楽を諦めてない点から、異能祓魔院潰し、並びに楽を攫うことを目的としているんだろう。直ぐに行くぞ……」
「直ぐにって言っても……場所が……」
「悠長なこと言ってられるか!! 仲間が危険な目に遭っているんだぞ!!!」
いつもは真面目な睦月は、熱くなると止まらない。
それを知っている逸見は、黙ってしまう。
パンパン!
そんな殺伐とした事務室に、手拍子が響く。
「落ち着きなさい、睦月副隊長」
「八幡……隊長……」
「神技を使います」
「しかし……神技を使ってしまっては……半年間は神技は使えなくなってしまう……。緊急事態が起きたら……」
「本当に慌てているようですね、睦月副隊長。これ以上の緊急事態が他にありますか?」
「……ありません!あるはずもない……!」
「それでは、神技を使います。確か、神崎さんの大学から住所までは西武地区でしたね?」
「そうです。恐らく誘拐するとしたらその辺りかと……」
そして、八幡は静かに事務室を去った。
「なあ、シンギ? って、なんだ?」
「口で説明するのは難しいが、八幡隊長のみが扱える『契約している神の力を借りる』ことだ。まあ見ていろ。行くぞ」
そして、三人も八幡の後に続いた。
真ん中に聳える神棚に全員は集まる。シスターも慌てて白装束に着替え、参列した。
「始めます。南無阿弥陀 緑地 空虚 真達羅魔陀羅」
すると、奥に聳える大樹はふわっと光る。
「見えました。神崎さんは少し離れた地下施設に捕らわれています」
「そ、それはどこですか……!? 急がないと……」
「異能教徒の本拠地です。異能教徒の崇める神による神技結界があり、外部から侵入は出来ません」
「そ、それじゃあ……」
「もう半年分の神技を使い、貴方たちを転送します。しかし、結界は破れない。何を意味するか分かりますね?」
「本拠地の主を倒さなければ、俺たち全員が脱出できない……と言うことですよね……?」
「そうです。かなり危険ですし、罠の可能性もあります。きっと、私に一年分の神技を使わせることすら計画の内なのでしょう。それでも、向かいますか?」
睦月と逸見は、苦い顔を浮かべてしまう。
しかし、
「おう! 行くに決まってるぜ!!」
「楽……」
「神崎助けんだろ!! 他のこと考えんのは、俺は良くわかんねぇけど、後回しだろ!」
「そ、そうだ……! 転送、お願いします……!!」
「睦月副隊長……いえ、異能祓魔隊 隊長 睦月飛車角。必ず仲間を全員引き連れ、戻って来なさい」
睦月は、何も言わずにビシッと敬礼をした。
そして、次の瞬間、楽たちは薄暗い地下施設にいた。
「すげぇ……一瞬で場所が切り替わった……」
「楽……もう油断は出来ないぞ……。ここは既に敵の本拠地だ。八幡隊長のことだから、相手の監視が少ない場所に転送してくれただろうが、それでも相手だってそれを見越しているはずだ……」
バチン!!
薄暗く光っていた灯りは、一瞬にして全て消える。
「やはり……罠か……」
全員は固まり、緊張に汗を滴らせる。
「うおっ!!!」
そして、真下に三つの穴が同時に開かれる。
「クソっ……! こんなありきたりな……!」
三人は更に地下深く、散り散りにされてしまった。
逸見は、一人で落下させられた。
目の前に居たのは、以前手も足も出なかった片腕の老人がそこには突っ伏していた。
「お久しぶりです、銃の青年よ」
挨拶と同時に、老人は瞬時に眼前に迫る。
「すみませんねぇ……痛ぶる真似は私は好きではないもので……。瞬殺、させて頂きます」
老人は、思い切り拳を振るう。
「弾丸」
スッと、逸見は高速移動をして交わす。
「何……!? 以前はそんなこと……!!」
「悪いな、異能教徒。この重たい銃は、“協力して悪霊を優しく祓う” 為の武器であり、俺の本当の特技は “近接戦闘” なんだ」
老人にも追えない速度の一発を腹に喰らわす。
「速度で負けることはない。俺は、“俺自身が弾丸” だ」
「こんなもの……調査では……」
「そうだな、ここ十年近く、この近接戦闘をすることはなかったからな……。俺は、元No.5『弾丸暴徒』。覚えておく必要はない。もう終わるからな」
次の瞬間、老人は気絶していた。
「さて、奥へ進もう。銃は……置いていく」
逸見桂馬の目は、いつもより狂気に満ちていた。