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宮毘羅
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読み終わりました。第95話「魔竜誕生」、タイトル通り最後のラウルの竜化が本当に圧巻でしたね。「盾が喋った!」からの急展開、一気に物語のスケールが変わった感じがします。人ならざる厄災に立ち向かう手段としての竜化、でも暴走しているっていうのがまた気になる…。ニーズヘッグの邪眼もただの目玉じゃない重厚な設定で、相変わらず世界観の作り込みが丁寧だなあと。次の展開がすごく気になります!
「ナハト、ここにあるもん全部燃やせ!」
命令を受けたナハトの腕から、蛇のようにのたうつ雷が迸る。青白い電流が次々とブラッドストーン製造機に絡みつき、爆発とともに火花が散る。あっという間に施設の中は炎と煙に包まれていった。
「やめろぉっ! それを壊すなぁぁっ!」
金儲けの道具を壊され、相当お怒りな村人が突撃してくる。
ためらいなど微塵もない、明確な殺意を持ってデカいフォークみたいな農具を振り回してくる。
だが、こっちも訓練を積んでいる。そんなハエが止まるような攻撃なんぞ弾き返してくれるわと思ったが、ヨハンナが騎士らしく俺の前に立ち、拳を唸らせる。
「よるんじゃねぇよ!」
彼女は農具をかわしながら懐に潜り込むと、渾身の右ストレートで村人を吹き飛ばす。
顔面をぶん殴られた男は、錐揉しながら宙を舞い、その拍子に眼球の入ったカプセルに衝突。
ガシャン! という激しい音と共にガラスが砕け散る。
薬液が飛び散るなか、巨大な眼球がズルリと這い出てくる。
「何をやっているのです! ニーズヘッグの邪眼が!」
エロモンドが慌てふためく。
邪眼は触手のような血管を使い、クモのように石床を跳ね回る。その動きは機敏で、縦横無尽に壁や天井に張りつく。
「サンダーレイ!」
ナハトが邪眼に向けて電流を放射すると、エロモンドが血相をかえて飛びかかってくる。
「やめろぉ! その目は金のなる木なんだぞ!!」
目玉を守ろうとナハトに体当たりを浴びせ、無理やり魔法を中断させる。
なんて奴だ、自分が感電する危険なんて何も考えていない。そうまでして金を守りたいか。
だが、その行動が裏目に出る。エロモンドの背後から邪眼が突如飛びかかり、その頭部にぴたりと吸着した。
「んごっ!?」
次の瞬間、眼球と頭部が融合を始める。肉が蠢き、骨が軋み、全身が痙攣を繰り返す。悲鳴とも呻きともつかぬ声が響く中、エロモンドの顔がどんどん変貌していく。
「あがががががが!!」
やがて、頭部にコブのように寄生した瞳が再び開いた。真紅の眼球が右に左に揺れる。
「野郎、領主を乗っ取りやがったぞ!」
ヨハンナが叫んだ直後、エロモンドの頭部から凄まじい魔力波が放たれた。
空気が歪み、床がひび割れ、俺たちは壁に叩きつけられる。
「なんて魔力だ、ただの目玉じゃねぇよ!」
「ニーズヘッグの邪眼ってのは、本当かもしれん」
邪眼の攻撃は無差別で、子爵の味方である村人にも衝撃波を放つ。
「う、うわぁ! 子爵が化け物になっちまった!」
「逃げろ!」
村人たちは蜘蛛の子を散らすように地下室から逃げ出した。
邪眼は、視界に映るもの全てを敵と認識しているらしい。
今度は、囚われたまま動けないデーモンたちに瞳を向けた。
「まずい!」
俺は聖剣(盾)を構え、デーモンへの攻撃を受け止める。ギィン! と耳障りな金属音が地下に響き渡った。
「なんとか受け止められるが、腕が痛ぇ!」
「こんのぉサンダーレイ!!」
ナハトの両腕から白き稲妻が迸る。
チカチカと閃光が瞬き、触れれば骨も残らず焼き焦がされそうな電流。地下室で使うにはオーバーパワーな魔力が荒れ狂う。
かわすことすらしない邪眼に電撃が直撃。
「やったか!?」
いくらニーズヘッグの瞳だろうが、あの雷を浴びてただではすまない。
が、そんなフラグ地味たことを思ったのが悪かったのか、閃光がおさまったとき邪眼は悠々とその場に立っていた。
「魔法耐性があるのか?」
「なら殴り倒してやる!」
今度はヨハンナが飛びかかる。4メートル程の距離を跳躍。上半身を右側に大きく捻り、邪眼が寄生する頭部を狙って射抜くような鉄拳が炸裂。
だが、強力な打撃は赤く発光する魔力防壁に阻まれる。
「ぐっ、なんだよこれ!?」
ヨハンナが連撃を浴びせるも、障壁はビクともしない。
「0バリアだ……」
俺はあの障壁に心当たりがあった。ゲーム中ボスキャラクターが使用してくるもので、ネーミングの通りダメージを全て0にしてくるバリアである。
これを突破するには、特殊なバリア貫通武器で攻撃するしかない。それ以外の攻撃はいくら打っても無意味だ。
「こいつは特攻となる武器かスキルを持ってないと、絶対倒せないタイプのモンスターだ!」
「マジかよ!?」
「ラウルの聖剣でも無理なの?」
ナハトに言われて気づく。よくよく考えると自分の持っている剣こそが、その特攻武器である。
「ヨハンナ下がれ、俺が全て倒す!」
おんどりゃあああ、俺の聖剣で眠れや! っと斬りかかると、ナハトの魔法も、ヨハンナの打撃も受けとめた障壁が、ガラスのようにパリンと砕け散る。
「うぉ、ほんとに壊せた!!」
自分でやって、自分で驚いてしまった。
「これであたしたちの攻撃も効くな!」
ヨハンナが拳を握りしめた瞬間、邪眼は再び障壁を張った。
「んだよ、あの目玉! すぐバリアはりやがって!」
「ナハト、ヨハンナ、すぐにここに囚われている魔族を連れて、地下から出るんだ。こいつは俺が受け持つ」
「お前、一人でやり合う気かよ!」
「奴への有効打が聖剣しかないんだったら、俺にしか倒せない。ナハト頼んだぞ!」
「もぉ僕まだ君と生中交尾してないんだから、やられちゃダメだよ! シャドウゲート!」
とんでもなく下品なことを言いながら、ナハトが術式を唱えると、空中にブラックホールのような穴が生成される。
「地上へのゲート作ったから!」
ヨハンナは捕らえられた魔族たちを、次々にゲートへと放り込んでいく。
最後青髪金目のデーモンが抵抗を示す。
「やめろ、離せ人間!」
「危ねぇから! 生き埋めになっちまうぞ!」
「僕らは敵じゃないって!」
ナハトとヨハンナは抵抗するデーモンを羽交い締めにして、一緒にゲートへと入る。
全員の転送が終わると、ゲートは最初から何もなかったように消滅した。
仲間たちが去った地下には、俺と邪眼だけが残された。
「二人っきりだな、目玉野郎」
「――キーキキキキキキキッ!」
子爵の口から意味不明な叫びを放つと、邪眼が発光する。
次の瞬間、目玉の中心から真紅の熱線が放たれた。
近代兵器のレーザーガンのような鋭く早い攻撃。
「くっ、速ぇっ!」
動けるデブである俺は、横っ飛びで回避。背後の石壁が、まるでバターに熱したナイフを入れたように 一瞬で溶け崩れた。
俺はこいつ相手に防戦になったら負けると悟り、聖剣を大上段に振り上げながら飛びかかる。
「障壁ごと真っ二つにしてやる、一刀両断斬りっ!」
渾身の剣撃が放たれるが、剣が障壁に届く前に邪眼が妖しく光り、カウンターの衝撃波が発生。
直撃を受けた俺の体は宙を舞い、天井にぶつかり石床をボールのようにバウンドしてから壁に叩きつけられた。
「ぎゃふん!」
「キキキキキ!」
「笑ってんじゃねぇぞ、目玉野郎!」
俺は痛む体にムチを打って立ち上がる。
もう一度障壁突破狙いで斬るか? いや、また衝撃波でふっ飛ばされるだけだな。初撃を盾で受けてから行くか? 相手に打たせてから斬るはアクションゲーの基本である。
俺はドラゴンヘッドカリバーを構える、その時竜の盾が鋭く煌めいた。
まるで仇敵を目の前にしたように、聖剣が震えている。
一体どうしたのかと思うと、竜頭を模した盾の口の部分がカパカパと動いた。
『アレハ――人ノ身ニハ倒セヌ厄災』
「盾が喋った!」
『アレハ――人ノ身ニハ倒セヌ厄災』
わざわざ二回言ってくれる盾。
「じゃあ、どうしろってんだよ」
『王ノ証ヲ持ツ者、竜ヲソノ身ニ宿セ』
「何を言ってるか、さっぱりわからん」
『悪竜ヲ倒スノダ』
突然手の甲に刻まれた紋章が灼けるように熱く光り出す。
「なんだこれ、あっつ!」
光が体を包み、ドラゴンヘッドカリバーから俺の体に、膨大な魔力が流れ込んでくるのを感じる。
「体が……砕け、る」
『力ヲ――解放セヨ、悪竜ヲ討テ』
「……カロリーバースト、憑依竜」
俺の身体が変貌する。
骨が軋み、体が膨張し、皮膚が黒銀の鱗へと変わっていく。
聖剣内の竜の魂が、元の体を再現させようと俺の体を触媒にして竜化させているのだ。
やったこともないのに、俺は空気を吸うだけで魔力を吸収することができる。取り込んだ魔力を糧に、体が巨大化していく。
人の形はとうに失われ、地面が崩れ、地下室の天井が砕け、竜化した体が地上へと顔を出した。
夜闇を背景に、黒銀の翼を広げ、空を切り裂くように咆哮する。
「――――■■■■■■!!!!」
それは、人間ではない。
魔力が暴走し、制御が効かなくなった一匹の魔竜ラウルだった。