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零番線特急

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零番線特急

35 - 35 おいてけぼり

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2022年05月05日

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 通りにはたくさんの音が満ちていた。

 行きかう人の足音や引いているリアカーのようなものの車輪の音も、叫ぶように誰かを呼ぶ声も、そのどれもが俺達の間をただ通り過ぎていた。

 黙り込んだまま 幸造(こうぞう)さんは林老人を見つめているし、林老人は 俯(うつむ)いたままだ。

 やがて、幸造さんが手を差し出した。その手に気がついて林老人はゆっくりと顔を上げる。

「……ありがとうな」

 その言葉の意味をはかりかねたように、林老人が口を開けてから、また閉じた。

「生きて、くれて。その年まで生きてくれて。それに、迎えに来てくれたんだろ、父さんを」

 林老人は泣きそうな顔で首を振る。

「俺は、俺は……逃げたんだ。母さんも、周造も置いて、逃げて……父さんが俺達を探してるって知ってたのに、逃げた。逃げたんだ。逃げて逃げて……逃げ続けた」

「そうか」

 林老人の頬にとうとう涙が流れ************

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