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「私って本当に行動半径が狭かったのね」
大通りの脇道に入った所にあるCrowから車が入れないほどの細い道に入ると昭和を漂わせる古いビルの一階に“純喫茶 憩”と書かれた看板が置かれていて木枠の扉は“本物”のレトロ感を醸し出している。
「表通りは洒落たビルが立ち並んでいるのに、ちょっと裏路地に入っただけでこんな場所があるなんて」
「実は俺も知らなくて最近になって親父に教えてもらったんだ」
カランという音と共に扉を開けると、落ち着いた店内には緩やかにクラッシックの音楽が流れていた。
座席は8割がた埋まっていて賢一は店内を一瞥すると柱の影になる席に空席を見つけて誘導してくれた。
木製のテーブルに合皮のソファは硬すぎず柔らかすぎずで実にしっくりとくる。
「喫茶店って初めて入るかも、普段だとコーヒースタンドとかファミレスとかだから、でもすごく落ち着く」
「しかも、モーニングが安くコーヒーが美味い、ただしモーニングは一種類だから選択肢はないけどね」
水を運んできた店員に注文を済ませると、賢一とほぼ同時のタイミングでタブレットを取り出した。
「「あっ」」
スケジュールとメールのチェックをしようと思っていたら賢一も同じことを考えていたことにちょっとだけ嬉しい気持ちになった。
一通り目を通した頃、小さくカットされたバターが表面にほどよく焦げ目の入った六切りトーストの上でじわりと溶けている。
ポテトサラダと白いスタンドにはゆで卵が置かれてそれらが一枚の皿に載っていた。
新しく買ってきたコーヒー豆の封を開けた時のふわっと鼻腔を通る時の様な香りがするコーヒーがテーブルに置かれた。
「良い香り」
一口含むと、口腔内を甘みの中に酸味がスッと通り抜ける
「美味しい、絶対自分では淹れられないわ」
「気に入ってもらえて嬉しいよ、しかもこれがワンコインなんだ。ランチも中々美味しいよ」
「会社の人とか会うことはある?」
「案外、穴場なんだよ」
確かに、大通りには有名チェーンのコーヒースタンドや洒落た今風のカフェが並んでいるから裏路地にまで気がいかないのかも知れない。
「ただ、トーストに関しては冷えてしまうと固くなるから食べようか」
「そうね」