ー私が愛した人はどこまでも独りぼっちだった。
私が彼と出会ったのは3歳の時だった。
どうやら、訳ありでこの村に1人で越してきて私の家で一緒に暮らすことになった。
彼は私と同い年だった。挨拶しても目を逸らすし、意地悪しても全く嫌がらずやり返しても来なかった。
変なやつだった。ーーーーーーーーーーーーーー
「おーい!遅刻するよ!」
私はカレン・グリンシア。今日で16歳になり、一人前となるのだ。
今日は成人の儀式があり村が慌ただしい。
この成人の儀式では、毎年王都メーンデリアからスカウトがやってきて見事才能を認められた人は恵まれた環境と待遇を保証され、名を挙げれることも…
「待って、今行くよ。」
彼はラルク・カーティア。3歳の時にこのクルガ村に来た。
のんびりとしている彼の手を引っ張り、広場の方へ走ろうとした時、
「カレンちゃん、持ってきな。」と親戚のカーシャおばちゃんがお弁当くれる。早朝から仕事の両親の代わりのような人だ。いつもニコニコしていて人当たりが良くて大好きなおばちゃんだ。
「いつもありがとうございます。」
「いいのよ。だって今日は成人の儀式じゃないの。ちゃんと二人分あるわよ。」
私はおばちゃんを背に急ぎ目に言った。
「行ってきまーす!」
「行ってらっしゃいな。」
広場に近づくと人々で溢れ返っていた。アーチ状に飾られている色とりどりの飾り、道に沿って綺麗に並ぶ屋台。
私は人混みの中を嫌がるラルクを引っ張りながら広場の中央へ進む。
成人の儀式は学力試験、実技試験と二つの試験を要し、無事合格出来たものは成人として認められようやく一人前を名乗ることが出来るのだ。因みに実技試験は剣術、魔法の二つありどちらかを選び試験を受けることになる。
過去にこのクルガ村では、名のある英雄であるユークリッド様がスカウトされたこともあり、村の子供達は意気揚々と試験を志している。
広場に着くと、村中の子供達が集まっており、目の前には村の護衛団リーダーのスクルトが段の上に立っていた。
「皆の者、今日この日雛が一人前の鳥となり巣立つ事を、世界に羽ばたく事を願っている。そして、嬉しいことに王都メーンデリアの精鋭の皆々様方が来て下さっている。ぜひ、目に留まれるよう奮闘してくれたまえ。」
そう言うとスクルトは後ろに下がり呼びかけた。
「タニエ・ミーシア試験総監督どのお願いします。」
奥から、風格溢れる女性が段の上に上がる。
「それでは皆さん。試験会場へ参りましょう。」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
〜試験会場〜
「学力試験どうだった?」
私がそう言うとラルクは答える。
「簡単だったよ。どれも家の本に書いてあったもので勉強したし。」
私は嫌味そうに言った。
「そうでしょうねー!べー!」
「それはそうとして次は実技試験だよ…。心配だな…。」
ラルクは答える。
「カレンは大丈夫だよ。火の魔法の適正あるし、僕なんかあのシモン先生が監督だよ…。大丈夫かな?」
私はそれを聞いて
「確かに火の魔法の適正はあるけど、スクルトに認められたあんたには敵わないわ。…知ってると思うけど一応ラルクは鷹の爪騎士団幹部クーヴァ様のスカウト候補なんだから!」
ラルクは困った様な顔でこちらを見てきた。
「まぁいいわ。次の実技試験絶対に結果出してやるんだから…!」
そう言って二人は試験会場に向かった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
〜実技試験会場〜
「試験監督を務める護衛団魔法部隊隊長フレミーよ。フレみんって呼んでくれて構わないわよ?」
男子の和気藹々とした歓声が上がる。
「フューフュー!フレみんサイコー!」
フレミーは笑顔で返すとゴブリンの形をした的を指さした。
「実技試験内容は至って簡単よ。あのゴブリンの形をした的を魔法で射抜くだけ!まずはお手本を見せるわね。」
そう言うとフレミー先生が手を前に突き出し、詠唱を始めた。
「我が祖、水の化身ウンディーネに捧ぐ!湧きあがれ泡沫、そして甚だしくも水簾の如し清流で敵を滅せよ!ウォーターボールゥ!」
その声に応えるように手の先から30cm前後の水の玉が現れゴブリンの的の方向へと飛んで行った。
「バチャーンッ!」
ウォーターボールに当たった的はへし折れて中の板が剥き出しになり倒れてしまった。
「フフーン!どんなもんだい!」
とフレミーが言うと男子がまた声を揃えて歓声を上げた。
ーーーーーーーーーーーーーーー
どうやら、試験は順番で回していきそれを順々審査員の人達が見ていく感じらしい。
私は最後の方の列だったのだが、先に行った人達の反応を見るに緊張して詠唱を唱えられなかった人と満足に手を振るうことが出来た人とで半々くらいだという事が分かった。
「ウゥッ…上手く打てなかった…」
前の人を見て不安になりつつもついに私の番が回ってくる。
「では、どうぞ。」
と審査員が言う。
私はスゥッーと息を吸い集中し、手を前に突き出し、詠唱を始めた。
「我が祖、火の化身イフリートよ。我が願いに応え、燃え上がる豪炎の中で敵を白灰とし、敵を滅せよ。フレイムアロー!」
身体の中の血液が掌に集まる。身体が熱を発し、魔法を穿つ準備が整った事を知らせる。
そして、放つ。
「ヒューッ!…バコンッ!」
的に当たり、中心が黒く染り削れる。十分な出来だ。後は、審査員の反応を見ればわかる。
「-…-..—,」
隣の人と喋っていて何と言っているかは聞こえないが、ここから見れば大体は分かる。魔法は成功だが、失敗だ。
悲観的な考えをしていた瞬間、剣術試験会場から悲鳴が聞こえた。
フレミー先生が慌てた様子で試験生に言った。
「試験は一時中断です。試験生はここで待機していて下さい。」
試験生はどよめいた状況で不安がっていた。
そんな中、近くにいた審査員の話している事が耳に入る。
「期待の星だったラルクと暴れん坊デュークが喧嘩してるってよ。一体どっちが勝つんだろうな。」
嫌な予感がした私は無我夢中で剣術試験会場の方向へ向かった。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!