テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
入学から数日が経った、ある日の理科の授業だ。担任の糸川先生は特に天文が好きなんだそうで、今日は初めての理科の授業ということで導入として先生の好きな天文の授業をやるようだった。
「みなさん、月にはウサギがいますよね。そう、つまらない話になってしまうかもしれませんが、その正体はクレーター。微惑星や隕石が高速で月面に衝突した際、衝撃波によってできるお椀状の穴、それがクレーターです。さてこのクレーターは、見る地点によっては様々なものに見える、というのも有名な話です」
テンションが上がっているのか、天文の話になると糸川先生はとても饒舌になる。流れるように舌が回る。
「アラビアでは猛々しくほえるライオン、東ヨーロッパでは美しい女性の横顔。南ヨーロッパではなんと蟹です。ただのクレーターが、見方によって様々なものに変化するなんて、なかなか面白いことだと思います」
確かに、どこから見ても変わらないクレーターが各地で違った見え方で捉えられることは面白い。が、星座に関してはだいぶ無理やりだな、とも思う。それは観察ではなく、決めつけではないか?と。
「つまり、つまらないものも角度によっては面白く見える、ということです。そしてそれを可能にしてるのは想像力なんです。腐るほど言われた言葉ですが、想像力は偉大です。あなたたちには知識以前に、物事を想像する力を養ってもらいたいのです」
クラスの皆は話半分で聞いている。つまらなそうに耳をかく男子、髪をいじる女子、天井を見ている男子…これは高彦だ。
「高彦、何してんの?」
「天井のシミってやつも、月のクレーターとおんなじようなものだよな」
納得だ。これも何気ないものだが、見方によっては顔になったり可能性を秘めているように思える。
「ほら見ろ、お前みたいな顔のシミがある。いい暇つぶしだ。たまには天井を見るっていうのも楽しい」
「ちゃんと先生の話を聞けよ」
授業は終わり、休み時間となった。
「そういえばあそこのロッカーなんであんなに凹んでるんだろうな」
高彦が急に言ってくる。指さす先には、うちのクラスのロッカーがあった。廊下に縦3列、横13列で並べられており、その真ん中らへんのロッカーのひとつが、なにやら凹んでいる。
「入学早々、可哀想なロッカーだ」
高彦はロッカーを使う人よりも、ロッカーの方を気にしているようだった。
「ロッカー番号は14番、えっと出席番号14番は…」
俺はロッカーを凹まされた可哀想な人は誰か、野次馬精神で特定しに行く。
「霜文月羽…か」
まだ入学して数日、顔も覚えていない人も多い。やはりこの霜文月羽のことも俺は知らない。
「よお、安太」
高彦はある男子に話しかけた。
「や、やあ、天川」
おどおどと返答するその男子。
そのまま会話はなく男子は通り過ぎてゆく。
「ふあぁぁ、眠い」
高彦は間抜けなあくびをかましている。入学当初の自己紹介からは考えもつかなかったが、結局普段行動を共にするのは彼となった。一緒にいて面白く、また彼は目が鋭い。彼と一緒にいると様々な発見ができる。
「お、なんだこれ」
俺は廊下に落ちていた紙のようなものに手を伸ばす。拾い上げるとそれは、ウサギの形に切り絵が施され上からラミネートされてある、栞のようなものだった。
「キレーな栞だな、そりゃ。月の落とし物じゃねえか?」
と彼は笑っていう。糸川先生の話になぞらえてだろう。想像力、と思い出しながらとりあえず栞をポケットに入れる。
ゆきだるま