宮本の発言に、橋本がうんと嫌そうな表情を浮かべた。
「あれ? 俺ってば、間違ったこと言っちゃいました?」
「俺が誰かに盗撮されてると言った時点で、カメラの存在をまったく意識しない、雅輝の考えが信じらんねぇよ」
宮本の背中に回していた両手を肩に移動させて、静かに押しのける。すると素直に橋本の躰の上から退いてその場に立ち尽くすと、きょろきょろしはじめた。
「この狭い部屋の中のどこに、カメラがしかけられているんでしょうね」
「イくまで出られないところを考えると、ベッドが映るように設置されていると思うんだ」
「むぅ? するとあの辺りになるのかな」
橋本が目をつけた場所に勇んで行く宮本を見、慌ててベッドから起き上がって追いかけた。
「どこかな、どこかな?」
「おい雅輝、楽しんでないか?」
口元を綻ばせながらカメラを探す宮本に、橋本は心底呆れながら問いかけつつ、隠されてるっぽい場所に手を伸ばす。
「あっ、陽さんってば、そこ俺が次に探そうと思ってたところなのに」
「ひとりで探すよりふたりで探したほうが、早く見つけられるだろ。いちいち文句を言うなって」
肩を寄せ合い、わいわい言いながら探しているときだった。横にある扉から、ガチャンという音が聞こえてきた。
「……今の音、なんだ?」
探す手を止めて扉に視線を飛ばした橋本の質問には答えず、神妙な面持ちをした宮本は立ち上がり、ドアノブを握って扉を引いてみる。
「鍵を開けてくれたみたいっス」
すんなり開いた扉を見せながら宮本が答えると、橋本は首を傾げながら口を開いた。
「俺たちがカメラを探すのを見て、諦めてくれたんだろうか」
床に放ってあったジャケットを拾い上げ、肩を竦めながら扉に向かった橋本とは対照的に、なぜか宮本は室内の中央に戻り、あちこちに視線を飛ばす。
「おい雅輝、さっさと出るぞ。じゃねぇとまた、閉じ込められるかもしれないだろ」
「あっ!」
壁に貼ってある紙に指を差すなり、走りよって紙の下のほうに顔を寄せた宮本の行動を止めるべく、橋本は扉を大きく開け放ってから、渋い表情で近づいた。
「雅輝ってば、人の話を――」
「俺たちが解放された原因は、きっとコレっす!」
興奮気味に言うなり、小さく書かれている文字を指でなぞった。
「あ~? なになに。『ただし異性のカップルに限る』って、確かに異性のカップルじゃねぇから、さっさと退出しろってか。だったらなんで俺らを閉じ込めたんだ?」
「ゲリラ豪雨のせいで、俺たちの姿がちゃんと確認できなかったんじゃないですかね」
うんざり顔をした橋本に、宮本はカラカラ声をあげて笑った。
「それよりも残念でしたね、陽さん。誰かに見られながらイケなくて」
「アホか。そんな趣味、持ち合わせてねぇって。さっさと出るぞ!」
ノロノロしている宮本を置き去りにした橋本は、変な部屋から飛び出すように外に出た。さきほどまで降りしきっていた雨はあがり、雲の隙間から星が見え隠れする。
「ま~さ~き~、置いてくぞ」
無理やり監禁されたというのに、名残惜しそうに振り返る宮本の頭を、橋本が思いっきり殴った。
「痛っ!」
「また閉じ込められたいのかよ?」
「そうじゃなくてですね、たまには違う場所で、陽さんとエッチがしたいなぁと思いまして」
煌びやかな繁華街のネオンに向けられた足が、その言葉でぴたりと止まった。
「なんだそりゃ?」
「ねぇ陽さん、お酒とかコンビニで買って、ホテルで一泊しましょうよ」
「そんなの別に、家でもいいだろ」
「言ったでしょ、たまには違う場所でシたいんだってば」
橋本の耳元に顔を寄せた宮本が、誘うように吐息をかけて煽りはじめる。しまいには双丘の微妙なラインに、宮本の片手が触れる始末。
「おい、こんなところで変なことやめろよ」
お触りする悪い手を掴み、ギリギリと捻りあげたというのに、宮本は痛い顔をまったくせずに、眉根を寄せた橋本に語りかける。
「陽さんがエッチになってるとこ、今すぐ見たいんだけどな」
「家に帰るまで我慢しろ」
「我慢できないから、こうやって交渉してるんだよ。お願いっ!」
宮本の空いた片手が橋本の後頭部を掴み、逃げられないように固定する。あっと思ったときには、目の前に顔が迫っていた。
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