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キッチンでは卵がフライパンの上で軽く音を立てている。
チャンスはコンロの前に立っている。
白シャツの袖を少しまくり、フライパンを動かしている。
その後ろ。
エリオットはキッチンカウンターに寄りかかったまま、しばらくそれを眺めていた。
金色の長い髪が肩に流れている。
赤いサンバイザーはまだテーブルの上。
数秒。
それから。
エリオットはゆっくり立ち上がった。
静かにチャンスの後ろへ歩く。
チャンスはまだ気づいていない。
フライパンに集中している。
次の瞬間――
後ろから腕が回された。
「……!」
チャンスの体が一瞬止まる。
エリオットが後ろから軽く抱きついていた。
腕がチャンスの腰に回っている。
チャンスは少し呆れた声を出す。
「……エリオット」
後ろから声が返る。
「ん?」
エリオットは肩に軽く顎を乗せている。
「料理中」
チャンスが言う。
エリオットは気にしない。
むしろ少し楽しそうだ。
「いい匂い」
チャンスはフライパンを動かしながら言う。
「邪魔だ」
エリオットは小さく笑う。
でも腕は離さない。
むしろ少しだけ強く抱きつく。
「チャンス」
「何だ」
エリオットの視線が下に落ちる。
黒いネクタイ。
まだ結ばれている。
エリオットは少し笑う。
「やっぱりある」
そして。
後ろからネクタイをつまむ。
くい。
チャンスの体がほんの少し後ろに引かれる。
「……」
チャンスは小さく息を吐く。
「朝から飽きないな」
エリオットは肩に顔を寄せたまま言う。
「癖」
そしてまた。
くい。
チャンスは少し笑った。
フライパンを火から外す。
それから。
振り向いた。
エリオットとの距離が一気に縮まる。
エリオットが少し驚く。
「……おっと」
チャンスはネクタイを軽く掴む。
逆に引く。
「お前な」
エリオットは楽しそうに笑う。
「怒った?」
チャンスは小さく息を吐く。
「違う」
そして。
少しだけ顔を近づけた。
「飯できるまで待て」
エリオットは目を細める。
「そのあと?」
チャンスは少し笑った。
「好きにしろ」
エリオットは満足そうにまたネクタイを軽く引いた。