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この屋敷にきて数日が過ぎた。
裏山ではハル、トウマは普段の雰囲気と違う花村と”隠れ鬼ごっこ”をしていた。
自分の呼吸ひとつで花村に居場所を突き止められてしまう。
(くそっ)
息を整える隙さえ与えない花村はさっきまでの優しいオーラはなかった。
「見つけた。」
ハルの真横に花村が出てきた。咄嗟に身をかわすも、それを見越したように花村も動きを合わせてくる。
「ハル!」
花村の背後をトウマがとるも、それすらあっさりと躱される。
「もー!2人とも!さっき教えたろ。こうきたらこう!わかる?こう!」
さっきとはうってかわって、いつもの様子の花村が擬音と手振り身振りで教える。
しかし2人はそれどころではない。
息を整えるが同時に息を吸いすぎて頭がぼんやりしてきていた。
「あらぁ、大丈夫?」
「これ、くらい•••。」
負けず嫌いなハルが立ち上がろうとするが、四肢に力が入らない。
「まぁ、総帥の朝練の後だし、しばらく休憩だね。」
花村は2人を担ぎ、持って来ていた簡易マットレスに2人を寝かせた。
体が徐々に重くなり、連日の疲労に任せて2人は目を閉じた。
花村はそんな2人の近くに座る。
「はぁ、やっぱりすごいわ。流石トミさんとトキさんの孫なだけあるな。」
花村は自分の左腕を見る。軽く赤くなっている部分がある。背後をとられた時、トウマにやられたのだろう。
(体力はまだまだだけど、適応するのが早い。素質あるなぁ、2人とも。)
あれから毎日ミズキは叶と掃除を続ける。相変わらず叶は必要最低限の話しかしない。
本来であればミズキも鍛練に参加しないといけないのであろう。
しかし死にたい気持ちは変わらずミズキの心を支配していた。
「ミズキ、そこ。ちゃんと拭いて。」
「はい。」
ひたすら2人で窓を拭く。
「叶、買い物を頼んでいいかな。」
「はい、ご命令とあれば。」
一ノ瀬が叶にメモを渡し、ミズキを見る。
「ミズキちゃんも一緒に行っておいで。」
「え」
「しかし、総帥」
「いいからいいから、気分転換だよ。」
そう言って2人は掃除を中断して街に買い物に向かった。
もちろん車内は無言のまま街に着いた。
2人は目的のものを買いながら歩く。
ミズキはふと軍手が目についた。
(あれがあれば、手は汚れない、怪我もしない。)
叶の服の裾を掴む。
「どうしたの?」
「あれ。」
軍手を指差す。
「•••あれがなに?」
「あれがあったら、汚れない。手、怪我もしない。」
ミズキの視線の先には指先に少し怪我をしている叶の手があった。
「•••気付いてたの•••。」
「だから」
ミズキが言いかけた時、建物が崩壊する音と叫び声がこだまする。その奥から人ならざるものが歩いてくるのが見えた。
「ミズキ、かくれんぼは得意?」
「う、うん•••。」
「上手に隠れるんだよ。 」
叶は手に持っている荷物を起き、人の波に逆らい走り出す。
(死にたい、はずなのに••••。)
ミズキの足が竦む。
逃げたいのに足が動かない。
死にたいと願っていたはずなのに、恐怖が勝ってしまう。
(お母さん、お父さん••••お爺ちゃん•••!)
自分たちの荷物は人に踏まれ、去り行く大人達は自分のことを守るのに必死だ。逃げ惑う声、泣き叫ぶ子どもの声、我先にと罵り合う声。
あの静かな環境とはなにもかも違う。
「ミズキ!」
「!」
喧騒の中聞こえた叶の声にハッとする。
「わ、たし••••私っ••••。」
動けない恐怖、情けない自分、涙で視界が歪む。
「生きたい、まだ死にたくない•••!助けて•••!」
そんなミズキの姿を見て、叶の目が見開く。
“•••まま、たすけて•••。”
懐かしい幼い声と共に走馬灯のように駆け巡る記憶がミズキの姿と重なる。娘を守ろうとして冷たくなった夫と弱々しく手を伸ばす娘の姿が記憶にある生涯最後の姿だ。
重力のまま落ちたその手を掴むことは出来なかった。
「桔梗!力を!」
叶の声に反応するように、その両腕に刀が握られる。
それは一瞬だった。
叶が舞ったかと思うと、その隊服は赤い血で染め上げられていた。
「大丈夫。今度こそ、守ってみせるからね。」
(瓜生さんと一緒。)
叶の優しい眼差しの先にはミズキではない誰かを見ているようだった。
「叶!ミズキちゃんを連れて退け!」
瓜生と花村が率いる部隊が到着し、殲滅に動く。
「しかし!」
「上官命令だ!花村、行くぞ!」
「はい!」
瓜生の命令により、叶はミズキを抱き上げる。
「あ」
「口は閉じて!舌を噛むよ!」
ミズキは必死に叶にしがみつくことしか出来なかった。
あの山道をミズキを抱えて一ノ瀬の自宅に戻ってきた。
叶は一度も止まることなく走っていたが、息をきらしていない。
「ミズキ!」
「無事か!」
ハルとトウマが駆け寄ってくる。
2人を見ると、今まで張り詰めていたものが溶け、ミズキは泣きじゃくる。
「叶、ご苦労。」
「はっ」
叶の敬礼と向き合うと、一ノ瀬はミズキとハル、トウマの前に立つ。
「ミズキ、まだ死にたいか?」
「•••いいえっ•••。」
ミズキは涙を拭いて一ノ瀬の目を見る。
「強く、なりたいです。」
「俺も!」
「僕も!」
「よろしい。」
一ノ瀬は3人纏めて抱き締めた。
その日の夜。
叶は翌朝の仕込みをしていた。
キッチンにはなぜか軍手を置いていた。
「叶、お疲れ。なんかない?」
報告書をまとめ終わった花村が立っていた。
「余り物なら。」
「ラッキー!」
そう言って花村は椅子に座った。
「•••昼間は、ありがとう。助かった。」
「アイツと紅葉ちゃんのこと思い出したんだろ。」
「••••それもお見通しな訳ね。」
「あたり前だろ、アイツと何年親友やってたと思ってんだ。」
温めなおした食事を並べる。
「正直、自分にもびっくりした。子どもが泣いて喚いても助からない場面なんて山程見てきたのに、思い出すなんて。」
「まあな、でもあの瓜生中将も思い出してたくらいだし、よっぽど似てるんだろ。」
花村は「いただきます。」と言うとご飯を頬張る。
「私、復帰することにした。」
「は!?」
「このまま逃げてても変わらない。それに、あの子を守りたいの。」
叶の手には軍手が握られる。
「頼むから、俺の部隊には来るなよ。•••怖いから。」
「失礼ね。ブランクがあるとはいえ、充分戦力にはなるわよ。それに部隊の配属はなし。あの子達の専任になった。」
「そうか。」
花村はどこか安堵したような表情を浮かべる。
「•••まだ死ぬなよ。アイツに合わせる顔がなくなる。」
「お互い様よ。」
2人の会話を廊下で瓜生が聞いていた。
外をしばらく眺めると、瓜生は歩きだした。