テラーノベル
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「……ほんとにさ、そういうとこ、ずるいよね」
エリオットは小さく笑ったまま、動かないチャンスを見上げる。
触れそうで、触れない距離。
その曖昧さが、やけに熱を持ってる。
「来るのに」
ぽつり、と落とす。
「踏み込まない」
チャンスの目が、わずかに細くなる。
「……煽ってんのか」
「うん」
即答だった。
エリオットは、少しだけ首を傾けて笑う。
「だって、分かってるでしょ」
一歩、さらに距離を詰める。
胸元が、軽く触れそうになるくらい。
「俺がどう思ってるか」
チャンスは何も言わない。
ただ、視線だけが強くなる。
それが逆に、肯定みたいで。
エリオットは少しだけ目を伏せて、すぐにまた見上げた。
「なのにさ」
指先が、チャンスの服の裾をほんの少しだけつまむ。
強く引かない。ただ、そこに触れるだけ。
「なんで、そこで止まるの」
低く、柔らかい声。
責めてるわけじゃないのに、逃がさない響き。
チャンスの手が、わずかに動く。
でも——まだ触れない。
その“我慢”が見えるのが、たまらなくて。
エリオットはくすっと笑った。
「我慢してる?」
「……してるな」
「なんで」
少しだけ、顔を近づける。
息がかかる距離。
「壊したくないから、とか?」
一瞬の沈黙。
チャンスの喉が、わずかに動く。
エリオットは、その反応を見逃さない。
「優しいね」
そう言いながら、指先をほんの少しだけ滑らせる。
布越しに、体温を確かめるみたいに。
「でもさ」
視線を絡めたまま、囁く。
「それ、俺が望んでるって思う?」
チャンスの眉が、ぴくっと動く。
「……どういう意味だ」
エリオットは少しだけ考えるふりをして、
「んー」
と曖昧に笑ったあと——
「我慢されるくらいなら」
そのまま、ぐっと距離を詰める。
唇が触れる寸前で止める。
「ちゃんと欲しがられた方がいい」
はっきりと言い切った。
空気が、一気に変わる。
チャンスの呼吸が、明らかに深くなる。
エリオットはそれを感じながら、さらに追い込む。
「ねえ」
「……」
「そんな顔してるのに」
少しだけ目を細める。
「何もしないの、ほんとに無理じゃない?」
わざと、逃げ道を塞ぐ言い方。
チャンスの手が、今度ははっきりと動く。
エリオットの腕を掴みかけて——
止まる。
その一瞬の迷い。
エリオットは、ふっと笑った。
「ほら、また」
小さく肩をすくめる。
「やめる」
「……」
「やっぱり優しいね」
そう言って、今度は自分から一歩引く。
距離が、すっと離れる。
さっきまでの熱が、嘘みたいに抜ける。
その落差。
チャンスの目が、わずかに揺れる。
エリオットはそれを見て、満足そうに微笑んだ。
「——って言いたいけど」
次の瞬間。
また一気に距離を詰める。
今度は、逃がさない速度で。
「ほんとはさ」
耳元に、軽く息を落とす。
「限界でしょ?」
チャンスの手が、今度こそエリオットの腕を掴む。
強く。
逃がさない力で。
そのまま——引き寄せる。
距離が、一瞬でゼロになる。
エリオットの目が、わずかに見開かれる。
でもすぐに、笑う。
「……遅いよ」
小さく囁く。
「ずっと待ってたのに」
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ゆゆゆゆ
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