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彼女と顔を合わせるのが嬉しくもこそばゆい月曜がやって来た。
といっても。彼女と別段話さなければならない事態はなかったわけで、午前十時までは穏便に過ぎていった。
――喫煙室で二岡に話しかけられたのを除けば。
「……三田課長。噂になってますよ。桐島ちゃんにキスマークつけた犯人が誰なのかって」
驚きのあまり、煙草を落っことしそうになった。
「ふーん。誰なのかなね」言いながら煙草の火をもみ消す。不自然な声のトーンにならぬよう意識しながら。
「道中がわけの分からないことを言ってましたよ。でもおれ信じてませんよ」
「わけのわからないってどういうこと?」
「『昨日、課長に抱かれた』ってまあ、桐島ちゃんも冗談言えるようになったなら、一歩前進ですよね。おれも一安心っていうか……」
「本当なら、どうする?」
おれは、敢えて挑発的に二岡を見据えた。
こいつも、桐島莉子に好意を持っていることを、知っている。
社内に広まるリスクよりも、おれは火の種をツブしとくほうを選んだ。
呆気に取られていた二岡が、「あっちゃー」と頭に手をやる。「そうかそうか三田課長なら……仕方がないわな」
「まあ、桐島はおれのもんです。おれはじりじりと三年待ちました。その結果です。後生一生。諦めてください」おれは二岡に頭を下げた。この際、二岡から噂が広まろうが、どうだってよかった。「わーったわーった」と二岡は煙草の火を消す。
「でも。桐島ちゃんの幸せを見守る会は継続ですから」
「それ。どんくらい人数いるんです」
「ん? 二十人くらい?」
「にっじゅ……」人望が厚いのは彼女のほうじゃないか。
それでも。おれは、この話を彼女には内緒にしておこうとこころに決めたのだった。
理由?
独占欲。
そんだけ。
*