テラーノベル

テラーノベル

テレビCM放送中!!
テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

シェアするシェアする
報告する

王宮最奥、王家の秘密を守るために造られた地下神殿――その場所に、王と側近、そして限られた魔術師だけが集められていた。


重厚な扉が閉じられた瞬間、空気が震えた。

薄暗い石壁には古い符が刻まれ、中央には“予言の祭壇”が置かれている。


そこには、黒い薔薇の刻印が浮かんでいた。





「……これが、正式に降ろされた予言だ」


王は深い皺を刻んだ額を押さえながら、硬い声で言った。


側に控えるアレクシスが、祭壇の巻物を開く。

そこには不気味なほど鮮明な文字が刻まれていた。


《黒薔薇は王国を沈める》

《黒薔薇は王家の血を喰らう》




そして、アレクシスは続けて読んだ。


《黒薔薇は最も愛した者の手で朽ちる》




一瞬、空気が凍りついた。


ルシアンは眉をひそめる。

リディアは目を見開き、王は沈痛な面持ちで口を閉ざす。


「……この文は、古代“神譚”の書式と一致します」

魔術師長が静かに言った。

「予言であると同時に、“定められた儀式”の記録とも読み取れる」


アレクシスが巻物を置く。


「つまり――黒薔薇の娘は、誰か“愛する者”に殺されなければならない、ということか?」


言葉は淡々としているが、内に宿る重みは凄まじい。


ルシアンは拳を強く握った。


(最も愛した者……?)


その言葉が、心に刃のように食い込む。


王が静かに立ち上がった。


「黒薔薇とは誰か。すでに分かっておろう。

ランドルフ公爵家の娘、セレナだ」


ルシアンの胸が強く脈を打つ。


「陛下! セレナは何も――!」


「予言は未来を告げるものだ、ルシアン。

罪の有無ではない。

“彼女が存在することで王国が破滅する”というのが神の告げだ」


王の言葉は冷たいが、どこか痛みを含んでいた。

娘のように可愛がってきた少女の名を口にするのが、耐え難いのだ。


だが王国のために、情は切り捨てねばならない――

そういう表情だった。


リディアが口を挟む。


「……ですが、予言には“代替の儀”の可能性も書かれています」


アレクシスが眉を上げる。


「代替?」


「はい。“喰魔の呪いを別の器へ移す”術式です。

極めて危険ですが、セレナ様を殺さずに済む可能性が……」


ルシアンが息を吞んだ。

王はわずかに目を細めた。


「成功確率は?」


「……一割もありません」


沈黙が落ちる。


アレクシスが冷たい声で言った。


「そんな賭けに王国の命運を預けるつもりか?」


リディアは言い返さない。

彼女自身もわかっている。

呪いを移す儀式は“生き残った者がいない”禁術だ。


王がゆっくりと玉座へ戻る。


「ルシアン。お前は……セレナと深い縁を持っている」


「……はい」


「故に、この予言における“最も愛した者”は、お前である可能性が高い」


ルシアンの呼吸が止まった。


王の声は続く。


「セレナが暴走したとき――

あるいは、暴走の兆しが見えたとき。

お前が彼女を討たねばならない」


「……!」


胸の奥で、なにかが崩れる音がした。


アレクシスが鋭く弟を見る。


「覚悟を決めろ。王家の血を守りたくば」


だが、ルシアンは絞り出した。


「――無理です」


誰もが目を見開いた。


「俺には……セレナを殺すことなどできない。

彼女は、ずっと……ずっと俺を救ってくれた人なんです」


王は苦しげに目を閉じた。


「……ならば、王国か、公爵令嬢か。

お前はどちらかを選ばねばならない」


運命の選択が突きつけられ、

ルシアンは言葉を失った。





その頃。


ランドルフ公爵邸の塔の部屋では、

セレナがひとり、黒い魔力に包まれながら膝を抱えていた。


胸の奥が痛い。

理由はわからない。

けれど――嫌な予感がする。


(ルシアン……どうか、無事でいて)


その願いが揺れた瞬間、

部屋中の花が一斉に黒く枯れ落ちた。


不吉な音が、静かに響いた。


王国の破滅を告げる鐘は、すでに鳴り始めている。


黒薔薇の公爵令嬢 ―呪われし血脈と廃国の予言―

作品ページ作品ページ
次の話を読む

この作品はいかがでしたか?

26

コメント

0

👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!

チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚