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(リースでも、人に憧れなんて抱くんだ……)
意外、って言っちゃ駄目かもだけど、リースが人に憧れを抱くことって、そんな感情あったんだ。と、失礼なことを思いながら、リースを見る。でも、その目が本気で、本気でその人を尊敬しているように見えて、私はバカに出来ないなと思った。
私の尊敬する人……っていうのはいないけど、リースにはいたんだろう。
(リースの尊敬する人……って、気になるなあ)
きっと凄い人なんだろうって言うのは予想できるんだけど、リースが心を許すのって、多分一般人とか、芸能人とかじゃなくて、もっと身近な人なんだと思う。彼の、人間不信を考えると、近くの人でないと、彼の心を動かせないのではないかと。
私の予想は合っていたようで、リースは口を動かした。
「年上の……従兄弟がいたんだ。お前も知っているだろう。久遠財閥の御曹司」
「久遠財閥って、あの、三大財閥の!?」
ここに来て、前世の話で驚くなんて思わなかった。
あの、とか、三大財閥とか、まわりの人はちんぷんかんぷんなんだろうけど、私と遥輝の間だから伝わる話だった。
まあ、簡単に言えば、日本三大財閥って、まあお金持ち、財閥があって、その一角に久遠財閥というのが存在している。残り二つもまあ、癖が強かったんだけど、一番、不祥事とかそういう何かがないクリーンな財閥って言うイメージがあったのが久遠財閥だった。思えば、美しい目をひく、人を魅了する赤い瞳、赤系統の瞳を持つ人って、財閥関係……その血筋だったよなあと思った。そういえば、遥輝も赤色っぽい瞳だったし。でも、そこまで気にしたことはなかった。
そんなわけで、凄い財閥の従兄弟、親戚と言うことが今更ながらに発覚し、その話を聞かされているわけだが、取り敢えず、全部はしょってその財閥の、久遠財閥の御曹司と従兄弟、というのが朝霧遥輝らしい。変な話だけど。
「そうだ。久遠財閥の御曹司、久遠夏目。それが、俺の憧れの人だ」
「……俺様って、噂の。ああ、だから」
納得。
久遠夏目って、容姿端麗で、頭も良くてハイスペック過ぎるイケメンって何処かの雑誌の表紙を飾っていたことがあった。モデル雑誌なのに、何で御曹司が? 買収したの? と思ったけど
(別にかったわけじゃ無いから、中身がどんなのだったかは知らないけど)、モデルと見間違えるぐらいには格好いい人だった……それこそ、あの人も二次元から飛び出してきたような容姿をしていた。ただ、性格が難ありみたいな。
高次元すぎて、気にも留めていなかった、なんて思いながら、リースを見れば、本当に凄い人なんだ、と呟く彼をみて、本気で憧れているんだなあっていうのが分かった。誰に憧れるかは自由だし、そもそも、憧れちゃダメなんて言う理由はないわけだし。
「恥ずかしい話だが、俺は、夏目さんを手本にしているところがある。だから、口調や、俺様? がうつったのかもな」
「俺様がうつるって……でも、嫌いじゃないよ。鼻につく俺様じゃないし!」
現実で、俺様か、俺様じゃないか、何て話すことになるとは思わなかった。だって、俺様って、二次元だからこそ許されるんであって、三次元に持ってこられると、ただのナルシストな訳だし。
でも、リースだから、それが許せるって言うか、彼は鼻につくような感じじゃないし、少し強引だけど……って、そこがいいと思っている。寄せているんだ、手本にしているんだって知って、あのリースがとはなったけど。憧れている人に寄せたい、近付きたいって言う思いは、何というか納得できた。
(まあ、二次元と三次元では大きなさがあるけど……)
推しの隣に並びたい! と思っても、次元が違うから並べないし。でも、今は、まさかのまさか、推しの隣に並んでいるわけで。不思議だなあ、なんて感慨深く一人でしみじみとしていると、リースが私の顔を覗き込んだ。赤い瞳と目が合う。
「え、え、何?」
「いや、俺の話ばかりして、面白かったかと思って」
「あ、え、うん。面白かったって!リースのこと知れて、良かった。まあ、ルーメンさんの事は驚きだったし、まさか、リース……遥輝が、財閥関係者と親戚だったなんて……それも知らなかったなあ」
「そう、だな。今となっては、関係無いことだが」
と、リースはふいっと顔を逸らした。
(そうだよね、今……こっちの世界にきているんじゃ、あっちの世界のことなんて関係無いから)
戻れないし、あっちの心配をしても、どうなっているかなんて分からない。私が、あっちの世界で、どんな風になっているかすらも分からないし、もう、あっちの私は死んだ、と言う風に考えるのが良いのかも知れないと、そう思ってしまう。
だって、転生ってこてゃ、死んだって考えるのが普通なんじゃないかと私は思ってしまうわけで。
そこで、ふと、思ってしまったのだ。
リースの、服を引っ張りながら、私は、少し俯き気味に、リースに訪ねた。
「り、リースはさ。もし、私も、ルーメンさんも……私だったらリュシオルと、トワイライト?かな……が、あっちの世界に戻れるってなったら、あっちの世界に戻りたいと思う?」
「あっちの世界とは、前世のことか」
「うん。まあ、リースのことだし、私がいない世界は――とか言うから、私も戻って、自分の大切な人達もあっちの世界に戻る、戻れるって分かったら、戻りたいかなあって」
勿論、此の世界にいる人達は、連れて行けないけど、こっちに転生してきた人は戻れるって言う可能性もないわけじゃないだろうし。でも、リュシオルは、あっちの世界では死んだことになっているから、戻れないかもだけど。
もし、戻れるとしたら、リースは戻りたいのかと思った。色々と条件をつけて。
リースは、少し考えるような素振りを見せたあと、そうだな、と息を吐いた。
「俺は、別にあっちの世界には未練は無い」
「ほんと?私が戻っても?」
「エトワールが、戻るのなら、戻りたいとは思うが……だったとしても、あっちの世界に未練があるかと言われればない、と答えるか」
「そう」
これまた、意外だな、とも思ってしまった。
あっちの世界に未練が無いと、はっきり言うリースを見て、こっちの世界にもう馴染んでしまっているんだなと言うのが伝わってきた。まあ、リースがあっちの世界に戻ったとして、本当のリースが戻って、とか考えると、身体を借りていた身として、色々思うことがあるんだろうな、というのは想像できた。
私も、もし、この身体を捨てて、あっちの世界に戻れるなら、戻るかと言われたら、微妙。その場合、本物のエトワールが私の身体に戻ってくることになるだろうし。
「エトワールはどうなんだ?」
「わ、私?」
「俺だけ答えるのも、あれだろう。お前の事も聞きたい」
と、リースは、私の方を見て、真剣に言ってきた。
答えは考えずとも出ていたし、リースに聞く前から、こう、と答えを出していた。
「私は……私も未練が無いから、戻らない、かな」
「そうか」
と、リースは何処か安心したように言った。その、安堵のため息は何なんだろうな、と考えたが、私は、知らないフリをして、話を続ける。
「ここに転生した皆が戻れるとしても、前世の世界が何処から始まるか分からないし、もしかしたら、記憶を全部無くして、一からスタートかも知れない。それに、私も、此の世界が好きだから、戻る気は無いかな、とかも思っちゃう。あっちの世界がどうなっているのかは知らないけど……知りたいっても思わないけど」
もう、過去の事、戻れない場所だから。と、私はけじめをつけて、此の世界だけを見ているつもりだった。実際それが正解だと私は思うし、戻ろうと思ってここで暮らしてきたわけじゃない。それに、あっちに戻っても、いいことがあるかと聞かれれば微妙だ。
トワイライトと姉妹に戻れるならいいかもと思ったけれど、人生そう上手くいかないのは知っているし。
「って、ごめん、何かくらい話しちゃった」
「いや、いいんだ。興味深い話だったからな。また、一つ、エトワールのことを知れた気がして、俺は嬉しかった」
そう言って、リースはフッと微笑んでくれる。
優しいな、って、その優しさが染みて、心が温かくなった。
私に合わせて、未練がないといったのではないかと思ってしまったが、そんなことないというように、リースは私を見てくれている。それが、何よりも嬉しかった。
私が、そんな風にリースを見ていれば、彼は、何か思い出したかのように、だが、と話を続けた。
「ルーメンの方は戻りたいと思っているかも知れないな」
「ルーメンさん、が?」
そんな風には見えないんだけどなあ……なんて、思っていたが、リースは、少し険しい顔をして、続けた。
「彼奴には、兄がいた。まあ、彼奴の家庭環境も、俺やエトワール並みだったから……な。だが、兄に対しては、それなりに好意を持っていたし、愚痴を言いつつも、兄のことを心配していた」
「お兄さん思い……いい人、じゃん」
ルーメンさんの事、まあ、そもそも灯華さんのことをあまり知らないからあれだけど、と思いながら、話を聞いていた。
リースの、「俺やエトワール並の家庭環境」と言っていたから、複雑そうだけど。というか、私達のまわりが、毒親が多すぎて、何も言えないって言うのもある。普通は、大多数は、親は子供の見本となる存在であるはずだし、そんな大きな問題は起きないって思っているけど、人の数だけ、人生や家庭があるわけだし、私達は何もいえない。私も、理由が理由であれ、親に放置されていたし、リースに関しては束縛されすぎていていた。リュシオルは、自分から親と縁を切ったけど、昔ながらの風習に子供を縛ろうとしていた……という感じか。全て親が悪いとは言えないけれど、子供からしたら毒親だって思ってしまうかも知れない家庭環境。本当に人それぞれだし、考え方やとらえ方の違いなんだろうけど。
(そう思うと、この世界の親の話……あんまり聞かないよなあ……)
リースは、仲悪いとか言っていたけど、他の攻略キャラはどうなんだろうか。とふと思ってしまった。ブライトの所を除けば……かなり、親との関係は良好なのではないかと。
私は、また考え込んでしまい、リースに名前を呼ばれてハッと顔を上げる。
「すまない。色々と話していたい気持ちもあるが、それは、またデートの最中にでも話そう」
「う、うん。楽しまなきゃだもんね!」
そうだ、これはデートだった、と思い出し、私は差し出された手を取った。相変わらず熱い手を握ると、あっちが緊張している、ドキドキしているんだなって伝わってきて嬉しい。同じ気持ちだって気付けるのが何よりも嬉しいな。と私は「行こう」とエスコートしてくれる、リースに手を引かれ、歩き出した。