テラーノベル
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リディアはゾゾの作った蚊取り閃光を眺めながら、工房で考え事をしていた。以前からたまに耳に入ってくる、ヒルの魔物。リディアは実際に見たことは無いが、ある程度の推測はできた。オルトゥスにとっては単純に害悪であり、リディアにとっても同じこと。そのため、魔物の死体を確保すれば、蚊取り閃光で危険を察知できると考えているのだが――
……しかし先日目撃された魔物は、レンザンによって焼き殺されてしまった。その判断は正しかったと思うが、次の機会を考えると悩ましい部分もあった。そもそも、その機会が訪れるということは、誰かが襲われるということだ。しかし、そうならないと魔物の死体は手に入らない。
「……新しい結界は、張れないし……」
リディアは魔法の中でも、結界魔法を得意としていた。全ての往来を禁止する結界は既に扱えるが、特定の何かだけを対象にする結界は難しい。オルトゥスはようやく街として機能し始めたのだから、今はこのままにしなければいけない。
――人間の国に通じる、西の森……以外は。
「散歩ついでに、様子を見てこようかしら」
リディアは気分転換を兼ねて、森に向かうことにした。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
西の森に着くと、ドリアードのひとりがいた。3年前にフェルネが他の土地から呼んだひとりで、今ではすっかりこの土地に馴染んでいる。
「こんにちは。調子はどう?」
「リディア様、ご機嫌麗しゅう。この辺りは誰も来ないので、とても平和で素敵ですわ」
「それは良いことね。でも、誰もいない場所は子供が好きだから。見つけたら、遊びに来ないように注意してね?」
「わかっておりますわ!」
そのまま森の中に入っていくと、徐々に果物が見えなくなっていった。そして森の出口まで……50メートルほどのところで、リディアは足を止めた。ここには彼女が張った結界があり、人間の国へ進めないようになっているのだ。
「……うん、問題ないわね。ここさえ塞いでおけば、西との往来はできないから――」
リディアはそれだけ確認すると、来た道を引き返していった。
「ぼよんっ、ぼよんっ」
「ふははは! やるではないか、スライム!!」
広場に戻ると、キングとヴェルガがいた。辺りには子供もおり、一緒になって遊んでいるようだ。
「ヴェルガさん、人気者ですね?」
身体が大きく、大人は近寄りがたいが――子供にとっては問題ない。ヴェルガもできるだけ頭を下げて、威圧感を出さないように注意をしている。
「吾輩に掛かればこんなものよ。この地の子らを蹂躙してくれるわッ!!」
「ちょっと意味が違うと思いますが、仲が良いことは素敵ですね」
その言葉に、キングもぼよんぼよんと反応する。子供たちも一緒になって、その動きを真似する。
「今日は、ヴェルガさんの歓迎会を行いますので。……ただ、食べ物はお腹いっぱいご用意できないんですよね……」
何といっても、ヴェルガの身体は巨大だ。その胃袋を満たす量の食べ物は、どうしても用意することはできない。
「安心するのだ。元々、吾輩は小食だからな」
「あら、それは意外」
「……吾輩の巣の周りは、餌場があまり無くてな。それに、空気中の魔力を食せば問題ないのだ」
「へぇ、それは便利ですね……」
「代わりに、酒だ。酒をたくさん用意するのだぞ? 昨日の分は、全てドワーフどもと飲んでしまったからな!」
「あの量を……ですか? はぁ、少しランクの下がるものを、大量に造っておきます」
「いや、吾輩の歓迎会ぞ? 昨日の美味い酒を――」
「無理を言わないでください♪」
リディアはピシャリとその場を締め、彼女の家に戻っていった。キングはヴェルガの足元に寄り添い、そっと静かに慰めていた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
リディアは工房に向かい、大量の酒を造った。シオンとデュランに搬出を手伝ってもらい、夕方には歓迎会の準備が整った。多くのテーブルが並び、その上には料理が乗せられている。椅子は用意しておらず、立食パーティ……というより、食べ放題の露店が並んでいるような状態だ。噂を聞きつけた住人たちも、徐々に広場に集まってきている。
「……こう見ると、壮観ね」
「オルトゥスができて以来、祭りなんてのはやってないだろう?」
いつの間にか横にいたデュランが、そんなことを言った。リディアはその言葉を噛みしめてから、しみじみと言葉を続ける。
「そうね……。定期的に、お祭りもするようにしようか?」
「普通なら、収穫祭をやると思うんだけどな」
「デュランが頑張ってくれたから、収穫は毎日だったものね」
「リディアの農薬とか、栄養剤があったればこそ……なんだけどな?」
デュランはおかしそうに笑った。自分のことを棚に上げて――……それはデュランが、ずっと言いたい言葉でもあった。
「リディア様の挨拶は、無いんですか?」
ふと、シオンがそんなことを言ってきた。確かに挨拶が無ければ、集まった人も何をして良いのか分からない。リディアは広場の噴水の縁、少し高いところに上がって、全員の注目を集めた。本日の主役であるヴェルガは、のっしのっしとリディアの横に移動する。
「――みなさん。今日はお集まり頂き、ありがとうございます。今回は……こちらのファイアドラゴン、ヴェルガさんの歓迎会になります。本来であれば、どなたが移住してきても歓迎会は行いたいのですが――」
そこまで言うと、リディアはヴェルガの方を見た。
「……ヴェルガさんは、強面でしょう? だから今回は特別に、懇親会の意味での開催となりました」
住人たちから笑いが零れる。ただ、ヴェルガだけは微妙な顔をしていた。
「まぁ……、困ったことは吾輩に任せておくがいい。しかし面倒事は、火トカゲのレンザンに持っていくのだぞ?」
ヴェルガも笑いを取ったが、住人たちの中から凄まじい圧を感じた。恐らくは、その辺りにレンザンがいるのだろう。
「まぁ、適材適所ですね。それではみなさん、食事とお酒を楽しんでください。子供のみんなは、ジュースをたくさん飲んでね」
「はーいっ!!」
「わーい、ジュースだぁ~っ!!」
リディアが噴水の縁から下りると、顔をキラキラさせたシオンが彼女を迎えた。ちなみにヘルミナは、少し離れたところで早速食べまくっている。さすがに人数が多いので、誰がどこに――というのは把握しきれない。しかし見知った顔は、どこかしらにはいるだろう。
「まぁ……ベロニカは、こういうのは苦手そうだけど」
全員が全員、祭りが好きなわけではない。あとで何か差し入れでもしようかな……と、リディアは思った。人口が1000人を超えた今、全ての人を満足させるのは難しい。それならば、きめ細かなフォローをしていけば良いだけだ。
キングはいつも通りぼよんぼよんと揺れており、その横ではシャロンが綺麗な歌声を披露している。ドワーフたちは賑やかに酒を囲み、エルフたちは楽しそうに食事を囲んでいる。いつの間にか、獣人たちも――猫、犬、羊、牛……と、様々な種族がこの地に集まって来ている。レンザンはそんな彼らの中心におり、良い話し相手になっている。アルマは珍しく、デュランと話をしている。
人数はまだ、街としては多くはない。ただ、それにしては様々な人たちが集まってきたものだ。
「――この場所は、守っていかないと」
リディアは暗くなっていく空を見上げながら、ひとりで……そんなことを、決心した。
しめさば
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コメント
1件
うわ、今回もすごく良かったです…! 結界の話とヴェルガさんの歓迎会が並行してて、リディアの「守る」って決意が静かに重く響きました。特に、誰もいない森の結界と、子供たちが笑う広場の対比が切なくて。ヴェルガとキングのやりとりも可愛かったし、あの「酒だ酒だ!」って駄々こねるところにすごく愛着湧きました。リディアが「この場所は守っていかないと」って言うシーン、心に刺さりました。また次も読みたいです…!