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「なるほど……旦那様か。妻、いや、側にいる間柄でも、やはり、旦那様なのか」



「はい、旦那様ですから。どのようなかたちであれ、お受けした以上、旦那様です」



「……どのようなかたち?」



「私のような者が、世に名の通ったあなた様と釣り合いがとれるはずもなく、ましてや、ご立派な、武将ならば、奥方様、そして、側室様も……いらっしゃるものでしょう」



何故か、私は、臆することなく、胸のうちをさらけ出していた。それが、事実、そうゆうものだと、御屋敷勤めで身に染みていたからかもしれない。



何しろ、御屋敷の旦那様は、金の力に任せ、やりたい放題。勤める女達は、泣き寝入りしてばかりだった。


私は、病気持ちだと、嘘をつき、かろうじて、旦那様から逃げ切っていた。ただ、尾ひれがついて、人に移る病だとか、話が独り歩きして、私は、厠の掃除など、人の嫌がる仕事を押し付けられていた。



「……一人前になって、それからだ、と、思い、がむしゃらに私は勤めた。手柄を立てようと、人一倍努力した。しかし、それが、あだになったかもしれない。家族を持てるようになったら……」



なにやら、言い含む男の気をまぎらわせようとしてか、白馬が急に駆け出した。



「こ、こら、白龍!!」



男は、手綱をさばくが、馬は言うことを利かず、自由に駆けて行く。



「仕方ない。私につかまりなさい

。屋敷に帰ってから、話をしよう」


言うが早いか、男は、自分の前に乗せている私に抱き寄せるかのよう、しっかり腕を回した。



「しばらく、辛抱してくれ、じき、屋敷に着く」



私は、男の胸の中で頷いていた。


そして、同時に男の鼓動も捕らえていた。高鳴っているものは、異常に早かった。


それは、私も同じで、まるで男のものが移ったかのようだった。



ふと、見上げた先には、愛馬に振り落とされまいと、手綱を握る、ひきしまった顔があった。


武将のものでもなく、幼馴染みのものでもなく、それは、紛れもなく家族を守る、夫の顔──。



「趙雲様……」



私は、その名を、つぶやいていた。

乱世の刀自(とじ)

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